WeWorkがいかに$10 billionの企業価値を投資家たちに納得させたか

共有オフィススペースを貸出するWeWorkは今tech界で最も価値のあるスタートアップだ。その企業価値は$10 billionで、Slack、 Draft Kings,、Lyft、 23andMeや Warby Parkerを全て合わせた金額より高い。The New York TimesやThe Wall Street Journal なども、この企業価値のあまりの高さに疑問を呈している。

Buzzfeedが入手した2014年10月に行われたWeWorkの資金調達のための資料が、誰もが抱いている疑問に答えてくれる。資料は今後5年の業績予想、プレゼンテーションのスライド、そして会社概要だ。Goldman Sachs、Harvard UniversityそしてJPMorganなどはこの資料から、合計$355 millionのSeries D投資を行うことを決定した。

2018年までの予測収益

WeWorkは2014年度に$4.2 millionの営業利益、$74.6 millionの収益になる見込みだとし、さらに、2018年までには営業利益が$941.6 million、$2.86 billionの収益となると予測。そしてその間、会員数は16,279から260,000に大幅に増加する見込みだとした。2018年には、貸し出しスペースを2014年の24箇所から376箇所にするという。

2018年までの予測

この資料が作成されたのは1年以上前であるため、現在もこの数字が有効かどうかはわからないが、WeWorkがどれだけ巨額の投資を導く話が上手であるかがよく分かる。資料からは素晴らしい軌道にのっている企業だということが伺え、利益、メンバー数、オフィス数の拡大と最高の数値を示している。

しかし、この予測には莫大な需要予測の前提と、非公開企業が頻繁に用いる財務トリックが隠されている。

こういったトリックを使うのはWeWorkに限った事ではない。そして、WeWorkの法外なスピードでの企業価値の上昇から、多くの投資家が次のユニコーンへの投資を逃したくないと過剰に願っている事が伺える。

WeWorkは実際には、自社がよりよく見えるような数値しか開示していない。懐疑派も、予測上の計算や直感的な判断により投資を行っているのだ。

次に公開するWeWorkのプレゼンテーションは、スタートアップの企業評価がどのように行われるのか、さらに、WeWorkがいかに”デカコーン”(角10本)【$10 billion規模の企業に対し、彼らの用いる財務トリックによりあまりにも価値が膨れ上がった事への皮肉もこめて付けられた新たなネーミング】と呼ばれるに至ったのかを理解するのに役立つ。

まずThe Informationによると、この資料では、WeWorkは短期的に賃料を実際より低いように見せており、そうすることで、経費を少なく見せているという。この予測は実際の数値とはかけ離れたものとなるだろうとThe Informationは予測している。

資金調達用の資料はよく見えるように作られるものである。さらに、投資家たちは3分44秒しかその資料を見ないという研究結果もでている。WeWorkの広報担当者によると、実際の投資を行う直前には投資家たちに、”監査済みの財務諸表”が渡されるという。これはつまり、会計基準に従ったプレゼンテーションと、そうでないものが存在するという事だ。しかし実際の投資決定を導くのは最初に配布される、会計基準に従っていないプレゼンテーションである。

5年業績予測

資料によると、WeWorkは不動産を所有せずに都市部の中心地の物件を長期賃貸する。ということは、WeWorkが利益を得るためには、大家に支払うよりも多くの金額を会員から徴収しなければいけない。つまり、WeWorkは不動産を媒介し、人々を共有スペースに集め、会員からの賃料や、ヘルスケアなどのサービスの販売などにより利益を得ているのだ。

WeWorkはオフィススペースの貸与を、2008年に危機に陥った不動産業界が復活する以前の2010年に始めた。現在、不動産相場は最高値を迎えているが、WeWorkは家主達に値下げを交渉中だという。2014年の資料によると、WeWorkは家主達にフリーレント期間の延長や、賃料の値下げ、改装への資金提供を求める代わりに、25%から50%の利益を提供する事や通常より長期の契約を結ぶ取り決めをしているそうだ。同社はこのように利益を共有する形の契約は”アセット・ライト”だというがその負担が本当に”ライト”であるかどうかは疑問である。実に、WeWorkがNYに持つ契約物件のうち17もの物件が15年以上での契約だ。

