最後の直線

Shelly
exploring the power of place
Feb 19, 2021

2020年11月29日、日本初である芝G1(競馬における最高格付けの競争)9勝を達成した牝馬アーモンドアイがジャパンカップを最後に、現役を引退した。

アーモンドアイを知ったのは、引退レースと同じ2018年のジャパンカップであった。

競馬好きな友人とレース後に会う予定があり、友人は私も一緒に行こうと誘ってくれたが、競馬に興味がなかった私は「他に用事があるから」と断っていた。しかし、「盛り上がってるだろう友人の話に付き合えるように」とジャパンカップと競馬について少し調べてみる。注目の馬がアーモンドアイだということで、彼女の過去のレース映像を見てみる。すると、途中を17頭中15番手あたりで通過したアーモンドアイは、直線に入った後に、画面端から10頭以上を抜き去って1着でゴールインしたのであった。「大外からアーモンドアイ」の言葉を繰り返す実況の人の声と共に、伸び脚を魅せるアーモンドアイの走り姿が、全く競馬に興味のなかった私の脳裏に焼き付いた。(参考映像:「鮮やかなるGⅠ初制覇!女王アーモンドアイ《桜花賞》」https://www.youtube.com/watch?v=t0LGPW_yZVA

「私もアーモンドアイ見たい!」と思った時には、すでに遅し。友人との待ち合わせ場所である東京競馬場に向かう電車の中、Twitterで結果を見守った。このレースでも、アーモンドアイは華麗な伸び脚を魅せ、レコードタイムと共に1着でゴールインした。

私は友人の誘いを断ったことを後悔しながら、レース終了後の閑散とした観客席の前に広がる直線コースを眺めて、友人を待っていた。

後悔しながら眺めた直線コースと夕焼け

出たレースでは8割方勝っていたアーモンドアイであるが、私が彼女の勝った姿をこの目で見れたのは1回だけ。2019年秋の天皇賞であった。

レースが始まる合図のファンファーレが鳴ると、10万人が手拍子をし、歓声をあげる。その状況に驚いていると、深呼吸をしている競馬好きの友人が目に入った。「緊張してるの?」と声をかけたところ、「え?してないよ」とこちらを見ないで答える友人。他の人のように声をあげることなく、静かに見守っていた。馬たちが直線に差し掛かったころ、群衆の歓声はより大きくなり、静かだった友人も声を出し始める。5番手で直線に入った1番人気のアーモンドアイは、狭い内側から突き抜ける。歓声が大きくなるにつれて、広がる2着との差。最終的に、2着とは3馬身離れてアーモンドアイは勝った。

馬券がどうとか関係なく喜ぶ周りの人々と、ほっとした表情の友人を見て、これだけ多くの人の感情を揺さぶるアーモンドアイの姿に私は改めて魅了された。

アーモンドアイ、現役最後のレース。私はいつもの競馬好きな友人とテレビで観戦した。テレビに映る観客の様子は、この時期にしてはかなり密であったが、日本競馬界の史上最強牝馬とも言われる馬の引退レースにしてはとても寂しい雰囲気だった。

レースが始まる直前、友人はテレビの前に正座をし始めた。「緊張してる?」と私が聞くと、「うん」と答える友人。

聴き慣れたファンファーレが鳴り、レースが開始。2枠2番でスタートしたアーモンドアイは4着あたりをキープ。「スタートは良い!」「キセキ(序盤から先頭を走る逃げ馬で、この時は2番手との間に10馬身ほどあけて、先頭を走っていた)が前いきすきじゃない…?まさか…」といつもより口数が多い友人。直線コースに入って追い上げるアーモンドアイであったが、ゴールの300メートル前でも1番手のキセキからはかなりの差がある。それでも徐々に差をつめるアーモンドアイ。歓声も大きくなっているのが、テレビ越しにも伝わってくる。ゴールまで200メートルを切ったあたりで先頭にたつアーモンドアイ。しかし、今度は今年注目の若い馬たちが後ろから追い上げてくる。「そのまま!そのまま!!」と正座しながら叫ぶ友人。そして、アーモンドアイ は1着でゴール。

自然と湧き上がりやまない会場の拍手と、実況の人よって連呼される「アーモンドアイ」という言葉。デビュー前からアーモンドアイ を見守ってきた友人も、「感動をありがとう」とでも言うように、大きな拍手を部屋に響かせていた。

最後の直線。
最後まで魅せて、多くの人々の感情を動かしてくれた、アーモンドアイ。

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