時の流れを味わう

Saki
exploring the power of place
4 min readDec 19, 2019

母の誕生日ということで、とあるお寿司屋さんに父と母、そして私の3人で訪れた。予約したのは、約4年前。父と母は以前にも来たことのあるお店だったが、私は今回が初めてだった。ハタチになった記念に私も連れて来てもらった。

お店はものすごく狭くて、3人が座ってギリギリぐらい。すぐ目の前に厨房があって、大将との距離も近い。お店にメニューはなく、大将が毎朝豊洲市場までバイクで行って食材を調達し、その日採れたての新鮮な食材でコースメニューを提供してくれる。こんなお店に来たのは初めてで、とにかく私は緊張していた。

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最初は、父と大将がお互いの近況などを報告し合う。何と言っても前回来たのは4年前。話は盛り上がる。そんな中、私は未だ落ち着かず、とにかく笑顔で相槌を打つことしかできなかった。しばらくすると大将が「さて、」と場面を切り替え、「お飲み物は何にしましょうか。」と尋ねてきた。父は「じゃあヱビスビールで」と答えた。私はハタチになっていたものの、未だビールの苦みを美味しいとは思えず、普段は全く飲まない。しかし、今日は特別な日。気恥ずかしさを覚えながらも私は思い切って「一口ちょうだい」と母に言い、飲ませてもらった。

…うん、特別な日であろうともやっぱりビールはビールだ。私にはまだ早かったようだ。

ただ、そんな様子を見て父と母が少し嬉しそうな顔をしたことを私は見逃さなかった。

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そんなこんなで、私たちの食事の時間は始まっていった。大将の手の込んだ一品一品が出てくる。まずは、エビとマグロの刺身。一口食べて、「美味しい〜」と隣に座っている母と目を合わせて言う。すると大将は照れくさそうに「ありがとうございます」とはにかむ。次に出てきたのは、マグロの刺身と七輪。自分自身で好きな具合に火を通して食べるという新しい一品。「これぐらい焼くと美味しいよ」と家族の間で自然に会話が生まれる。この美味しさとともに、この辺りで私の緊張はようやくほぐれ始めた。一品一品時間をかけて丁寧に作ってくださるので、次の料理が出てくるまでに時間が生まれる。以前来た時から年月が経っていることもあって、私たちは自然と思い出話に花が咲いていく。

「4年前は、高校に入学したてで進路についてたくさん相談したよね。」

「小学生の時、しょっちゅう兄弟喧嘩して大泣きしてたよね。」

「膝の上で収まるぐらい小さかったのに、こんなお店に一緒に来れるようになるとはね。」

一品一品出てくるたびに、その思い出話は深いところまでいって、「そういえばあの時…」と初めて聞いたような話まで飛び出した。私自身の成長や、時の流れを噛みしめながら、何とも味わい深い時間が過ぎていく。最初はとても居心地がいいとは言えないような空間だったが、最終的には初めて訪れた場所であるのになんだか懐かしさを感じる心地よい不思議な空間へと変わっていった。

そしてあっという間に最後の一品。楽しい時間は一瞬だ。最後に出てきたのはアナゴの握り。想像をはるかに超える美味しさで、思わず笑みが溢れた。すると大将はやっぱり照れくさそうに「ありがとうございます」とはにかむ。

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料理の美味しさはもちろん、大将の気さくな様子、そして思い出を振り返って懐かしさすら感じさせる空間が、多くの人を魅了し、愛され続けているのだと私は思う。次来た時には、ビールの似合う大人になっていたいな。その時にはどんな思い出話が出てくるのだろう。

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そう思いながら次回の予約をお願いすると、

申し訳なさそうに「一番早くて2026年になります」と大将。

…なんと7年後。想像以上の答えに私たちは思わず大笑いした。

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