デジタルという’氷山’

Ayako Shimatani
Fashion-Tech News
Published in
5 min readFeb 23, 2016

昨今のファッションブランドのデジタルへのフォーカスは、購入行動の変化によるものだ。オンライン販売は成長し続け、2025年には高級品全売上の18%をECが占めるようになるといわれている。

しかしデジタルにとって、ECは単なる氷山の一角だ。

現在、平均的アメリカ人は労働や睡眠よりも多くの時間をデジタルメディアやテクノロジーに触れて過ごしている。そして、3/4の高級品の購入は、例えその購入が実店舗で行われている場合でも、何らかの形でオンラインに影響されているのだ。そして、長期的にはオンラインが購入決定に与える影響は99%になるだろうと、McKinseyのNatalie Remy。

新たなマーケティングモデルの登場

その潮流に呼応して、ファッションブランドは広告枠の購入をオフラインからオンラインにシフトしている。保守的なブランドでもデジタルへの投資は15%〜20%といわれているのだ。単純にブランドが、デジタルの広告枠を購入を推進しているならば、単純な事だ。しかし、今、劇的に変化しつつあるのはブランドのコミュニケーションの仕方、そして消費者とのつながり方だ。

インターネットが登場する以前のブランド広告は、受け身のオーディエンスに向けたひとり芝居的な広告だった。ファッションブランドはシーズンごとに広告を作り、同じ広告をVogueにもFinancial Timesにも掲載した。しかし今日のメディアプラットフォーム上では、ひとりでなく、様々な人物がコミュニケーションを行う。顧客がメディアにリアルタイムで参加できるためブランドは以前のようにコミュニケーションを独占する事ができないのだ。そして、オンラインではコピー&ペースト、シェアができるためブランドはコミュニケーションの仕方を完全にコントロールする事ができない。

また、デジタルは顧客とブランドの接点を増やした。顧客とブランドは、今やInstagramからECサイトなどあらゆるプラットフォームを通じてお互いと接点を持っている。その分、購買決定経路も複雑になってきているのだ。

そして、家電に関しては製品評価が顧客の選択を左右するが、高級品の場合、顧客は既に知っているブランドから購入する傾向にある。

つまり、ブランドは購入先の選択肢として真っ先に消費者の頭に浮かばなければいけないのだ。だからこそ、ブランドは認知や一貫したイメージを長期的に顧客に植え付けなければならない。

だからこそ、今、単純に広告費の配分を変えるだけでなく、顧客の注意を引き、顧客が多くの時間を費やし、自ら閲覧・シェアを行ってくれるプラットフォームを長期的に育てていく事が必要なのだ。

フィードを埋める

高級ブランドは顧客に向けて多くのコンテンツを提供するために、より頻繁にファッションショーやPRイベントを開催するようになってきている。しかも、展示会、ショー、ディナー、パーティといったイベントに招待されるのはフォロワー数の多いインフルエンサーであったり、招待客たちはイベントの写真をInstagramにアップするように勧められている。

中でも、Burberryは最もソーシャルメディアで成功している企業のうちのひとつだ。

同ブランドは高級ブランドにとって最も関連性の高いと言われているSNS、Instagramにて、1ポストにつき最も多くの”いいね!”を集めている。その他にもInstagramにて好成績を収めているブランドはMichael Kors, ChanelとLouis Vuittonだ。

ファッションはInstagramでも最も人気のあるカテゴリーのうちの一つだ。そして、Instagramはストーリーを語るのに向いているプラットフォームだという。人々は”物語”を求めてInstagramを閲覧するのだ。

しかし高級ブランドはこれまで、ハイエンドで崇拝される対象となるようなコンテンツを作ってきたため、ストーリーを語るのが苦手だ。一方、デジタルコンテンツには感情や近接感、反応性などが求められる。そこでブランドはこれまでと違ったコンテンツ作成モデルが必要となる。

そのためブランドはマーケティング費用を再分配するだけでなく、更に費やしているのだ。中には、デジタル以外の広告費を減らしている企業もあるが、Chanelのように多くの企業が他のチャネルの費用を減らすことなくデジタルへの投資も行っている。例えば、雑誌広告は深く狭い範囲でターゲット層にリーチできるため効果的である上、競合ブランドが掲載している以上手を引くことはできないのだと専門家は語る。

デジタル推進を行っているブランドは、オンラインとオフラインマーケティングの区別を付けなくなっている。デジタルをすべてのマーケティングの根幹に置いているからだ。

しかし、Celineのように頑なにデジタル化を拒む企業もある。同ブランドのクリエイティブ・ディレクターPhoebe Philoは”Facebookを始めるくらいなら裸で外を歩く”と発言している程のSNS嫌いだ。しかし、彼女も近いうちにも考えを改めざるを得なくなるだろう。

デジタルのチャンスを手にしない企業は、今後、後退することになる。
成長の機会はデジタルにあり、デジタル展開は生き残りに不可欠なのだ。

Content curation: Yujiro Numata
Translation: Ayako Shimatani

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