市場価格 vs アセットライト
ロケーションごとの合計会員CAPEX

WeWorkの財務予測では、フリーレントなどの値引きが会計基準(GAAP)に沿って記載されていない。GAAPでは、そういった値引きは貸与期間に渡って分割して表記するべきだとしている。WeWorkはそれをすべて始めの期間に記載し、フリーレントが終了した際は経費が上昇するようにしている。つまり、同社の超長期の契約期間から考えれば、5年後の予測には経費の急激な上昇は含まれないのだ。これにより、WeWorkは特定の物件で、最初の数年間は非常に高い利益を見込む事ができる。また、家主が改装費用を負担することでWeWorkの初期費用を低く見せる事にも成功しているのだ。

WeWorkの資料では頻繁にEBITDA(金利・税金・償却前利益)が参照されているが、これはGAAPでは使われない指標だ。非公開企業はGAAPを使う必要はないため、Uberのような企業も、非公開市場で巨額の資金を得ながら、上場市場で精査される事を避けているのだ。

同社の”収益が確保できるまで、大家たちに助けてもらう”という手法はキャッシュフローを確保するには最適だ。さらに、WeWorkは会員数の増加から会費による収入増が見込めるため、将来的には(フリーレント期間などの終了により)経費が増加するにも関わらず、マージン率は上昇すると予測している。

しかし、WeWorkが提示する、1square footごとの収益の上がり方は不自然だ。大規模な拡大計画や競合の増加にも関わらず、マーケティング費や人件費が収益の比率では、縮小するとしているのだ。

また、WeWorkは需要が今後も上昇していくと予測しているようだが、将来の需要の予測は本来、不可能なのではないだろうか。

さらに、WeWorkは上場企業のRegusと比較してWeWorkの成長可能性を強調している。例えばWeWorkのユニットマージンは44%、Regusは16%としているが、そもそもRegusはレンタルオフィス会社であり、WeWorkの競合とはいえないため比較するのは難しいだろう。

WeWorkとRegus比較

WeWorkによると、マクロ経済動向も、同社に有益な方向に向かっているという。例えばフリーランス労働者の増加や法人による不動産の利用の低下だ。

そして、こういったトレンドに不景気が及ぼす影響については、とても楽観的なようだ。WeWorkは不景気の際の占有率は85%だとしているが、それはRegusの好景気の際の占有率だ。

市場価格vsアセットライト(通常時・不況時)

もし、テクノロジーバブルが崩壊すればコワーキングスペースを利用する小さなスタートアップはなくなり、WeWorkも必要がなくなる事になる。WeWorkは、不況時に創業した事からも、そういった不況時にはtech業界以外のテナントがコスト削減のために入居すると主張している。しかし、これからは、WeWorkの競合の数は増えるばかりだ。

同社のキャッシュ・フロー計算書はどうであろうか。$101 millionの資金注入がなければ、2014年は$78 millionのネガティブキャッシュフローで終わっていたという。成長中に企業はたいがいマイナスであるため、それ自体は悪いことではない。しかし、資料にはユニットごとの数字ばかりで、利益率については記載されていなかった。

キャッシュフロー計算書(5年予測)

また、資料の詳細部分を確認すると、すべてのロケーションに関する情報は、半分ほどの物件がその年の初めに契約されたものにもかかわらず、満期時のものとされている。

“WeWorkの確実に?採算性のあるビジネスモデル”

こういったことからも、より良く見える成長曲線を作り上げることがいかに簡単かということがわかる。WeWorkの今後5年の業績予想は、多くの仮定を元に作られている。会員数成長率、価格、そして占拠率といった重要な数値がWeWorkのモデルを作り上げているため、その仮定の数値が変わればもちろん、結果も大きく変わることになる。

同社が大きく賭けに出ている、WeLiveという共同生活事業に関しては、資料ではサービス開始前にもかかわらず、2018年までに同社の収入のうち21%を占めると予測している。そして開始から3年で年$605.9 millionの収益に繋がるというのだ。とある情報源によると、CEOのNeumannは将来的にはWeLiveがWeWorkの規模を上回るとも考えているという。

