大学生がつくる『地域の夏まつり』

Kazuki Nishizaki
5 min readJul 10, 2016

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キャンパス内をまわる御神輿

7月2日、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(以下「SFC」という。)にて、SFCの学園祭の1つである七夕祭が開催された。SFCが開設された1990年から毎年開催されている七夕祭は今年で27回目を迎えた。気温30度を超える真夏日の中、多くの来場者で賑わっていた。

大学の学園祭というと、慶應義塾大学三田キャンパスの三田祭や早稲田大学早稲田・戸山キャンパスの早稲田祭が全国的には有名だろう。芸能人のゲストを招いたり、ミスコンが開催されたりと、多くのメディアでその様子が取り上げられ、学園祭の華やかさや賑わいを伝えてくれる。それらの学園祭に比べると、七夕祭は少し地味で落ち着いた学園祭かもしれない。

キャンパス内に組まれたやぐらと盆踊りをする人々

七夕祭の大きな特徴の1つは地域密着に重点を置いているところだろう。大学側からの金銭的な援助を一切受けることなく、地元企業や地域住民から協賛金をもらうことで、七夕祭という『地域の夏まつり』をつくり上げているのだ。そのようにして開催される七夕祭は、当日になるとキャンパス内にやぐらが組まれ、縁日や露店が立ち並ぶ。御神輿などが担がれ、本物の夏まつり気分が味わえるようになっている。子供から学生、年配の方まで、浴衣を着た来場者も多く、夜には学生の手によって花火が打ち上げられる。

実行委員と地域のこども達

大学1〜2年生が運営をしている七夕祭だが、私自身昨年まで七夕祭をつくり上げる実行委員の1人として活動していた。今年からはOBとなり、1人の来場者として七夕祭を楽しんだ。その中で、地域住民の方との素敵な出会いがあった。

私はOBとしての参加だったのだが、実行委員の手伝いとして夕方から夜にかけて七夕祭のフィナーレに打ち上げられる、花火の警備を行っていた。警備をしていると、1人の男性が近づいてきた。70代半ばといったところだろうか。通行禁止であることを伝えようと男性の方へ1歩近づいたところ、男性から口を開いた。

「大丈夫、わかってるよ。ここが一番綺麗に見えるだけなんだ。」

この男性が初めて七夕祭に来たわけではないことが、その言葉を聞いてすぐに分かった。実行委員として七夕祭を運営している時は、来場者と会話をする機会などなかった。貴重な機会だと思い、私は続けて話しかけていた。 SFCが開設された1990年よりも前から、キャンパス周辺に住んでいるというこの男性は様々な話をしてくれた。

男性は、たくさんの木々に囲まれ、車があれば海にも出ることができるという、このまちが気に入って引っ越してきたという。当時は大学も何もなく、自然でいっぱいだった。大学ができると聞いた当初は不安だったという。大学ができると緑が減ってしまうのではないか。学生のマナーは大丈夫なのだろうか。様々な不安から、男性はSFC開設には否定的だったそうだ。しかし、あれよあれよとキャンパスができ上がり、26年前にSFCが開設された。どんなものかとSFCに足を運ぶと、男性は驚いたという。キャンパスはシンプルで美しい。緑も多くて風通しもよい。最寄駅がキャンパスから少し離れていることもあり、学生のマナーの悪さが目立つこともなかった。いつの間にか、男性はSFCをまちの一部として受け入れていた。七夕祭には第1回から足を運んでおり、地域の夏まつりの1つとして楽しみにしているという。昔は徒歩10分で来ることができたキャンパスだが、今では途中休みながら30分かけて歩いて来ているそうだ。

どの時代も、大学または大学生と地域住民とのトラブルや確執は生まれてしまう。最近も某大学と地域住民が騒音を巡って、学生の通学路の変更をするか否かでもめているというニュースを見た。もちろん地域住民の中には、我が子のように私たち学生を可愛がってくれる方もいるが、一方で、あくまで“よそ者”だと思っている方もいる。“よそ者”である私たちは、自分たちから積極的に地域住民と関わっていく必要があるように思う。学生と地域住民が接点を持つ機会はそうないかもしれない。しかし、こういう地域の夏まつりが年に1度開催されている。こういう機会だからこそ学生同士だけではなく、地域の方々とのコミュニケーションも楽しんでほしいと思う。

数年ぶりに晴天の中で迎えた七夕祭の夜、とても綺麗な花火が大きな音を立てて打ち上がった。男性は満面の笑みで手を叩いていた。

「また来年、同じ場所で花火を見よう。」そう思った。

露店が立ち並び、来場者で賑わう

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