ちいさき種まき

家洞リサ
exploring the power of place
4 min readNov 10, 2016

8月2日から行ってきた「暮らしの知恵あつめ」であるが、11月10日現在、たえだえと記録を続けている。(8月上旬までの記録は「ちいさき工夫の毎日」参照)。この活動はその名の通り、暮らしの中で必要だと思う知恵をあつめ1日ひとつ記録するというものだ。

「ちいさき工夫の毎日」記事後の記録(2016年8月12~8月15日)

これまでをふり返って特徴的なのは、「9月の記録」がないことと、再開した「10月の記録」でさえ12日までしかないということだ。最初は、著者であるおちとよこさんに憧れわたし版「生活図鑑」を作ろうと奮闘していた。しかし「9、10月の記録」の踏みとどまりは、「おちとよこさんには及ばない」ということを素直に意味したのであった。著者とわたしでは家事や暮らしと向き合ってきた時間がちがう。「年の功」にはかなわない、ということを身をもって知った。

10月12日で止まっているページ

とはいえ、「8月の記録」と「10月の記録」を合わせた42日分のスケッチは、まちがいなくわたしの関心ごとを表していた。それらはいくつかのジャンルに分けられ、多いものから順に紹介すると、

「食(17)」「旅(5)」「モノ(5)」「住(4)」などがある。

食べることへの意思が強いことは一目瞭然だが、興味深いのは「モノ」というジャンルである。「モノ」に分類される知恵は、たとえば上の写真の10月9日「かさばらない、困った時のがま口」が該当する。他にも、10月7日「スタスタ歩きたい時は両手をあける」というものがある。当たり前だけれど、その日の行動に合わせてモノを持ち歩き、自分が過ごしやすいように工夫して使っているということがわかった。そして、自分が日々どんな「モノ」を選び、それがいつ入手され、消費されるかということに、興味を持つようになった。

突然だが、人びとの持っているモノの情報を集め記録した、今和次郎という人物をご存知だろうか。彼の採集のひとつに、大正14年(1925年)9月に行なった「下宿住み学生持物調べ(I)」というものがある。学生が持っている持物を観察し調べあげ、分析をおこなったのだ。特に、ある学生の洋服のポケットの中身は興味深い。スケッチされたポケットから線が引かれ、「ハナガミ・ケシゴム・メガネフキ」と書かれていた。このあとハナガミをポケットから出して洗濯しただろうか…と心配になるほど、つい引き込まれてしまう細やかな記録がそこにはある。

11月1日からスタートしたページ

「モノ」に興味を持ったわたしは、11月から形を変えて「暮らしの知恵あつめ」をすることにした。今和次郎の上記の採集を参考に、毎日使っている筆箱の中身を観察し、記録している。その日何を持ち、何を使ったのかを調べることで、無意識に実践している暮らしの知恵を編み出していこう、ということにしたのだ。ふたを開けてみれば(実際にはチャックだが)筆記用具だけでなくガラクタやお化粧道具も含まれていた。友人にこのことを指摘され、納得したわたしは開始早々の11月3日から、呼び名を「お道具箱」に変えている。

初日に入っていたモノをこれまで通りスケッチし、その後はそのページに増減を書き加えている。実験しながらの記録だが、このところ一番出入りが激しいのは口紅だ。赤いネックレスをする時には赤、代官山に行く時はピンク、気分を変えたい時は妹のもの、など使い分けていることがわかった。そして反対に最近は、何を持ち歩けば気分を高められるのか、ということを意識し始めるようになった。あるいは、仕掛けを意識するようにもなった。例えば輪ゴムやクリップ、ビニール袋はいつも使うわけではないけれど、思わぬところで役に立つのだ。この秘められた才能が花開くことを待ち望んで、ちいさき種まく暮らしがおもしろいのだ。

参考文献:今和次郎.考現学入門.ちくま文庫,1987

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