変わってしまうこと

Ayaka Sakamoto
exploring the power of place
4 min readOct 19, 2019

「宝石箱のようにキラキラしたところ」それが私の中での恵比寿のイメージだった。

初めて恵比寿に訪れたのは、6年前。当時関西に住んでいた私は家族旅行で東京にやってきて、恵比寿に食事をしに出かけた。地方育ちの私にとって、大都会東京の、それも恵比寿という街に行くことは緊張を伴った。旅行が決まってから、毎日のように授業そっちのけでスケジュール帳の一番後ろのページにある東京の路線図を眺め、これから向かう東京に思いを馳せていた。

旅行当日、恵比寿には山手線に乗って向かった。到着するまでのあいだ通りすぎる駅が、卓上でずっと眺めていたあの紙に印刷された文字たちと同じであることに気持ちが高ぶっていた。「ああ、今東京にいるんだ!」と改めて実感した。そうこうしているうちに「次はえびすです」という車内アナウンスが流れ、急に心拍数が早くなった。到着し、駅に降り立つと赤レンガを基調としたホームが出迎えてくれた。発車メロディがヱビスビールのCMに使用されている曲であることに気づき、着いたそばから恵比寿らしさが溢れている様に圧倒された。駅を出ると、ドラマ『花より男子』でロケ地として使われていた「恵比寿ガーデンプレイス」が見えてきた。ずっと画面の中で見ていた場所が目の前にあることが嬉しくてたまらなかった。そこでの記念撮影は後にとっておき、閑静な街を嬉々としながら歩いていると、目的地であるレストランに着いた。

その店は小さなオフィスビルの一階にあり、店内は白色ベースで照明が明るく、初めて行く恵比寿の店ということもあって、とても輝いて見えた。二品目に運ばれてきたそのレストランのスペシャリテだという「野菜のパフェ」が私のこれまでの人生で一番衝撃的なものだった。まるで宝石箱のように鮮やかで、キラキラと輝く料理にうっとりしてしまい、食べるのがもったいない上、どこから手をつけていいのか分からずなかなか食べ始めることができなかった。これまで食べたことのないような味で、惚れ惚れするほど美味しかった。そのあとに続々と別の料理が運ばれてきても、ずっと余韻が残り続けていた。それ以降、私の中でその野菜パフェの印象が恵比寿のイメージと結びついていた。「宝石箱のようにキラキラと輝くところ」それが恵比寿であり、特別な場所になった。

これは2017年4月に訪れた時の写真

その後も、その店には何度か訪れた。オープンキャンパスに行った日、大学の入学式の前日など、私にとって大切な日を節目に行くことが多かった。毎回恵比寿は輝いて見えて、初めて訪れた時から何年間とずっと特別な場所で、その気持ちはこれからも続くものだと思っていた。

大学入学とともに上京し、恵比寿から電車で10分と近い場所に住むことになった。恵比寿駅を乗り換え場所にすることが増えた。また運良く、中学からの友人も恵比寿の近くに住んでおり、彼女とご飯を食べるときは恵比寿に行くことが多くなった。恵比寿全体を知っている訳ではないけれど、こうして関わる機会が多くなればなるほど、私の生活の一部になってしまったようで、恵比寿という場所に何の感情も抱かないようになっていった。そして、そのことにさえ気づかずについ最近まで過ごしていた。

大学の研究室のフィールドワーク先が恵比寿に決まり、恵比寿という場所について改めて考える機会があった。恵比寿と自分との間にあるこれまでの関係を振り返った時に、初めて訪れた時に覚えたトキメキなど、忘れてしまっていた大切な日の思い出が次々に湧き上がってきた。そしてこの時にやっと自分が恵比寿に対して輝きを感じなくなり、感情を失ってしまっていたことに気がつき、少し悲しくなってしまった。

私たちは、何であっても関係性が近くなるにつれて、それが自分にとって当たり前だと思い、自分の一部とまで勘違いしてしまう。初めに感じた鮮やかな気持ちも時間が経つごとに曇ってしまい、だんだんと見えなくなってしまう。日々多くの物事に触れ合ってるから多少は仕方がないのかもしれないし、変化することは避けられない。けれどこれからは、ふとした時に立ち止まって、一つひとつのことと自分との間にある大切な気持ちや思い出を振り返って確認していこう。そしてその上で新たな気持ちを受け入れ、変化を楽しもうと思う。

今はもう恵比寿に対してあの時のような高揚感を覚えることはない。けれども、やはりどこかしら特別で大切な場所には変わりないのだ。

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