Stay homeの賜物
男のロマン。それは、長い髪の毛、いわゆるロン毛ではないだろうか。
筆者は大学4年生。来年から社会人になる22歳だ。学生生活最後の1年は、新型コロナウイルスの影響によって、期待していたものとは程遠いものになった。大学に行くこともなければ、就職活動で企業に足を運ぶこともなく、海外旅行に行くことも叶わなかった。日々の生活に喪失感が漂っている。全てがオンラインで、全てがおうちで完結することばかり。生活から物理的な体験が失われ、誰にも会うことのなくなった、このニューノーマルの時代だからこそ得られた唯一の実物。それこそが、ロン毛だったのだ。
この文章では、筆者がロン毛になるに至った経緯、ロン毛にまつわるエピソードを語っていく。
筆者がロン毛にすることを考え始めたのは大学一年の夏休み、3年前まで遡る。当時の筆者はバックパッカーとして一人、欧州を旅していた。一人で旅行するのは初めての海外素人だった。初めて泊まったアムステルダムのホステルで同部屋の黒人に年齢を聞かれた。その時、本当の年齢を伝えたら「若く見えるな」と言われた。その時、なぜか「若く見られて舐めらたくない」と思い、「髪を伸ばして侍みたいになることが生存戦略になる」と直感した。
髪を伸ばしたいと思ったのはその時だけがきっかけではない。侍のような髪型には昔から憧れがあった。サッカー選手のベッカム、窪塚洋介やオダギリジョーが醸し出す、男臭さや色気に憧れていた。実は高校生の時に一度髪を伸ばすことに挑戦したことがある。しかし、周りからのウケの悪さや邪魔だったことから、大学入学を機にロン毛を諦めてしまった。それからは無難に印象を悪くしないためにも短髪にしていた。新しいコミュニティに馴染んできた大学3年の春に、これが結べるまでに髪を伸ばす最後のチャンスと思い、髪を計画的に伸ばすことを決意した。
男性が短髪から髪を伸ばすのは数々の苦難が伴う。特に前髪は、中途半端な長さが続くので、視界が悪く、髪型が決まらない。すぐに鬱陶しくなって切りたくなってしまう。伸ばすと決めた時から、美容師に相談して、計画的に負担が少なく髪を伸ばせるような散髪をお願いしていた。長さが中途半端な時は帽子をかぶることが多かった。
髪の長さが顎に届くボブくらいになった時、新型コロナウイルスでStay Home生活が始まった。家族以外誰にも直接会わない、おうちでの生活は髪を伸ばすにはもってこいの環境だった。2月から9月まで一度も美容院には行かずに、存分に髪を伸ばした。半年以上、髪を切らなかったことは人生初めてで、先日半年ぶりに髪を切りに行った。そして現在、肩につくくらいの髪の長さになっている。
ここからはロン毛エピソードを紹介していく。
ロン毛の当初の目的は、幼く見えないためにというものだった。これは達成できたと思っている。筆者はインターンで大人のビジネスマンと仕事する機会が多いが、敢えて自分から学生であると明らかにすることはあまりない。そのため、本当は22歳にもかかわらず、20代後半から30歳くらいだと思われていることが多いことに気づいた。会話で転勤や異動の話題を振られても、もちろんそんな経験はなく、ましてや就業経験すらないことに気づく人はいない。それくらい、ロン毛は大人っぽい見た目にしてくれるらしい。
また、筆者はロン毛で就活もしていた。志望する業界や企業が服装や髪型指定がない自由な企業というのもあったが、わざわざ髪を切るのももったいないと思い、ロン毛のまま就活戦線に突入した。とはいえ、身嗜みを整えるのは人としての常識である。髪の毛は7:3で分け、余った髪の毛は後ろで結んだ。すると、面接のzoomに写るのは金融マンのような髪型の自分である。筆者の就活は完全にオンラインだったので、就活でロン毛に困ることはなく、無事に終わることができた。
ここまでロン毛への愛を語ってきた筆者であるが、社会に適合していくためにも、今年の秋にはロン毛を引退するつもりだ。在宅期間の賜物、ありがたいロン毛の記録をここに残す。