運転していれば、嫌でも慣れる

僕は、かなりの頻度で車を運転する。レンタカー屋さんでアルバイトをしていること、電車での移動があまり好きではなくある程度の距離であれば車で行くことがその理由である。

かなりの頻度で車の運転をすると言っても、運転が好きなわけではない。好きでもないし、嫌いでもない。アルバイトの条件がよかったから、家から車で行ける距離に大学があったからかなりの頻度で車を運転している。そんな僕も、車の免許を取って4年が経つ。

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大学1年の春休み、同じ学科の友人と2人で免許合宿に行くことにした。行こうと思いたった時期が遅かったため、ホテルが綺麗だったり、周辺の施設が充実しているような場所はどこも予約で埋まっていて、僕たちに与えられた選択肢はほとんどなかった。どこに行くか散々迷ったあげく、数少ない選択肢の中でも特に安かった山形の教習所に決めた。

周りには田畑しかなく、15分ほど歩いてたどり着く駅は無人駅だ。その周りには24時間営業ではないコンビニと、やっているのか定かではない居酒屋が一軒あるだけで、他には何もない。

家から数分歩けばコンビニがあり、駅周辺には飲食店や娯楽施設があって当たり前の僕たちは、初日の夜にはすでに帰りたくなっていた。合宿のプランでは、2日分であれば延泊料金がかからないとのことだったが、一刻も早く帰りたかった僕たちは絶対に延泊しないと誓い合った。ある意味、受講者たちをこんなにやる気にさせるのだから、いい教習所だったのかもしれない。

そんな教習所では様々なことを教わったが、ある教官が言った言葉が特に印象に残っている。

歳は30代後半にも見えるし、20代と言われればそうとも取れる、小太りで眼鏡をかけたキビキビとした教官がいた。その教官が担当する学科の授業(教室で車の運転に関することを勉強する)の時だった。

教官は、免許を取得してから10年以上が経ち、ほぼ毎日車に乗っているにも関わらず無事故無違反だということを、ことあるごとに自慢していた。無事故無違反の秘訣は何だと思うかを教室全体に問いかけた。少し間を置いてから教官は「車間距離を最低30m開けることです」と言った。

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4年たった今でも車の運転をしていると、ふとこの言葉を思い出す時がある。無事故無違反であることは素晴らしいことだ。車間距離を十分に取って、ゆとりのある運転を心がけることが安全運転につながることもわかる。しかし、何が何でも30mは開けすぎではないか。交通量の多い場所で車間距離を30m以上開けようものならば、後続の車にクラクションを鳴らされたり、その30mの間に割って入ってくる車があったりと逆に危険な目に会うことになる。

車同士の事故を想定してみると、他の車と接触しただけで事故となってしまう。接触というと他の車との距離が無いこと、つまり0mであるから、離れれば離れるほどその車との接触事故が起きる確率は低くなる。しかし、実際の道路ではたくさんの車が周りを走っており、一台の車から離れようとすると、それ以外の車と近づくことになる。接触事故を避けるために離れたのに、それでは本末転倒である。

事故が起きないように、周りに走っている車との距離感を見極めつつ、その都度適切な車間距離を探す必要があるのだ。それは、フロントガラスから見える前方の車にだけ気を使っていれば良い訳ではなく、サイドミラーやバッグミラーから見える車にも気を配らないといけない。車の運転はそれだけ気を使うのだ。それほど気を使うと疲れてしまう僕たちは、疲れることをできるだけ避けようと、次第に(最初の時よりも)気を使わなくなってくる。こうして慣れてくると、あれだけ気を使っていたものや、気をつけなきゃいけないものが見えなくなってくる。そして、そうして慣れた時に事故は起こるものだ。

教官が言っていた、ある一定の距離を意識して保ち続けることは、僕たちの感覚の「慣れ」への警告だったのかもしれない。

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