ストリートブランドに求められるバランス感覚

Shingo Yokoyama
Fashion-Tech News
Published in
8 min readNov 17, 2015

景気の移り変わりが激しいストリートウェア業界では、多くのブランドが将来の成長を見込んでECを開始している。

80~90年代にストリートウェアを取り扱うブランドは、Dr.JaysからMacy’sまで幅広い小売店に大規模に卸すことで大きく成長したが、その後の市場は崩壊し、「Less is cooler.(少ない方が、クールである。)」という教訓が生まれた。

生き残ったストリートブランドの起業家たちは、自社が実店舗を街角に増やせば増やすほど、コアとなる顧客の興味を削いでいることを学んだ。そして、このような顧客は、市場が縮小すればするほど重要な存在となった。

故に現在のストリートウェアブランドの多くは”夢遊病状態”から醒め、卸売販売をほとんどやめ、オンラインでの直接販売やブログでのプロモーションなどの新しい戦略を取り入れている。

1997年にストリートウェアブランド、Stapleを立ち上げたJeff Staple Ng氏によれば、今日のブランドはより多くの選択肢を持っているという。

「Warby ParkerやBonobosがブランドのビジネスのやり方を再定義しています。これは劇的な変化ではありますが、我々も卸売りをやめて直接販売に移行しようと考えています。この時代においては、まずオンラインで直接顧客に売ることから始め、その後必要性を感じれば実店舗を持つべきです。」と彼は語る。

1年前にNew York発のメンズ服ラインである Aimé Leon Doreを設立したTeddy Santis氏は初めから直接顧客に売るという手段を取った。

彼のラインは受注販売性だ。彼は1年通してカタログをリリースし、彼のコレクションは直ちにECサイトとNew York, London, Amsterdamで開くポップアップストアでのプレオーダーが可能だ。アイテムは購入の約1ヶ月後に顧客の元に届く。

「この新しい潮流においては、ブランドを直接的に展開し、より多くの収益とコントロールを得ることは理に適っていると思います。自分のプロダクトがどのようなものなのかよくわかっていない段階でそれを売るというのは難しいものです。」と彼は言う。

Supremeの元クリエイティブディレクターであるBrendon Babenzien氏は直接販売モデルの先駆者として有名である。DOVER STREET MARKET(Comme des Garçonsの川久保玲氏がディレクションするコンセプトストア)を除き、同ブランドはECサイトとNew York, Los Angels, London, 東京にある9つの小売店のみで販売を行っている。

彼が新しく立ち上げたメンズウェアブランドのNoahはNew Yorkにある店舗とECサイトでの販売を行っている。さらにUnion Los Angelsに小規模な卸売を行う予定だ。彼のブランドの商品の価格帯は$800~1,200、Tシャツは$48〜、トップスやボトムスは$180〜となっている。

「製品を本来の価格で顧客に提供したい。」と彼は語る。

彼は巨大な小売店との関係を築くのに時間がかかり過ぎてしまうため、卸売りは極力避けているという。今日のストリートウェア市場内でのブランドの乱立や小売店契約の問題点も、ブランドが直接販売に乗り出す理由の一つだ。

Agenda trade showの設立者であるAaron Levant氏によると

「ストリートウェアというジャンルが混雑しすぎていて、ブランドの勝算は下がってきています。昔はブランドが少数で、逆に小売店は多く存在し、ECサイトは今よりずっと少なかったんです。現在、独立した小売店の数は、ピーク時の50%を切りました。」とのことだ。

ストリートウェア消費者の、ブランドの小売店流通が広範囲に及びすぎてしまうと幻滅してしまうという性質も、ブランドの直接販売を後押ししている。

2003年に設立され、1,000にも及ぶ店舗で展開するThe Hundredの創業者であるBobby Hundreds Kim氏は

「良いブランディングとビジネスを兼ね合わせようと思うのなら、売上を増やす一方で、どれだけ”No”と言えるかにかかっています。世界中の大半の人は私のブランドの名前すら知らないと思いますが、一方で12年間もThe Hundredを追いかけ、メインストリームのブランドだと思っている人も居ます。我々のブランドのマスコットは爆弾をモチーフにしています。これは我々の意図するところの『絶対に“爆発”しきらない爆弾』という理念を孕んでいます。」と語る。

A Bathing Apeは長尾智明(通称:NIGO)氏によって立ち上げられたブランドであり、“爆発”したストリートウェアブランドとして有名である。同ブランドは1993年にスタートし、自社店舗や卸売りを多角的に展開し、日本国内にとどまらずアメリカや中国でも人気を博した。しかし、次第にその人気にも陰りが差し、2009年にNIGO氏が会社を去った後、2011年に香港に拠点を置くI.T.グループに$2.8 millionで買収された。

多数のアスリートやセレブと契約を結んでいるストリートウェアブランドであるTackmaのセールスディレクターであるMike Camargo氏は

「私はこのような現象を“stretch-mark effect”(妊娠線効果!)と呼んでいます。もしブランドが急速に店舗や卸売りの展開を進めると、同時にその輝きも失っていくのです。成長を管理することもブランドが生き残るには重要なのです。」と述べている。

TackmaはAmerican Eagle Outfittersの会長であるJay Schottensteinの息子のJeffrey Schottenstein氏に私的に投資を受けている。また、Social StatusやLeBron James氏の保有するUnknwnなど38の小売店と契約しており、その収益の75%は卸売りからきている。

Camargo氏はブランドの魅力を維持するために、Stussyの描いた軌道をフォローしていこうとしている。

Stussyは今年で創業35年を迎え、年間5000万ドルの収益をだす個人所有のストリートウェアブランドである。同ブランドはチェーン店であるZumiezから、スウェーデンに拠点を置くハイエンドなメンズウェアを取り扱うTres Bienまで、幅広いジャンルの小売店に自社製品を卸しており、特定の製品が特定の小売店に展開される仕組みを持っている。

Camargo氏は自社ブランドを細分化し、より幅広いジャンルの小売店に製品を卸していくつもりの様だ。

海外展開は未だにU.S国内の卸売りに注力しているブランドにも市場開拓の選択肢と成り得る。また、卸売りに注力していないブランドは(Stussy, Supreme, Sarturdaysなど)は、(モールなどに入っていない)独立店舗またはショップスインショップにより市場を開拓するという選択肢もある。

ストリートウェアを取り扱う小売店であるUnion Los AngelesのオーナーのChris Gibbs氏はメジャーな市場として日本を挙げている。現にStussyの売り上げの60%は日本の店舗からきており、Supremeも大半の店舗を日本に集中して展開している。

成長を促す方法として、他にはコラボレーションがある。最近、Pumaとスニーカーの分野で提携したSantisは1月に様々な層の製品のリリースを予定している。そして、その後にカプセルコレクションと“energy projects.”をローンチするとのことだ。

Brendon Babenzien氏はLos Angeles, 日本, Londonに新店舗を設立したいと考えているそうだが、彼はあまり大企業を目指す気はないようだ。

彼は、「私は健全で小規模なビジネスがやりたいんです。大きな、何かの象徴のようなものになりたいわけじゃない。しかし、自らの成長に限界を生まないためにお金を稼ぐこともしなければならないのです。」と心中を述べた。

記事セレクト: Yujiro Numata
翻訳: Shingo Yokoyama

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