MR.FRIENDLY

SHUNSUKE DAIMON
exploring the power of place
4 min readOct 19, 2019

初恋の子と恵比寿に行ったのは11歳、小学5年生の時だった。相手はとても勝気で活動的なロングヘアの女の子、私はどこにでもいそうなごく普通の男の子だった。

そこに至る詳しい理由は覚えていないが、小学5年生の夏休み明けから、男女9人グループでよく一緒にいるようになった。私も入れて男子5人と女子4人。なぜその組み合わせなのかはもはや謎だが、学校の休み時間は校庭で走り回ったり教室内でおしゃべりしたり、放課後も誰かの家に集まってはゲームをしたり意味なくダラダラしたりと、とにかく9人で一緒に過ごした。

私が好きになったのは、その中の一人の女の子。喜怒哀楽をストレートに表現し、自分の好き嫌いをはっきり言う子だった。対する私といえば、常に周囲の反応を気にしながら自分の意見を調整する妙なクセがあった。その子の裏表のなさというか純粋さというか、今思い返せば自分とは異なる部分に惹かれていたのだと思う。

私が育ったのは北関東の田舎町。東京から電車で2時間ほどかかるところだ。しかし、小学5年生の私は東京に月に2、3回は遊びに行っていた。その秘密は社員パス。友達の父親が東京と地元を結ぶ鉄道会社社員で、その友達は乗り放題パスを持っていた。つまり、友達と一緒にいけば東京までタダ乗りができた。

仲良くなった頃、その子に例のパスの話をすると、

「恵比寿に行ってみたい!」

という話になった。

聞けば恵比寿に「MR.FRIENDLY」というキャラクターのショップがあり、一度東京にあるお店にも行ってみたいという。その子はMR.FRIENDLYのグッツを集めているが、なかなか手に入らない。携帯電話どころかインターネットすら全く普及していなかった1990年代後半の田舎町で、このようなマイナーキャラクターグッツを集めることは困難だった。

目標と目的地が決まった私は、早速時刻表を開いて恵比寿までのルートと電車を調べていった。東京には何度か行っているとはいえ、スマホも無いし小学生だけでの行動になるから慎重に計画を立てていった。一緒に行くメンバーも募る。当然招集された例のパス持ちの男の子と、もう一人この計画に興味がありそうな女の子を誘った。当時意識していたかは覚えてないが、今書いてみると完璧なダブルデート状態。私は一緒に行ってくれる2人にはさほど興味がなく、好きだった女の子と東京に行ける事実にドキドキが止まらなかった。

そして、当然のごとく親には内緒にする。例のパス持ちの友達と何度も出かけていたので、今回も同じように「友達4人」で「東京」に「日帰り」してくることだけを伝えた。私の親はいつものように勝手に出かける私に対し、呆れたように「わかった」と言った。出かけることは正直に話せるのだが「女の子を連れて行く」ことには小学生なりに恥ずかしさがあったのだと思う。

結局、女の子の両親から電話があり、今回の計画がバレてしまう。出かけることに加えて女の子を連れて行くこと、そもそもその話をしなかったことについて私の両親は呆れかえっていた。今回はさすがに、と言いかける両親に対して、メンバーや行程を含めて全てを明かし、謝りながら許しを請う私。結局、私が押し切って計画は実行されることになった。

そして、当日。どんな一日だったのかは、ほとんど覚えていない。ただ、恵比寿のお店に行ったこと、その子が「かわいい!」「これもある!」とはしゃいでいたこと、私もその場の流れで興味のないクッキーを買ってみたこと、そんなぼやっとした光景だけが記憶に残っている。

この原稿を書くにあたって「MR.FRIENDLY」とGoogleに入力してみる。初めてインターネットで調べものをする感覚になる。すると、まだそのお店は恵比寿にあった。お店の外観画像を見てみるが、全く覚えていない。でも、キャラクターは覚えていた。可愛いのか可愛くないのか、よく分からないやつ。昔の友達と20年ぶりに再会したかのような感覚になった。

「えびす」

この地名を聞くと広がる、無色透明な古い記憶。

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