大成功を収めたSquareのPR戦略

Ayako Shimatani
Fashion-Tech News
Published in
15 min readDec 7, 2015

Square(簡易クレジットカード決済サービス)のターゲットは非常に大きい。ファーマーズマーケットの出店者から、サーフィングのインストラクター、理容室の店主など様々な人々 — 何かを販売している全ての人がターゲットになる。

今回、SquareのDirector of Product Communications and Marketingを担うKhobi Brooklynが非常に大きなターゲットに対するPR戦略について語ってくれた。

・オーディエンスを定義する

オーディエンスが膨大だからこそ、幅広いメディアに取り上げてもらうことは重要だ。多くのスタートアップはThe Wall Street JournalやThe New York Timesのようなメジャーな新聞に取り上げてもらおうと必死だが、地元向けのニッチな業界誌に取り上げてもらう方が顧客に近づきやすいという。

しかし、一度に、全ての人にアピールするのは難しい。そのため、ターゲットとなるコア層を見極めることが需要だ。

コア顧客を見極める

はじめは、自分がよく知っている人々からはじめると良い。

SquareのルーツはtechやBay Areaにあるため、はじめ、テクノロジーに親しみのある人々や、地元のお店に向けてマーケティングを行った。この地域は参入障壁が低く、SNSを使いこなす人々が多いため周囲への影響力を持っている人たちが多かった。これで商品について拡散してもらう事ができる。

まずは、自分の周りの人々について考えてもらいたい。彼らの行動はどういうものか?弱点は?どうやったら嫌がられずに商品を紹介できる?

こうやって地元の顧客ベースを強固にすれば、ソーシャルプルーフを形成する事ができる。

しかし、SquareはSilicon Valleyだけに留まるのではなく世界を目指している。あまりにも大きなターゲット顧客だと思うかもしれないが、そこで、それぞれのターゲットを小分けして、vertical market(狭い市場)に分類すると良い。そうすることで、どの市場が影響力を持っているのかや、どの市場に自身の製品がフィットするかを見極めることができる。

Squareはファッション業界、スポーツ、食品といった様々な市場に可能性がある。その中でも、美容サロンが最も成長中の顧客ベースだという事に気づいた。そこでBrooklynはその市場に向けて活用できそうな新しい機能が発表された際は必ず、その仕事に従事している人を宣伝の為に招いた。例えば、予約管理ツールを発表した際は、サロン経営者達から、Squareがいかにビジネスにとって有効かという体験談を集めた。

実際の顧客がどのようにSquareを活用しているかというストーリーを話してもらうことは非常に有効だという。このやり方ならば、どのようなシステムかを口頭で説明するのではなく体験談から学んでもらえる上に、共感し、自身のビジネスでどのように活用できるか考えてもらえるのだ。

記者に直接会うこと

メディアとは様々なチャネルにより形成されているものだ。一歩引いて、自分の製品発表を見て、これを報道することで記者たちにはどのような利益があるのかを考えるといい。その上で、どのような記者に会うのかを見極めることができる。

以上のことを踏まえた上で、幅広いメディアに取り上げてもらう3つの方法はこの通り。

1. 顧客の身近に存在するメディアを使う

ビジネスを経営している人たちは地方紙からビジネスのウェブサイトまで様々なメディアをチェックしている。その中で自身のバーティカルには、どのメディアが人気があり、影響力があるかを見極めなければならない。それをまずは自身のビジネスにとって最もコアとなる顧客からはじめるべきだ。

もしもあなたがその世界の人でなければ、Hair Salon TodayやNails Magはよく分からない存在だが、それらのメディアはビューティー業界人には非常に人気の高いメディアだ。これらに詳しくなり、その業界では、誰が影響力があるのかというのを見極める。そうすることで、人々の注意を引くことができるだろう。

2. 正しい記者と関係性を構築する

ただがむしゃらに記者に連絡を取るのではなく、メディアについてを事前にリサーチする事が大切だ。

・そのメディアのフォーカスは?

・どれほど広くネットワークを持っている?閲覧者数または、購読者数は?

・ビジネスに関連するその他のトピックを扱っているか?それを活用することはできるか?

・人々はアドバイスや意思決定の際にそのメディアを参考にするか?

こういった質問に答えることによりそのメディアには価値がある、と判断した際は、そのメディアの中でも、自身のビジネスについてを記事にしてくれそうな記者を見つけよう。その記者の名前をその他のどのような場所でみかけるかや、その人がこれまでに書いた事のある関連記事、そして連絡先を探す。

その記者と初めてコンタクトと取る際は、「これまで書かれた記事から弊社の製品に興味を持って頂けると思い…」といったように、こちらが彼らの仕事を助けているように思わせる文面でメールを書く(彼らは突然の電話は嫌がるのだ)。その記者のオーディエンスは製品について知りたいかもしれないし、記者もより大きなオーディエンスが欲しいのだ。

