再会

Mari Tsuchiya
exploring the power of place
5 min readFeb 18, 2017

凍てつくような寒さの中、私は横浜市洋光台の北団地を歩いていた。そういえば、2年前もそうだった。この団地の建物の間をすり抜ける風はとても冷たくて、痛かった。

所属する研究室の「団地の暮らし」というグループワークで、このまちに通っていたのは2014年秋から冬にかけてのこと。当時、大学2年生で研究室の新入りだった私は、3年生の先輩2人と同期1人と一緒に、ここで、あまりにも素敵で忘れられない出会いをした。

2年前の井戸端会議の様子

私たちが出会ったのは、火曜日と金曜日の14時頃、団地の一角、高層棟の入口脇に集まって話し込む4人のおばあちゃんと1匹のネコ。団地を歩いていた際、偶然、目にしたその光景に惹かれて話しかけると、彼女たちは私たち4人を孫のように受け入れてくれた。そしてそれから半年間、私たちは毎週金曜日にこの井戸端会議に顔を出すようになった。

この場は、移動販売の野菜売りを営むモトコさんの車が来るのを合図に始まり、コーヒーとおやつを片手に他愛も無い会話を楽しむ。まちの話、料理の話、空の話…好きなだけ好きな話をして盛り上がる。次第に、私たちもあだ名で呼ばれるようになり、自然と溶け込んだ。モトコさんが金曜日に用意してくれるおやつは、いつからか4個から8個になり、いつも寒そうな格好をしていた先輩は、イソベさんというおばあちゃんからマフラーをプレゼントされた。ニシハラさんというおばあちゃんの娘カナコさんは、アクセサリーなどをくれるようになった。こうして、いつしか課題であることを忘れてしまうくらい、私たちの仲は深まった。

しかし半年後。少し遠いこの場所に、ずっと通いつづけることは出来ず、お別れの時はきた。最後の井戸端会議には、お揃いのネコのストラップをプレゼントして「またいつか来ます」「いつでもいらっしゃい」と言葉を交わし、その場をあとにした。

それから2年。大学4年生になった私は、どうしても、卒業前にあのおばあちゃんたちに会いたくなった。そこで、一緒に通っていた同期の子と、2017年2月7日火曜日の15時、思い出の場所を訪れた。連絡先は交換していないので、必ず会える保証はないけど「火曜日の午後」という時間だけを頼りに、2年前と同じ光景に出会えることを期待した。

誰もいないあの場所

不安な気持ちを胸にあの場所に着くと、そこに、おばあちゃんたちの姿は見当たらない。「今日は野菜売りが休みだったのかな」「時間が遅かったかな」と色々と想像を巡らせても、諦めきれなかった私たちは、お宅を探し始めるとすぐに「イソベ」と書かれた表札を見つけた。そして勇気をだしてインターホンを押す。「はい。」と応えたのは男性だった。緊張まじりに「こんにちは。2年前、お世話になった慶應大学の学生です…」というと、彼は扉をあけ「あ〜野菜売りのところに来ていた子たちね。ちょっと待ってね。」といって、奥さんを呼んだ。

扉から出てきたイソベさんは、私たちの顔をみるなり「あら!どうしたの!会いにきてくれたの?!」とマスク越しに笑顔をこぼした。「エビナちゃんは卒業した?タイシくんはあのマフラーしているかしら?時々あなたたちが来ているんじゃないかと思ってたのよ…来てくれてありがとう。会えてうれしいわ。」止まらないおしゃべりは2年前と全く変わらない。私たちの名前も話したこともよく覚えてくれていた。

話を聞くと、あの井戸端会議は、私たちが去った2ヶ月後、野菜売りの市場がなくなった関係で、解散したらしい。それでも、おばあちゃん同士は連絡をとりあっているようで、この日も、ニシハラさんに私たちの再訪を知らせてくれた。再会して早々、ニシハラさんは「よく来たね!カナコから預かっているものがあるからちょっと待って。」と急ぎ足で一旦家に戻った。そして、再び現れた彼女から渡されたのは、カナコさんが作った1人ひとりに向けたメッセージ付きのアクセサリーだった。最後の井戸端会議のあと、「もし、また学生たちが来たら渡して…」と託されていたものらしい。2年の月日を経てそれを手にした私は、うれしくてうれしくて泣きそうになった。こんなに想ってくれていたなんて再会できてよかった…と心から思った。

帰り道、私たちは、来てよかったね、うれしいねと思い思いに言葉を発して、おばあちゃんたちの姿が見えなくなるまで大きく手をふった。辺りは暗くなり、からだは芯から冷えてきっていたけど、心はいつまでもあついままだった。

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