6年前に教えてもらったこと

Kano Sasaki
exploring the power of place
4 min readNov 19, 2018

なかなか渋谷を好きになれない。きっと渋谷特有の混雑さや騒がしさに気が滅入ってしまうからだと思う。渋谷駅に降り立った途端たくさんの人が入り乱れ、思うように歩けず混乱してしまうこともしばしば。定番の待ち合わせ場所であるハチ公前広場も常にがやがやと色々な音が入り交じり、そこにいるだけで場に酔ってしまいそうになる。渋谷の周辺に用事があるときは、近駅の代官山や中目黒で一度降りて、徒歩で渋谷に向かうことが多い。駅構内の混雑を避けるためならば、駅と駅間の長い距離を歩く選択をしてしまうほどだ。

そんな中、ある研究プロジェクトが始まった。大学で所属しているゼミの今秋冬の研究フィールドが渋谷の「桜丘地区」に決まり、半年間桜丘に通ってその地域の特徴を見つけだすといったプロジェクトが動き出したのである。渋谷に苦手意識を感じていた私にとって、正直この活動を億劫に感じてしまった。数ある地域の中でなぜよりによって渋谷なのだろうか。

私は桜丘という地区を、このプロジェクトをきっかけに初めて知った。桜丘は、広い渋谷の中でも代官山・恵比寿寄りに位置しており、1,2時間ほどあれば徒歩でまわりきれるくらいの大きさである。大きな特徴としては2023年に向けた再開発計画の対象地区になっていることが挙げられ、それに伴ってレストラン等の閉店などが加速していることから、毎日変化し続けている地区であると言えるだろう。その変化を追いながら桜丘の特徴を見つけるべく、今期の研究プロジェクトの舞台が桜丘に決まったのだ。

桜丘の地図を眺めていると、ふと目にとまった場所があった。中学生の頃に通っていた塾が桜丘内に位置していたのだ。てっきり初めて足を踏み入れる地区だと思っていたけれど、実は6年前にすでに来たことがあったらしい。思いがけない発見に、嬉しく感じた。

思い返すと、この塾に通っていた時期に、初めて渋谷を肌で感じたような気がする。 当時の渋谷も今と変わらず人で溢れていて、若者のまち特有の騒がしさが特徴的だった。母からは、そんな大都会に中学生の娘を通わせることを躊躇したと聞いている。しかし母が心配する一方で、13歳の私から見ると渋谷のまちはキラキラした大人なまちで、毎週通うことができる嬉しさに心が躍っていた。たとえ駅での混雑に巻き込まれたとしても、(たしかに少し不安な気持ちはあったが、それ以上に)「これが渋谷か!」といった興奮する気持ちが強かった。塾終わりにハンバーガーショップに寄って友達としゃべって帰るというなんてことない時間も、渋谷にいるというだけでなんだか大人の仲間入りを果たしたような気持ちを抱いていたことを思い出した。

実際に先日母塾をのぞいてみると、より鮮明に当時の様子がよみがえってきた。再開発の影響で当時の通塾路はなくなり新しい迂回ルートができていたものの建物はそのまま残っており、この日もたくさんの塾生が集まっていた。まるで当時の自分を見ているようで、なんとも言えない気持ちになる。若さゆえのやんちゃさを微笑ましく感じたり、余裕のある今こそちゃんと勉強するべき!といった偉そうな台詞を言いたくなったりもする。そしてなにより、その場にいる現役生を眺めていると、渋谷が当時の私の勉強に対するモチベーションを上げてくれたと言っても過言ではない気すらしてきた。(塾という学びの場であるだけに少し不純な理由かもしれないが…。)あのときのキラキラとした渋谷に対する感情を研究会の新プロジェクトを通じて思い返すことができたのだ。

苦手意識を感じていた混雑や騒がしさも、意外と渋谷ならではの良いものなのかもしれない。このゼミの新しいプロジェクトは、それを昔の自分に教えてもらえる良い機会だったと思う。渋谷が持つどんな一面も前向きに捉えて、今期のプロジェクトを通じてもっと渋谷の良さを見つけてみたい。

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