諸大学へのワープホール

JFS特別編 湘南台駅/西口(神奈川県)

この記事は、Mediumのパブリケーション『Japanese Front of a Station』から、#特別編として寄稿されました。

改札を出ると、巨大な地下空間の出現に驚く。ここではよく、東口を出た先にある「湘南台文化センター」の関連イベントをやっているが、今日はあえてそちらを見ずに、西口側へと目を向ける。

地上に出ると、真ん中にバスロータリーがどんとある。その両脇は飲食店街、その更に外側は住宅街といういでたちだ。パチンコ屋・カラオケ等々歓楽施設も出口のそばに軒を連ねる。小田急・相鉄・市営地下鉄の3路線が交わるれっきとしたターミナル・ステイションではあるが、そのうち2つは地下に潜るため、規模の割には静かな駅だ。2つの地下路線と直交する唯一の地上路線、小田急の線路が東と西の世界を隔てる。


朝8時すぎ。学校へ向かうバス停と、林立するパチンコ屋の前に長い列ができている。湘南台駅西口の、いつもの朝の風景だ。
慶應義塾大学・多摩大学・文教大学という3つの大学をはじめとした、複数の教育施設。1つの巨大な自動車工場に代表される、生産・労働施設。それらに通う学生や労働者たちが、朝夕の喧噪をつくりだす。


3路線の改札を抜け、地上に向かう出口は全部で8つ。とくに一番西の端にある出口Bには、慶應義塾大学の学生たちが階段下までずらりと並ぶ。出た先にあるバス停に、大学行きのバスが来るのを待っている。

学期はじめの混雑っぷりは、学生たちの悩みの種だ。友人の調べによると、春は利用者数がバスの輸送量を上回るため、1限に間に合わない大学生が必ず出てしまうそうだ。いくら早く駅に着いても、間に合うバスにはなかなか乗れないというのはじれったい。
それでも皆静かに、長蛇の列でひたすら待つ。朝の登校を諦めて、駅前で時間を潰そうとする人は、ほとんど見かけない。もしバスが、あまり待たずに来ていたならば、学生たちは留まることなく駅を去っていただろう。


駅から学校までのバス移動は、直線的な移動というよりむしろ、点同士のジャンプに近い。定期券を購入する人が電車に比べて少ないので、途中下車する人はあまりいない。そもそも急行に乗ってしまえば、ほとんどのバス停を通過してしまう。その意味において、さながら駅は、人の波を学校まで導く、ワープホールのようだ。
あちらこちらからやってきた学生たちは、それぞれの目的地行きのバスに吸い込まれ、いつの間にか姿を消す。夕方になるとまたフッと現れ、食事や帰路を求めて散ってゆく。


駅前の飲食店街には一人で立ち寄ることのできる、安価で美味な店が多いらしい。それを知っているわずかな学生たちは、夜な夜なそこを訪れて、学校とは違う空間を愉しむ。店によっては店主の方や地元住民との会話が弾むこともあるという。小さな、それでいて魅力的な夜の湘南台の姿がそこにある。
学生の中で湘南台出身者は多くない。ゆえに、駅前での出会いは未知なる出会い。たとえ1回しか会わない人であっても、その接触は互いにとって何らかの変化を予感させるのには充分。点同士の接触が、いつしか意味を持った線の繋がりになる可能性をも秘めている。「弱い紐帯の強さ」とまでいかずとも、未知なる出会いは人をワクワクさせる。


人々が見えない線で繋がることで社会が形成されるように、点同士の地点を線で結ぶ電車は、ある種の一体感をもったネットワークを作り出す。
実は湘南台は、相鉄の延伸計画が持ち上がって久しい。慶應義塾大学が電車の「駅前」になれば、また新たな関係性が育まれることだろう。そうなれば、点同士の区間をワープしているバスも、過度な喧噪から解放されて適度な空間を保てるようになるだろう。駅前-未知なる空間という関係から駅前-駅前という関係になると、途中地点に向かうための足として重視されるようになりそうである。

見えないT字型の線路が十字になり、新たな「駅前」が生まれるときを、楽しみにしている。『#XX農家と学生-慶應大学前駅(神奈川県)』というMedium記事がアップできる日が、いつか来ることを願って。

関連文献
・バス列解消に向けて(2016/4/17ver)
https://www.slideshare.net/secret/8jPXx6CnZg6MHI
・情報システム用語辞典「弱い紐帯の強さ」
http://www.itmedia.co.jp/im/articles/0507/28/news130.html
・カナロコ「相鉄いずみ野線 延伸構想でまちづくり案まとめる」2014.6.10
http://www.kanaloco.jp/article/64956
※リンク先の存在は、いずれも2016.5.10に確認済み