WeLiveの計画

WeLiveでは、年36%の住居費を節約できると宣伝しているが、同社の小さなアパートは、ブランドのついていない他のアパートと比較して高くなるだろうと思われる。マンハッタンのフィナンシャル・ディストリクト(2つ目のWeLiveが位置する)の平均家賃は月$5/square foot (0.09㎡)だが、WeLiveの物件は1人276 square feet (約26 ㎡)のスペースで、2015年には$6.5/ square foot、2018年には$7.2/square footの家賃にするとしている。1人ごとのスペースにはルーフトップラウンジなどの共有スペースは含まれていないが、はたして、多くの若い世代が実家で暮らすこと選択しているようなこの時代に適しているのだろうか。

住居費の比較 WeLive VS 通常の賃貸住宅

さらに、オフィススペースに関してもWeWorkは、通常のオフィスを借りるよりも25%節約可能だとしているが、同社のスターターパッケージは月$45で、デスクスペースが月のうち1日無料で利用可能になり、会議室利用は1時間につき$25〜、WeWorkの住所をビジネス用の住所として利用する場合はさらに月$50支払わなければいけない。また、会議室利用料金はピーク時間帯には高くなる。

WeWorkは近隣のオフィスと比較すると非常に割高だ

多くの会員はsquare footごとの料金が割高だという事を分かっているが、それでも、自由な選択をしたいと思っている起業家たちにWeWorkは人気だ。そういった、個人的なスペースよりも作り付けの社会的ネットワークを重視する人々によるマーケットの存在がWeWorkが投資家たちを引き付ける何よりもの理由だ。

また、WeWorkの売り込みピッチは言葉巧みだ。巧みなプレゼンテーションは投資家の判断基準にもなっているというが、一方で、同社の潜在的な顧客の定義はあまりも広過ぎないだろうか。同社は潜在的な顧客として100名までの従業員がいる企業、そして、100から5,000名の従業員が存在する企業の20%をあげている。あまりの強引さに、不動産関係者は困惑したかもしれないが、WeWorkは「シェアリング・エコノミー」や「アセット・ライト」のようなバズワードを巧みに使い、スタートアップという隠れ蓑をうまく使いこなしている。

潜在的な顧客(US)

企業価値は、株価収益倍数により計算される事が多い。そして平等な倍率を計算するために、多くの投資家たちは競合との比較を好む。WeWorkの場合はChipotleとUberだ。しかし、WeWorkの企業評価$5 billionは同社の今年の営業利益の100倍だ。昨年から物件数が23から52と倍以上に増加してはいるが、異常な倍数の企業評価がされている事がよくわかる。

投資家たちがこういった強引な仮定を信じようとしているのは、彼らが最高の株価に到達するような、Uberに続くスタートアップに先んじて投資したいという強い気持ちがあるからだ。しかしWeWorkや他の”デカコーン”達が評価の価値に達するかどうかは疑問だ。

この夏、誤解を招く財務指標はホットな話題だった。Wall Street Journalでもスタートアップが数字のトリックにより実際の収益を大幅に上回る大げさな数字を発表している事を取り上げ、VCのAndreessen Horowitz,やY CombinatorのSam Altmanも財務指標の厳格なガイドラインが必要だと発言した。

これには、資金調達用のプレゼンテーション上の数値を信じ、従来行われるべきリスク分析を行っていない、投資家側にも過失がある。

今回の資金調達ではGoldman Sachs, T. Rowe Price Associates, Wellington Management, JPMorganやHarvardが投資を行った。いずれの企業も多くのユニコーン企業の好機を逃してしまったことから、焦っているのかもしれない。

スタートアップは投資家たちに”未知なる市場”についてのおとぎ話を聞かせ、投資家たちはスタートアップが”新世界の覇者”となるために、支える。しかし、資金が簡単に手に入り、投資家たちが流れに乗り遅れる事を恐れるようでは、まるで投資家たちはスタートアップ投資のトレンドそのものに投資をしているようだ。

今、未来のニュースがわかったらどんなに良いことか。

記事セレクト: Yujiro Numata
翻訳: Ayako Shimatani