東京の魅力的なファッションブランド建築

Taiyo Uchino
Fashion-Tech News
Published in
9 min readMar 2, 2016
The Gyre Center. Credit: Rob ’t Hart/Image courtesy of MVRDV

ハイエンドブランド達が東京で強大なステータスを築いていることは隠しようのない事実だ。

しかし、多くの人が知らない事実が一つある。

それは、店舗に行って馬鹿高い商品を購入しなくても得ることのできる素晴らしい体験。建築そのもの、である。

過去数年、Renzo Piano, Rem Koolhaas, 伊藤豊雄氏 そして安藤忠雄氏を含む燦々たる建築家達がラグジュアリーブランドの店舗デザインに雇われ、街を、建築物の優劣競い合いの場として変容させている。

彼らは次から次へと賞の獲得を目指し、より目立って突飛押しもない事業案を考える。
日本建築が洒落たミニマリズムで知られる一方、これらの建築はその概念をかなぐり捨てて忘れることのできないシンボル的な建造物を創り上げているのだ。

Architectural Recordの東京特派員であり、”Made in Japan: 100 New Products”の著者であるNaomi Pollockは、

「日本の消費者は新しいものに対して、異常な欲求を持っている。」

「要するに、ブランドは建築家に人目を引いて消費者を誘い込む”小説”作りをさせているのだ。」

The Prada store. Credit: Nacasa & Partners Inc.

表参道, 東地区
Prada, Marc Jacobs, Comme des Garçons, Bathing Ape, Cartier and Chloé

“建築ウィンドウショッピング”ができる一番のエリアは表参道だろう。

街の中心地から西方にずれた緑の多い地域で、渋谷の騒がしいネオン街からも離れている。表参道は長らくファッションブティックと洗練された建築の集まる場所として知られてきた。

プリツカー賞受賞者であるHerzog and De Meuronが表参道にてプラダの店頭デザインをした当時から、ファッションブランド店舗とその建築のレベルは顕著な成長を見せている。

Marc Jacobs boutique. Credit: Nacasa & Partners Inc.

プラダのファサードはダイヤモンドカットされた緑色に光る巨大なガラスでできている。そのガラスの外壁はゆがめられていて、その不思議な建物の中を反射し少し垣間見ることができる。中から見れば、斜めにパッチワークで繋げられたガラスにより近隣のパノラマを見渡すこともできる。さらに、店舗のインテリアも外観とマッチしたものが選ばれている。建物も少し奥まった道にある中庭内に建てられ、壁に囲まれて佇む。

表参道はポカンと眺め続けてしまうような面白い建物に溢れている。
道を渡ってみればNew Yorkの建築家であるStephan JaklitschがデザインしたMarc Jacobsの店舗がある。そのファサードは滑らかなガラスや黒いタイル、穴の空いたスチールで覆われている。
Bathing Apeの店舗は、打ちっ放しのコンクリートフレームにガラスキューブがはめられたような様相をしている。
イギリスの建築スタジオFuture Systemsが手がけたComme des Garçonsの店舗はワープするようなガラスの壁が一際この地区でも目立っている。

表参道, 西地区
Tod’s Shoes, Hugo Boss, Christian Dior, Louis Vuitton

比較的広いエリアの表参道の西側に一度出てしまえば、往来は一気に多くなり歩道には足早に歩く人の群れで溢れている。

このエリアで特に目を引くのは、プリツカー賞も受賞した伊藤豊雄氏によるTod’s Shoesの建物だろう。マットなコンクリートとガラス素材によって、まるで木の枝が絡み合うようなデザインが施されている。内装もそのモチーフが使用されており、様々な方向にそのダイヤモンド型の壁が見られる。インテリアも近代的ではあるが、それでいて温かく心地の良いものが採用されている。
なお、商品の値段は突飛押しもなく高いので居心地の良さを感じることは簡単ではないかもしれない。

Hugo Boss building.

