恵比寿で妄想する

Shizuku Sato
exploring the power of place
4 min readOct 19, 2019

恵比寿といえば、頭に浮かんでくるのは恵比寿ガーデンプレイスくらいだった。ものすごく雰囲気の良い映画館に行ったことが二、三回ある程度。だから、恵比寿の第一印象は、「おしゃれ」だった。無駄がなく、すっきりとした街。どこか欧州すら感じさせる建物たち。ドラマのロケ地・憧れのガーデンプレイス。名前の響きも、私にとって全てが完璧だった。

先日久しぶりに恵比寿に行った。ガーデンプレイス側ではない出口から出ると、想像もしていないほどの人の数に開いた口が塞がらなかった。まさか昼時の恵比寿にこんなに人がいるとは。そして、駅のホームから出て一歩踏み出すと、想像したこともない恵比寿ワールドが広がっていた。それは、洗練されたオシャレからずれた雑多な景色。安い食事処やタバコ屋などが見える。渋谷みたいに高層ビルが乱立しているわけではないが、年季の入った10階立てくらいのアパートが、わずか10〜50cmほどの距離感で並んでいる。アパートには、歯医者やカフェ、バル、マッサージ屋などのお店と、一般の人の家が混ざっていてとても異様な感じがした。一歩大通りから外れた道に入ると、良い雰囲気のお店が立ち並ぶ。お酒を提供しているお店が多そうだから、夜に活気のある街なのかもしれない。恵比寿の意外すぎる一面を見て、妄想のスイッチが入ってしまった。

シャインマスカットをお店の前で堂々と育てているのは、ご主人ではなくて女将さんの仕業だ。お客さんからもらったシャインマスカットを食べてその美味しさに感動し、女将さんは急に思いついた。「タネを植えれば生えてくる。果物だもの。生えるに違いない」そうしてタネを買いに行ったが、苗しかなかったので苗を購入。思ったより苗が大きかったので、単なる花壇では入りそうもない。そうして青い土管を半分にして土を入れて苗を植えたのだ。植えてから一週間と経たずに、シャインマスカットは忘れられたのだけれど。女将さんは、たまにお客さんに言われてその存在を思い出す。

まだあまり成長していなかった。植えたばかりなのだろう。

家族6人全員の苗字と名前が縦書きで並んでいる郵便受け。父(57)母(56)、母方の祖母(87)、長男(32)、長女(27)、次女(23)という家族構成だ。父は自営業で家で仕事をし、母は歯科衛生士。祖母は家で韓流ドラマを見て一日を過ごしている。長男は結婚する気配はないが、おばあちゃんっ子で優しい。長女は、丸の内で金融系の会社に勤めており、見た目は華やかだが真面目で、彼氏との結婚にも慎重。次女は、中学校の先生になったばかり。担当科目は国語で毎日夜遅くまで授業の準備をしている。この家族、必ず土曜日の夜は一緒に食卓を囲む。恵比寿に住んでいることがこの家族の誇り。

十字路の真ん中にある、小さくて古いけれど存在感のある神社。そこにはいつ書かれたのかわからない古い絵馬があった。「明日オープンする店が繁盛しますように。」絵馬を書いた彼は、恵比寿様が祀られているこの神社に毎日参拝に来ている。奥さんと子ども1人の3人家族。二年前に脱サラして、好きな日本酒のお店をやることに決めた。神社は、お店の出店が決まる前、恵比寿で道に迷った時に偶然見つけた。その翌週に恵比寿に出店することが決まったのだから、縁を感じずにはいられなかった。それ以来、彼は必ず1人で夕方に参拝に来る。

ああ、頭の中が妄想でいっぱいになっていく。恵比寿には、思わず物語を想像してしまうことで溢れていた。こんな街だったっけ 。ガーデンプレイスしか知らなかった時は、こんな想像できなかった。けれど違った恵比寿に出会い、そこに生活者の気配を感じた時、想像を膨らませるのはあまりにも容易かった。良い意味で印象を裏切ってくれた恵比寿、これからも期待してるぞ。

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