最後のひとすすり。

ぶらり散歩 湘南台編①

Yusuke Haga
exploring the power of place
5 min readJun 23, 2016

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あお屋珈琲店のブレンドコーヒー

僕は散歩が好きだ。散歩はいろんなものが見られる。自分とは全く違う価値観や生活をしている人の暮らしを感じられる。 人々の生活の痕跡からそれぞれの人生のドラマが想像出来る。すると、平凡な日常がドキドキとワクワクにあふれているように感じられてくるので、散歩はいい。

今回は自分の住んでいるところでぶらり散歩をして出会ったお店「あお屋珈琲店」の話をしようと思う。大学1年生の秋、とりたての免許で運転の練習がてらレンタカーを借りて、江ノ島までいった帰り道のことだった。普段通らない自分の住んでいる場所とは少し離れた場所を車で通った。そこで、ちらっと「あお屋珈琲店」が車の中から目に入った。「家から少し離れた場所に雰囲気の良さそうな喫茶店があるのだな。今度行ってみようかな」そんな印象を持った。

それから行くことなく月日が経ち、研究会の先輩が湘南台付近に素敵な珈琲店があるという話をしていた。はじめはそれが「あお屋珈琲店」とは知らなかった。気になったので、お店を聞いて検索をかけた。そこで初めて1年生のときに気になっていたお店が「あお屋珈琲店」であるということがわかった。これは行くしかないと思い、散歩がてら「あお屋珈琲店」に行くことにした。

あお屋珈琲店の看板
あお屋珈琲店の店内の様子

近所の川沿いの道を歩いて行くと、「あお屋珈琲店」があった。お店に入ると、雰囲気の良い空間が広がっていた。置いてあるインテリア、かかっている音楽、どれからも店主のこだわりを感じた。

僕は、居酒屋にしても喫茶店にしてもバーにしても一人のときは、お店の方と話しながら食事や飲み物を楽しめるので、なるべくカウンター席に座ろうと思っている。今回もカウンター席に座った。ブレンドコーヒーを頼んだ。コーヒーがでてくるまでの間、店内を眺めたり、置いてあったコーヒーの雑誌を読んだりして過ごした。コーヒーを淹れている様子は非常に丁寧だった。コーヒーカップにお湯をいれ、コーヒーを淹れるためのお湯の温度を測り、丁寧にドリップしていた。その姿はまさにプロだった。

コーヒーを飲んでいる途中に、思い切って白い髭をたくわえたダンディな雰囲気の店主に話しかけてみた。最近コーヒー牛乳を卒業して、ようやくブラックコーヒーが飲めるようになったというような話をすると、ダンディな普段の雰囲気とは違って少年のような優しい笑顔で嬉しそうにコーヒーのことをいろいろ教えてくれた。コーヒーを煎るときの天気や湿度、店主の体調によって、同じ豆を使っていても味が変わること。変わると言っても美味しいと感じる中での変化で、それがコーヒーの面白さの1つでもあるということを教えてもらった。その他にも、コーヒーはゆっくり飲むとコーヒーの温度が変化して味が変わるということを教わった。だから、コーヒーはゆっくり飲んで味の変化を楽しんでほしいと言われた。最初のブレンドコーヒーはいつも飲んでいるようにさっと飲んでしまったので味の変化にも気づけず申し訳ない気持ちになった。僕のやってしまったという感情が表情にでていたのか、店主がコーヒーのブレンドの試飲をするからよかったらどうかと誘ってくれた。せっかくの誘ってもらったので、ブレンドの試飲を一緒にさせてもらった。そのときに、ドリップの仕方で全然味が違うことを教えてくれるために、お湯の量を多めにしたもの、ドリップの最後の苦味の部分だけのもの、そして丁寧にドリップしたものの3つを飲み比べさせてもらった。言わずもがなであるが、前者2つは決して美味しいとはいえなかった。しかし、最後に淹れてくださったコーヒーは初めてこれが美味しいコーヒーなんだと思うものだった。最初の一口は、コク深い味わい。しばらく時間を置くと店主が「そろそろ味がかわった頃ですよ。飲んでみてください」と声をかけてくれた。すると確かにコーヒーに味が変わっていた。今度は酸味が強くなったのだ。今まで感じたことのないコーヒーの奥深さに感動した。さらに時間を置くと、酸味が消えまた違うコク深さを味合うことができた。砂糖やミルクを入れずに一杯のコーヒーで3つの味を味わえることにただただ感激した。

コーヒーが残りわずかになったとき店主が、マグカップを拭きながらそっと「僕は、“最後のひとすすり”が美味しいと感じるコーヒーが本当に美味しいコーヒーだと思っているんだ。“最後のひとすすり”が苦くて残す人もおおいからね。」と話しかけてくれた。

“最後のひとすすり”、この数滴のコーヒーに店主のコーヒーに対する情熱や愛情がギュッと凝縮されているように感じた。

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