ラッパー・ガクエムシーさんインタビュー

大型フェスからライブハウスでのアコースティックライブまで、様々な形態でのパフォーマンスを展開するラッパー、ガクエムシー氏。彼に、アルバム『キュウキョク』やエッセイの新刊など、独立直後のプロジェクトについてうかがった。(学芸カフェ2011年12月号 より再構成/掲載)
キュウキョク(ガクエムシー)
 一 Mic Check 1.2.
二 Don’t Stop !
三 もしもラッパーじゃなかったなら
四 take it slow (希望の灯ver)
五 夢の叶え方
六 ラシクアルガママ
七 ナクスコトデシカ
八 新たな日
九 AOU 
全曲のPVと未公開映像の収録DVD付

— — — アルバム『キュウキョク』の話からうかがいます。このアルバムの曲調は、アップテンポの1曲目『Mic Check 1.2.』、ピアノの旋律が美しい『take it slow(希望の灯ver)』、ジャズ系のアレンジ『ラシクアルガママ』など、非常にバラエティに富んでいます。
ガクエムシー: ラップでメッセージを伝えるのが僕の仕事なわけで、極端な話をすれば、ラップを乗せることができれば「バックトラックは何でもいい」というくらいなんです。ステージでは、「メトロ君」って呼んでるんですが、メトロノームに乗せてラップをしたこともありますよ(笑)。その時に好きになっている音楽が一番如実に入ってくるんだろうという感じです。

— — — 楽曲の創作、組み立て方について。PVなどを観ていると、小さなメモ帳に思いついたフレーズなどを書かれていることがありますね。曲の組み立てについては、細部から全体をつくる感じでしょうか、あるいは逆?
ガクエムシー: 思いついたことがあれば、メモ帳に書くか、メモがなければ家にメールで送っておきます。全然違うことをしているときに思いついたりしますね。他人のライブや映画を観ているときや、おばあちゃんと電話で喋っているときとか(笑)。
 組み立て方については、「その曲で何を言いたいかが見えればその曲は完成できる」ということです。逆に、その一言が見つからないときには完成しません。どうやってそのメッセージに導いていくか、という風に僕は曲をつくっています。

キュウキョクPV集
本画像は『take it slow(希望の灯ver)』(監督:戸塚富士丸)より

— — — アルバム全9曲のPVが毎週1本のペースで公開されています。こちらも、幻想的なものからライブ感満載の楽しい雰囲気のものまで、幅広いですね。それぞれの監督へは、楽曲にあわせたイメージなどを伝えてつくっているのでしょうか?
ガクエムシー: じつはPVの内容について「こうしたい」といった要望は言ってないんです。それぞれのPVの監督に企画書を書いてもらって、もちろん微修正はあるけれど、基本的には何も言わずに作っています。
 『BUMP OF CHICKEN』などのPVに携わっていた若い人を紹介されて、話を聞いたんですよ。そしたら、大好きなアーティストの映像に携わって、尊敬する監督さんとの仕事もできたし、次の夢を探してるところだって。じゃあぜひ一緒にPVを創ろうっていうことになって。まだ若くてチャンスがなかなかないから「くすぶってる」ような人もまわりにいっぱいいるっていうことで、ガサッて集まってもらって。目が輝いてて、自分自身の20年前も思い出しました。こんな目をしてたなあ、って。

— — — アルバム『キュウキョク』では、どういう人へメッセージを伝えたいですか?
ガクエムシー: 『DA.YO.NE』とかを歌ってたときもそうなんですが、「なんでこんなに面白い音楽があるのに、他の音楽を聴いてるのよ?」っていう思いがあるんです。ラップを一度好きになった人はなかなか離れられないですし、これまでラップやヒップホップを聴いたことがない人も巻き込んで、どんどん新規開拓をしていくことも僕の役割なのかなという気がしています。

— — — 『キュウキョク』では、『夢の叶え方』や『新たな日』など、子どもの視点の楽曲、子どもに向けたメッセージの楽曲も印象的です。
ガクエムシー: 「育児」を「育自」と書いたりもしますが、僕自身、子どもができてから教わることばっかりです。自分が子どもだった頃を振り返ってみると、父親は何でも知っててすげえな、と思っていたけれど、きっと父親も僕といっしょに育っていたんだろうなと思うようになりましたね。人にものを教えるのがこんなに難しくて、楽しくて、素晴らしいものかと、毎日感動しています。いま僕自身が一番一緒にいるのが家族だから、当然、そこへ向けての歌になります。