もしその記者と初めて連絡を取った場合は、どういった企業なのかという説明を加えることも重要だ。Techスタートアップは、メディアは常に自分の会社を知っていて興味を持ってもらえると思い込んでいる傾向があるようだが、地方紙や地方TV局はTechCrunchのようにtechについて大して報道しない。VC投資をいくら集めたかや、著名な役員の名前よりも、その商品がどれだけそのメディアの視聴者や読者にとって有益かを、アピールする事の方がよほど大切だ。

どうしてその情報がオーディエンスにとって重要か、有益かを会話全体を通して強調するべきだ。”情報”とそれが”どう関連するか”は常に一組となるべきなのだ。例えば、Squareはただの新しいテクノロジーではなく、これによりビューティーサロンやエステサロンの経営者たちがこれにより収益を向上できますよと、アピールする。

そして記者たちも”人”だという事を理解するのだ。彼らにも目標やノルマがあり、ボスが居て、とても忙しい。どうやったら彼らの仕事を楽にしてあげられるかを考えるのだ。

役員のコメントや、顧客の体験談、商品機能のスクリーンショットや、関連のある統計情報をメールに含むのが一つの手だ。もし、その記者が自身のビジネスに興味を持ってくれそうな人物であれば、これをすることでビジネスについて前向きな記事を書いてくれる可能性はぐっと高まる。

このように、記者への思いやりを大切にしていれば、記者たちと相互に利益のある関係性が築け、今後、新しいニュースがある際にも協力してくれるだろう。

「新しいニュースがあって拡散するのに協力してもらいたいのですが」ではなく、「君の世界ではどうだい?僕のビジネスは君が今やっていることと関係があるかい?君のオーディエンスは何を知りたがってる?僕たちはそこにどうやってフィットできるかな?」といった調子で聞けばいいのだ。

3. 地元に働きかける

地元紙の力を侮ってはいけない。technologyについてを中心に書いている記者と地元紙の記者とでは、また違った関係性を構築する事が必要だ。

例えば突然リトルロック(アーカンソーの地方都市)の記者に会い、Squareで働いているからといっても取り合ってはくれないだろう。

そこで、その地域の市場についてリサーチを行う。地元の経済トレンド、人口統計や最近のニュースなどを調べ、自身の商品がどこかにひっかかるか考える。もし小さなビジネスを始める事が流行っているのならば、Squareはそこで地元の経営者たちがビジネスを拡大する事を助けることができる、という話ができる。

地元の人々にアピールするために一番有効なのが、実例を用いることだ。実際の成功例を用い、なぜその商品を使うべきか話すのだ。重要なのは、記者がまだ知らない情報を与え、商品について話すのではなく、オーディエンスである顧客を中心に話を展開することだ。

素晴らしい顧客のサクセスストーリーに出会う

Squareは顧客の成功を重視する。なぜなら、顧客の成功は企業の成功だからだ。顧客のサクセスストーリーは、Squareの製品には効果があり、人々に愛され、オーディエンスと共感できる立場にある人たちに変化をもたらしたという事の証明になる。

SquareはSNSを通して彼らのストーリーを公にしているだけでなく、直接記者にストーリーを語ってもらう事もある。

一つ気をつけたいのは、その成功した人物が製品より目立ってしまう事だ。

また、製品は、ストーリーの一部であり、製品を中心にストーリーが展開してはいけないという。

例えばSquareでは小規模ビジネスの難点や課題についてを取り上げ、どういった所でSquareがその課題解決を補助することができるのかを話す。経営者たちがどのように効率よく業務を遂行できるようになるかというのがストーリーの中心なのだ。

Squareの顧客がより良いビジネスを行えるように、BrooklynのチームはブログにどのようにしてSquareの様々な機能を店舗で活用できるかや、時には製品とは関係ない事も投稿する。例えば、SNSを使いこなしより多くの顧客を得る方法や、既存顧客をキープする方法といった事だ。製品を売ろうとしない、有益な情報源になれば顧客と長期的な関係性が築ける。さらに、顧客たちは彼らのコミュニティで口コミを広めてくれるだろう。

エンゲージメントをトラッキングする事も重要だ。投稿がどこまで読まれているのか、シェア数、動画再生や続きを読む…のCTRを活用し、今後どのようなコンテンツを投稿するか、どういったコンテンツが効果があるのか、そして効果のないものは改善していく事ができる。

こういった事を通して、顧客を大切にしていますという姿勢を見せるべきなのだ。

新たなオーディエンスを発掘する

Brooklynは、顧客だけでなく株主といった人々へのコミュニケーションも重要だという。投資者や採用候補者は企業の成長に不可欠だ。企業にとっていま一番必要なことは?それを満たすためにはどのオーディエンスに働きかけるのが一番いいのか?と考えるのだ。

企業には一つのコアとなるメッセージがあるといい。それはSquareであれば、”どこででも、ビジネスを管理するお手伝いができる”という事だ。しかし、そのメッセージはそれぞれのオーディエンスに向けて、それぞれに合わせた形での伝え方をしたほうがいい。

そして常に新たなオーディエンスを得ることを意識するべきだ。新たな製品や機能を発表する際は常にそれが人々のブランドについての認識をどのように変えるかや、これまでの企業のメッセージと一貫性を持たせるためにはそれについてをどのように伝えるか、そして人々にそれを素晴らしいものだと思ってもらうには何を伝えればいいのか、ということを意識しておく事だ。