次に紹介するのは、團紀彦によるHugo Bossの店舗である。一見すると、狭いシュートの中で上に向かい伸びる城の塔のようにも見える。周りを細いコンクリート製のラインで囲まれている。

もう少し西の方に向かえば、また違うプリツカー賞受賞者が手がけたCoachの建物が見える。さながら、曇りガラスとクリアなガラスでできたルービックキューブのような仕上がりである。

さらに西へ足を伸ばせば今度はChristian Diorの建物がある。これもまたプリツカー賞を受賞したSANAAの作品だ。それはまるでライトボックスのように、窓が全て曇ったスクリーンで覆われカーテンの如くさざ波立っている。垣間見えるのはその建物内から漏れるネオンのみだ。しかし、残念ながら建物自体は強固な壁で出来ているのでカーテンのようにはいかない。

以上のような建築に夢中になるのはいいが、ファッションブランドとは関係のない建築に目を向けることも忘れないで欲しい。ファッションの総本山とも言うべき場所から少し離れて小道に一歩踏み込めば、規模は小さいものの奇妙で魅力的な建築にまた出会うことができる。電線がこれでもかと集まっていたり、極めて細い小道、巨大な建物や大通りに隣りだってぎっしりと並ぶ住宅もその一つだ。

これらの全てが集約している場所と言えば、前述したChristian Diorの隣りに建つGyre Centerであろう。黒く尖ったその複雑な建築はこれまた名高いオランダの建築スタジオ、MVRDVにより設計建築された。

さらに道を行くと、著名な青木淳氏がデザインしたメタルメッシュ製のファサードを持つLouis Vuittonの店舗が見える。中はさらにアートに溢れた作りになっており、折り紙から着想を得たシャンデリアや優しい光を出すメタルメッシュのカーテンなど、まるで歩いていく内に自分が浮遊しているような感覚にさせるほどだ。

De Beers store. Credit: Naoomi Kurozumi

銀座
Hermès, De Beers, Mikimoto

表参道を十分に楽しんだことがあるのなら、地下鉄で東へ15分も乗れば日本の“Fifth Avenue”、銀座に行くことができる。日本でも有数なネオン街だが、他のエリアよりも格式高い場所だと言えるだろう。

これまた世界的に有名な建築家であるRenzo Pianoが手がけた、絹のようにしなやかでバーボン色のガラスブロックを纏った9階建てのHermèsタワーを見ることができる。見上げればまるで壁に沿って登っていけるようなその姿に、うっとりしてしまうことだろう。内装にしても、その曇りガラスのブロックのおかげで光が幾重にも違う柔らかな輝きを放つ。その光は上の階へ登っていくにつれてさらに美しさを増していく。しかし、注意してほしいのは建物に入る場合には何か買い物をしなければならないということ。一番安いiPhone caseでさえ$554もする。

さらに数ブロック進むと、さらに二つの目を捉えて離さない建築が姿を表す。

光井純氏が手がけた、ジュエリー企業De Beersの建築はグレーのスチールで出来た柱が内に外にうねるようなファサードのデザインを持つ。内装は他の店舗と代わり映えはしないが、$100,000するようなダイヤモンドを見るのはそれだけでも楽しい。

さらに足を進めると、前述の伊藤豊雄氏がデザインをしたMikimotoの建物がある。紙のような薄さの白い外壁にアメーバ型の大きな窓が所々に空いたその見た目は、まるでスイスチーズみたいである。内装は泡のようなガラスで出来たシャンデリアや明るい青と白の内壁が外見ともマッチしている。

このように先進的で勢いのある建築をピックアップして見ていくことは大変に面白い。リテールと一概にまとめても、それ以上のものを彼らは内包している。

もちろん全てのアパレル店舗が素晴らしいというわけではなく、世界には似た者同士が集まったようなエリアがあることも事実だ。

例えば、あの安藤忠雄氏にだって失敗作はある。彼が建築した表参道ヒルズはその打ちっ放しのコンクリート塀に感心は集まったが、それでも建物自体は最終的にただのモール以外の何物でもない。多くの小規模建築家たちは、今まで列挙してきたハイエンドな建築も愚かで意味のない、人の目をひく道具以外としての要素はないと意見している。

多くの場合において彼らが言うことは確かに正しいかもしれない。だが、それでもいいのではないか。多くの建築家が学ぶように、「形態は機能に従う」というものだ。

この場合、彼らは名声とその技術力を売っているだけだと言えよう。

Content Curation: Yujiro Numata
Translation: Taiyo Uchino

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