— — — 不定期のイベントで、子ども向けのラップ教室、通称『子育てラップ』なんかもされていますね。
ガクエムシー: いろんな種類のラップがありますが、ファンキーでハードコアなラップを覚える前に、みんなが一つになって盛り上がれるような、ポジティブなラップを覚えてもらったら嬉しいですね。

世界が今夜終わるなら
桜井和寿(Mr.Children)/小林武史/西原理恵子/Candle JUNE/栗城史多/SPEECH/高橋歩/澤穂希(なでしこジャパン)/三代目魚武濱田成夫/セヴァン・スズキ/清水圭/広瀬香美/乙武洋匡…
自分が選んだ道を歩む、人生の旅人27人が描く、最後の日。
出版社:A-Works

— — — エッセイ『世界が今夜終わるなら』を出版されています。Mr.Childrenの桜井和寿さん、小林武史さん、といった音楽関係以外にも、サッカー、登山家、と様々なジャンルの27人にインタビューされていますね。どのような経緯で?
ガクエムシー: 以前のアルバムでつくった曲から発想したんですが、「もし世界が今夜終わるなら、あなたはどうしますか?」って尋ねると、その回答が、その人の人生を明確に表しているんですよ。そこで、基本的には知人に電話してインタビューさせてくれよ、と。ただ、僕のまわりだと音楽関係に偏ってしまいますから、ちがう職業の人たちもインターネットで調べてコンタクトを取ったりしました。MBAをインドで取得してお寺でカフェを始めたお坊さんだとか、東日本大震災の後にすごく積極的に活動をされていたお医者さんだとか。面白い人がたくさんいるんですよ。

— — — 2011年に、それまでの所属事務所を独立され、仕事の方法、時間の使い方など、生き方そのものが変わったのではないかとおもいます。独立を決意された経緯を教えていただけますでしょうか。
ガクエムシー: 人生はこのまま同じようにずっと続いていくんだろうな、とどっかで思ってたんですが、そんなことはないんだと2011年の東日本大震災のときに改めて思いました。震災後に現地でボランティアをしながら、何もかもなくしている人たちの様子をみて、自分がすごく「ぬるい」なと感じたんです。残された時間を「いつの間にか終わっていた」ではなく、より有意義に使うことをすごく考えるようになりました。子どもにも、ラッパーであり続ける姿を見せたいと思うし、世知辛い北風突風の吹き荒れる今の音楽業界では、提案されることだけをやっていてもあまり長続きしないんじゃないか、と。
 もちろん、そうやって独立してみて大変なこともすごく多いです。これまではマネージャーがしてくれていた、細かい確認だとか。でもその分、会う人会う人とより深くつながれるようになりました。音響や会場を担当する人たちとも自分でやりとりをしていると、「もっといいものをつくりたい」と強く思います。

— — — 今後のビジョンを教えてください。
ガクエムシー: 事務所を独立してからはつねに全力疾走ですが、これからも走り続けたいです。

(学芸カフェ2011年12月号 より再構成/掲載)

(聞き手/牧尾晴喜)


GAKU-MC
ラッパー。1970年東京生まれ。1990年『EAST END』を結成し、『DA.YO.NE』(『EAST END×YURI』名義)でヒップホップ初の紅白出演。ミリオンセラーを記録する。
藤井隆「ナンダカンダ」、CHEMISTRY 「Dance with me」等、作詞提供多数。
現在はソロとして、ap bank fes. summer sonicを始めとする大型フェスからライブハウスでのアコースティックライブまで、様々な形態でのパフォーマンスを展開中。
2011年、所属事務所を独立。レーベル Rap+Entertainment(ラップラスエンターテインメント)を立ち上げ、2年ぶりのニューアルバム『キュウキョク』を発売。同時に、世界最後の夜をメインテーマに、様々な人の生き様とメッセージを綴ったエッセイ集『世界が今夜終わるなら』をA-Worksより出版。

(*プロフィールはインタビュー当時のものです。)