左者宵好
Fable von SasaEiske
2 min readSep 7, 2016

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『ぬいぐるみたちのひそかな楽しみ』

ぬいぐるみの病院には、毎日たくさんの患者さんがやって来ます。

中でも入院患者さんたちは、数週間病院で治療しながらゆっくり過ごすために、はるか遠くからもやって来ます。保険がききませんから入院費はとても高いのですが、家族の皆がお金を出し合って、患者さんを入院させてくれるのです。

病院には、ひとつ不思議なことがありました。ある週はひつじさんが、ある週はうさぎさんが、またある週はくまさんが、まとまってやってくるのです。

ぬいぐるみの世界では、いまあることが流行っていました。同窓会です。

ぬいぐるみたちは秘密のネットワークをもっていて、テレパシーやおもちゃの電話を使って、世界中の仲間たちと連絡をとりあうことができます。その連絡網の中で、「こんど一緒に集まっておしゃべりしよう」「工場で会ったきりの友達と再会したい」「では何ヶ月後のいつ、病院で」といった約束をするのです。

そしてぬいぐるみたちは、得意のテレパシーを使って、持ち主の気持ちにそっと働きかけ、自分たちが同じタイミングで入院できるように行動を起こさせるのです。

「今週はペンギンさんばかり30人も来ましたねぇ」

看護婦さんたちは患者さんの身体にブラシをかけながら、わいわい話していました。

「わたしたちもそのうち、どこかで懐かしい仲間に再会できるかしら」

「そうね。わたしは同じ職人さんに耳をつけてもらった仲間に会いたいわ」

どっと笑い声が起こります。

こうして、ぬいぐるみの病院で夜は更けていくのです。

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左者宵好
Fable von SasaEiske

ささ・えいすけ。鹿料理研究家を装った作家。