赤い電車に揺られて

Mari Tsuchiya
exploring the power of place
4 min readMay 11, 2016

東京都の品川から、神奈川県の川崎市、横浜市を超えて、三浦半島の先端まで続く京浜急行電鉄(以下、京急線)。赤くて少しレトロチックな車体と「ファソラシドレミ〜」と奏でる発車音が特徴的な電車だ。私が生まれた時から住んでいる金沢文庫には、この京急線しか通っていないので、どこへ出かけるにもこの電車に乗らないと始まらない。中学生になり憧れていた電車通学をし始めてから、大学4年生になった現在まで、京急線には毎日のようにお世話になってきた。

今日も1日が終わり、いつものように電車に乗って帰路につく。始点である品川駅で、お決まりの最終車両から「特急三崎口行き」の電車に乗りこんだ。時刻は17時38分。5月になって、日は随分延びたようであたりはまだ明るい。いつも18時半頃になると、帰宅ラッシュの波に押しつぶされそうになりながら乗車する品川駅だが、1時間の差でこんなにも変わるのか、整列してすんなり乗ることができた。

そうはいっても、車内には、仕事帰りと思われるサラリーマンがたくさん乗っている。クールビズなのだろうか、ネクタイをつけていない男性の姿もちらほら目に付く。手を組んで寝ている人、スマホをいじる人、イヤホンをつけている人、本を読む人…座席が満員になるくらいには人がいるのに静かである。皆、車内では「1人の時間」を過ごしているようだ。

そうこうしているうちに、電車は多摩川を超え、横浜駅についた。時刻は18時06分。京急線の中でも、最も乗降者数が多い駅であるだけに、たくさんの人の入れ替えがある。立ちながら本を読む人は、諦めてそれを閉じてしまうほど、車内は満員になった。中高時代、横浜駅にある学校に通っていた私にとって、ここからは馴染み深い景色が広がる。3分ほど経った日の出町駅の前には、長いトンネルが3、4本続く箇所がある。いつも、横浜駅から電車に乗りメールを作成して送信しようというタイミングで、このトンネルに当たり、圏外になってしまったことをふと思い出した。

そして、桜の有名な大岡川や、住宅地や低い建物を通り越しながら約10 分電車に揺られていると、上大岡駅につく。ここは金沢文庫から1番近い、いわゆる栄えた町だ。洋服や食べ物が一通り揃うのはもちろん、気軽に行けるチェーン店もほとんど揃っている。それでいて、横浜ほど人で溢れていないので、ちょっとお出かけするのに丁度よい。私も大学生になってからは専らここで買い物をするようになった。

その8分後、電車は、私の最寄り駅である金沢文庫駅にについた。時刻は、18時25分。外は暗くなってきっていたが、商店街からのあかりや走っている車のライトがあれば、さほど暗くは感じない。

いつもであれば、ここで下車するのだが、今日は、敢えてそのまま電車に乗り続けることにした。電車は金沢八景駅、追浜駅と停車しながら、神奈川県横須賀市内に突入する。見慣れない景色がどんどん広がり、緑が増え、トンネルも増え、いつの間にかあたりは真っ暗になっていた。窓を覗いても、窓に反射する車内の様子しか見られない。すると突然、ギラギラと明るく広い駅についた。横須賀中央駅だ。それまでの静けさとは打って変わって、外が妙に明るく感じる。電車には何人かの外国人も乗り込んできた。18時40分。そんな横須賀中央駅を通り過ぎると、一瞬にして元の暗さにもどる。アパートの明かりでさえ、目立つくらいあたりはシーンとしていた。その暗さにあわせるかのように、車内からもだんだんと人が減っていく。京急久里浜駅を超えた頃には、帰宅ラッシュの時間とは思えないほど車内はガラガラで、同じ車両にはたった8人しかいなかった。

そして19時10分、私は、終点三崎口駅に到着した。1時間半ぶりに、電車から降り外に出てみると、虫の鳴き声がよく聞こえる。駅の街灯が異様に目立つ、まるで深夜のような暗い地にいることが不安になった私はそのまま折り返しの電車に乗り込んだ。

19時47分。約30分かけて、金沢文庫駅に戻ってきた。駅前のお店が開き、たくさんのサラリーマン達が歩いているいつもの通りの最寄り駅の様子を見ると、私は想像以上にほっとした気持ちになっていた。

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