Kumiko Nakayama
Jun 5, 2016 · 7 min read

イタリア・トスカーナより、有名観光地に隠れたちょっと面白いイタリアの裏話や、モノづくりの現場などについてレポートしていく連載です。
第四回目となる今回は、フィレンツェ北部を拠点に地元産の素材を使い、デザインから製作まで一貫して行う木工職人のお話しです。

フィレンツェより北北東へ約30キロにある中規模の町、ボルゴ・サン・ロレンツォ。フィレンツェから直通電車でたった40分で、なだらかな山々に囲まれたムジェッロ地方の中心であるこの街に到着します。

緑豊かな町を駅から見下ろす

大通りから入った狭い路地の一角にある、木工職人・アントネッロさんの工房を訪ねました。工房に入ってすぐ目についた、和の階段ダンスのような物について尋ねると「年の離れた兄弟の狭い子供部屋の家具なんだ、階段の先には上の子用のベッド、下の子のベッドはここでモーター付きで、この引き出しにはシーツなどの収納で……」と、嬉しそうに詳しく説明をしてくれました。木工職人としてのキャリアがたった2年とは信じられません。

全てが手書きのサイズ表

アントネッロさんはイタリアの地図で言うと、「かかと」部分・プーリア州の出身。厳しい就職状況の中、24才の時にフィレンツェに移住した友人達を訪ね、そのまま居残ることに。職探しの傍ら、当時フィレンツェで盛んだった大衆文化や芸術の活動に参加し、仲間と共にアニメビデオを製作したり……その間にモノ作りが好きなことに気がつき、他の2人と共にジュエリーの工房を立ち上げますが、2009年に解散。その前から自宅でやっていたDIY製作を通じ、木を使った作業にジュエリーとはまた違う新しい魅力を見出します。

ゼロから始めて、最初は友人やちらっと工房前を通った人から「これちょっと直してもらえる?」と鎧戸やイスなどの修繕から開始。そうなると家にお邪魔しなければならないのですが、「最初はローカルラジオにCMを流そうかと思ったけど、でもラジオCMで聞いた人をいきなり家に呼ぼうと思わないよね?」メディア宣伝は一切行わず、「口コミが一番の宣伝」と、忙しくなった今でもこういった修繕を続けているそうです。

年の離れた子供用の狭い部屋向けの家具の図面には、寸法以外にもアイディアや注意すべき点があちこちに。

それが功を奏し、今では先ほどの狭い子供部屋や、梁を残しつつキッチンとも接する難解な収納家具のオーダーも入るように。家を訪問する時はサイズを測るだけでなく、「大事なのは、家の中からその人の好きなモノ、好きなデザイン、ライフスタイルを見て聞いて、一緒に最終形を作ってゆくことだ」と語ります。

「面倒だよね?何回もお宅を訪問するのも、天然木にこだわるのも」と、見せてくれたのが、一見同じような木のパネル。

左は栗の木のパネル、と言っても表面の薄い1枚だけでその下はモミの木が接着してあり、芯はポプラ。こうすれば素材費は安くなりたわみなどの心配もないけれど、「同じ天然木にこだわるなら、パネルを作りパネルが次第に膨張したりねじれてくるのを防ぐための枠を作る必要があるけど、皆そういうことをしなくなってる。でもそれは職人じゃないし、そんな製品でいいなら量販店のを買ってもらえばいい」と言い切ります。

そして現在、アントネッロさんはFMMF=Foresta Modello della Montagna Fiorentina(フィレンツェの山々のモデルとなる森)というフィレンツェ北東の7市が参加する地元の森や木、そして働く人や会社のプロモーションを行う協会の一員で、同じ協会員の伐採会社から素材を購入しています。残念なことに、チェルノブイリの汚染された木や、子どもたちの強制労働によって切り出された木が流通しているそうで、「そんな木が流通していても、自分の家具に使われていても誰も分からない、僕たち職人だって。でもそんな木なんか絶対に使いたくない」。

FMMF Il legno の商標は素材と製品の保証の印。

協会では、森の生態系を壊さず正しい伐採方法によって切り出された木材と、それを使った製品のプロモーションのため、そして素材と製品の保証のしるしとしての商標を作り、今後彼の作品にも焼き印が入るそうです。

こういった家具のほかに力を入れているのがキッチン雑貨で、主にオンラインショッピング(日本語版)やブログの告知を通じて販売しています。

フェイスブック・ページより、オリーブオイルのみで仕上げ、自然の風合いとフォルムが美しい雑貨達。

料理上手なアントネッロさんは、いいなと思ったものをデザインして試作して、自身や奥様が使って良いと思ったものに改良を加え製品にしています。作るのは1つ1つ全部手作業。1人で時間もないのでサンプル以外は在庫は持たず、オーダーがきたら1つでも製作すると言います。

1つの器を作るのに3時間!その作業を1分にまとめた動画です。

今後のプロジェクトは?の質問に、「オーダー家具とは別に、雑貨のように小さな家具コレクション作りたいな。奇をてらったものじゃなくて、シンプルな中にちょっとしたこだわりが入ったものを。雑貨なら試作してダメでも暖炉や釜で燃やせるけど、家具だと試作時間もバカにならないから練りに練らないとダメだな」と苦笑い。

工房の名前はファンタレニャーメ。ファンタジーア=ファンタジーとファレニャーメ=木工職人を掛け合わせた、アントネッロさんの造語です。

木材買い付けからクライアント訪問、デザイン、製作、販売、梱包や発送までも全部1人で行います。

アントネッロさんのファンタジーが吹き込まれた作品たちは、今年中に工房入口に設置予定のウィンドウに飾られる予定。どんなオリジナル家具が誕生しているのか?また工房を訪ねたいと思います。



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Kumiko Nakayama

Written by

イタリア・トスカーナ州の田舎在住。イタリア語通訳・翻訳、コーディネイター、リサーチャー、ライターとして、イタリアに関わるいろんな事で活動中。 愛するトスカーナの小さな村やお祭り、体験型プログラムなどを紹介するサイトを運営:http://toscanajiyujizai.deca.jp

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