そして発表をする際にはより多くの、異なるオーディエンスに伝わるようにするのがいい。TechCrunchにだけ取り上げてもらうだけでは足りない。オーディエンスの気持ちになり、物事を考えるのだ。

例えば、投資家たちはGlamourの記事に掲載されるような事は知りたくない。コツは、それぞれのメディア、オーディエンスに向けた見出しを事前に想像する事だという。それが想像できていれば、どのメディアにフォーカスするべきかも分かる。

様々な新しいオーディエンスと繋がるという事は、それぞれに合わせてメッセージを言い換える事であり、様々な種類のコンテンツを用いる事でもある。Facebookで最もシェアされるのは、写真のコンテンツだ。

どのキャンペーンが、どういったチャネルで成功しているのかをトラッキングすると良い。特定の写真や動画へのエンゲージメントはE-mail、SNSどちらでより高かったか?やFacebookの投稿は写真や動画が付いていたほうがCTRが高いか?を気にかける。コンテンツをシェアしてもらうのは、新しいオーディエンスにアピールする最も効率のよい方法だ。

人々がブランドに対して理解を深めてくれる機会が多ければ多いこそ、顧客や顧客になり得る人の数が増えるのだ。様々なコンテンツを作成する最大の利点はそこにある。経営者たちは忙しいため、一発で何かを伝えてくれるようなイメージが最も効果がある。長いブログ投稿は読まないかもしれないが、それがフローチャート化されていたら多くのシェアに繋がるだろう。

動画においては人々の集中力が持続する時間を考えるとよい。人々は30秒~2分程度の動画は見てくれるが、おそらく5分もあるとあまり見てもらえない。そして内容のない動画を作ってはいけない。顧客の貴重な時間を使って動画を見てもらっているのだ。こういった顧客を尊重する態度を動画にも表すのだ。

文字のコンテンツを作成するときも箇条書きによりわかりやすく、短時間で理解してもらえるようにするべきだ。続きを読む…のようなリンクを付けて、さらに知りたい人にはもっと読んでもらうといったようにしてもよい。

Brooklynは、他社がやっているからといって全てのメディアを使う必要はないという。全ての発表にプレスリリースや動画、ブログ投稿、ツイート、ランディングページといったものが必要なわけではないのだ。何を達成したいのかを明確にし、そのためにはどのようなチャネルが必要なのかと焦点を定める事が大切だ。

そして、そのために次の質問に答えるといい。

・そのコンテンツを通して何を達成したいか?メッセージを伝える?シェアしてもらう?ブランドについて特定イメージを持ってもらう?

・誰がそれにエンゲージするか、誰の注目を引きたいか?

・このコンテンツから学べることがあるか?インスパイヤされるか?野心を引き出させる?この事は、どのチャネルにこのコンテンツを出すかに影響するか?

・=つまり、このコンテンツにはどういった意味があるのか?

以上の質問に対して明確な答えがないものであれば、そのコンテンツは必要のないものだろう。

これに従った結果、BrooklynはSquareの利用で成功したDetroitのカップケーキ屋Just BakedのTurkinのストーリーを広めた。また、彼女による発言を引用したり、Square導入を考えている顧客へ話してもらうためにイベントにパネリストとして招いたりした。

会社が拡大するにつれて、更なる拡大をするには

こういった事で、新しい顧客に対する道を作ったあとは、潜入に成功した新たなマーケットとの繋がりを維持し更に時間をかけて顧客を増やしていくことが目標となる。

Brooklynは顧客とともに成長する事を勧めている。彼女はJust BakedのTurkinのようにこれまで一緒に仕事をした顧客と連絡を続け、彼らがその後どうなったかを気にかけている。それにより彼らのエンゲージを保つだけでなく、新たなストーリーを引き出すことにも繋がるからだ。

そして人々が新たな方法で製品を活用している方法についてアンテナを張るべきだ。製品をこれまで利用してこなかった人々が、製品をどのように利用しているか、気にかけておくべきなのだ。Squareはフライフィッシュのお店がSquareを利用していることを見つけたという。その発見により、さらなる顧客層と繋がることでき、新しいメディアや記者との関係構築や、宣伝のための新たな写真や動画の作成に至った。

常にキャンペーンを行う新しい方法を考えるべきだ。ローカルのイベントやTV、朝のワイドショーやネットフォーラムなど様々なチャネルで新たな顧客を見つける方法を考える。どこに素晴らしい顧客が転がっているかわからないのだ。キャンペーンが成功し、顧客獲得につながれば彼らの話を聞き、彼らのストーリーを借りて、また同様のオーディエンスを拡大していくことだ。

常に人々はどんなストーリーを聞きたがっているか?とそのためにはどうすればいいのか?が常に頭の中にあるべきなのだ。

The PR strategy of easy mobile transaction device and system company Square, by Khobi Brooklyn, Director of Product Communications and Marketing at Square.

記事セレクト: Yujiro Numata
翻訳: Ayako Shimatani

http://firstround.com/review/Square-Started-Small-and-Won-Big-with-This-PR-Strategy/

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