彼女の背中

Saki
exploring the power of place
4 min readOct 19, 2019

恵比寿は、故郷でもなければ、何度も通ったことのある場所でもない。

でも、私にとってここは確かに特別な場所である。

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2019年3月。私は憧れの人から食事の誘いを受けた。その連絡を受けた時、私はワクワクしたような、でも少しそわそわしたような不思議な気持ちになった。

彼女との出会いは、私が高校1年生のとき。2015年11月30日。今でも明確に覚えている。あのときの衝撃は忘れられない。彼女は、母親に連れられて行った塾の校舎長で、当時年齢はわからなかったが第一印象はとにかく若いということだった。(のちにわかったことだが、当時は30代後半だったという。) そのあと、話をしていく中で私は彼女が放つ、今まで出会ったことのないようなオーラにどんどん引き込まれていった。それからの高校生活、私はずっと彼女の背中を追いかけながら過ごした。その後大学に入学してからは、ご縁もあって彼女とともに働けることになり、先生と生徒という関係から、上司と部下…というよりも、同じ職場で働く仲間という関係へと変わり、今まで見えていなかった彼女の新たな一面を見た。今までは、私をはじめとして周りにいる人を包み込んでくれるような、可愛らしくありながらとてもおおらかな印象だけだった。しかし、ともに働くようになってからは、彼女の仕事に対する姿勢を目の当たりにした。立場にとらわれず奇想天外なアイデアもどんどん実行し、そして何よりその仕事を楽しみながら取り組んでいる、そんな姿勢。ますます私は彼女の魅力に惹きつけられ、憧れの気持ちは増していった。

そんな彼女が、この職場を辞めることになったと聞いたのは今年の2月だった。憧れの人の背中をただひたすら追いかけてきた私は、目の前にあった背中が急にどこかへ消えてしまって、どこに向かって走っていいのかわからなくなった。

そして3月。どの方向に行っていいのかわからない不安な気持ちは消えないまま、彼女から食事の誘いを受けた。初めて職場の枠を超えて食事に行くため、ワクワクする気持ちもありながら、とにかく私は緊張していた。恵比寿ガーデンプレイス内にある高級感のあるお店も、私の緊張を増大させたのかもしれない。そんな中で、私たちは食事を始め会話を進めていった。私は、彼女に今まで聞いたことがなかった質問を思い切ってぶつけてみた。今まで生きてきた中で大変だったこと、今後の社会で本当に求められる人材とは何か、そして、なぜ企業の上層部にいる40代前半というこのタイミングで辞職したのか。最後の質問に彼女はこう答えた。

「そろそろ次のステップに進む時かなと思って。日本の教育の未来をつくっていくためには新たな環境に移る必要があるから。」

この言葉を聞いて私はハッとさせられた。彼女は壮大な「ビジョン」を実現するために、惜しみなく挑戦し続け、そして常に成長をしているのだと、本当の意味で気づかされたのだ。

彼女のように、誰よりも挑戦を続ける人でありたい。その日から、私は仕事や勉強など日常のあらゆるものへの取り組み方が大きく変化した。彼女の背中は見えなくなってしまったが、はっきりと自分が進んでいくべき方向が見えた気がした。

そして時は経ち、10月。大学のゼミで行うフィールドワーク先が恵比寿に決定した。フィールドワーク初日に私は、またあの場所に足を運んでみた。しかし、そこは私の記憶の中にあった場所とはすっかり変わってしまっていた。彼女をイメージした花束を買った思い出深い花屋や、そわそわしながら彼女を待っていたベンチは、もうそこにはなかった。心にぽっかり穴が開いたような気持ちになった。

ただそれと同時に、なんだか「次のステップへと進め」と言われているような気もして、私は思わずフッと笑った。

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恵比寿は、故郷でもなければ、何度も通ったことのある場所でもない。

でも、私にとってここは確かに特別な場所であって、いつでも自分の原点に立ち戻れる場所であるのだ。

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