Kumiko Nakayama
Apr 19, 2017 · 7 min read

イタリア・トスカーナより、イタリアの裏話やモノづくりの現場などについてレポートしていきます。今回は、500年以上の時を経て、斬新な改装で高級ホテルに生まれ変わった、ある貴族の館のお話です。

カッライア橋のたもとに建つリカーゾリ宮は、15世紀中ごろに建てられた

フィレンツェの街を歩いていると、建物のファサードや端部、あるいは正面玄関に紋章を掲げた屋敷を多く見かけます。カッライア橋のたもとに建つリカーゾリ宮もそんな屋敷の一つで、リニエーリ・リカーゾリによって建てられました。15世紀のフィレンツェで台頭したメディチ家と親しく、またキアンティにある一族の城を対シエナ戦線の「フィレンツェの最後の要塞」として提供した人物です。

正面玄関を入った中庭は建築当時のまま。ヴォールト式柱廊が美しい(写真提供:LEONE BLUサイト

そんな歴史を持つリカーゾリ宮ですが、その2階部分が2015年3月に高級ホテルとしてオープンしたばかりです。その名も「LEONE BLU=青いライオン」、リカーゾリ家の紋章のモチーフから、この名前がつけられました。

今回私の訪問を迎えて下さったのは、現在この屋敷の大部分の所有権を受け継ぎ、ホテルのために改装を行ったマリア・テレーザさん。1470年頃のフィレンツェを描いた通称『鎖の地図 』にも、はっきりと「リカーゾリ」と書かれていることを教えてくれました。

レセプションの壁一面に広がる『鎖の地図』とマリア・テレーザさん。
マリア・テレーザさんのお父様=リカーゾリ家と、お母様の家の紋章が一緒になったものは、1階から2階へ向かう階段の壁に掲げられています。

客室9室は全てスイートルームで、一つ一つが実に個性的。ルネサンス期の歴史的建造物というよりは、モダンアートギャラリーにいるような錯覚を起こしてしまいそうなほど。この古典的な空間をいかに重苦しくなく、ユーモアとともにリノベーションできるのか? 7mという高さをどうやって活かすか? 広い壁面をいかに有効活用するか?といった課題に、マリア・テレーザさんが苦心して導き出した答えです。

一番広く、唯一4人宿泊ができる「リニエーリ」。部屋は全て、リカーゾリ家歴代の人物名がつけられている。(写真提供:LEONE BLUサイト
黄色の壁が目をひく「オラツィオ」、アルミの壁で仕切られた中はクローゼットになっています。格天井は17世紀頃のオリジナルそのまま。壁面には、1580年頃のフィレンツェの地図が大きく。(写真提供:LEONE BLUサイト
大理石のクローゼットルームで部屋を仕切った「パンドルフォ」、天井には18世紀初頭のフレスコ画が残されている。(写真提供:LEONE BLUサイト
カラフルな「ビンダッチョ」、紋章の赤・青・黄を効果的に使用。(写真提供:LEONE BLUサイト

壁や天井に残されたフレスコ画はそのままに、使える家具や調度品はすべて修復して再利用。現在は公共スペースになっている『鏡の間』にあったカーテンボックスの什器も、一つずつに分けて客室に設置したり、そのまま設置できない部屋では分離してスタンドライトや壁付ライトデコレーションとして使用したり……。どの客室にいても館の歴史が感られるようになっています。

「1800年代はGRAND HOTEL DE NEW YORKという名前のホテルだったこともあるんですが、近年は弁護士や公証人の事務所として貸していました。ですが、皆年を取って引き払ってしまい、父から受け継いだ時には、この2階部分は空っぽだったんです」

その空っぽの空間を見て、思い出したのはワグナーなど知識人が立ち寄った当時のホテル。そして、リカーゾリ家とフィレンツェの歴史を、訪れる人と共有したいという想いから、改装してホテルにしようと決心したそうです。客室にも、リカーゾリ家を感じさせるものがあちこちに散りばめられています。

リバービューの「ジェレミーア」の壁面には、歴代リカーゾリ家の肖像画。(写真提供:LEONE BLUサイト
マリア・テレーザさんの曾祖母の名前がついた「ジュリアーナ」、浴室の壁面にはリカーゾリ家系図の一部が。(写真提供:LEONE BLUサイト
施設内の全てのドアノブは、家紋のライオンがモチーフに。フィレンツェの青銅職人への特注品。(写真提供:LEONE BLUサイト

改築期間は約2年。建物は文化保護局の歴史的建造物リストに名が挙がっており、好き勝手に改築できるわけではありません。トリノの自宅改装を手がけた信頼おける建築家と一緒になってアイデアを出しては、文化保護局の担当者へ企画書を提出。実際に担当者が現場を訪れてチェックが行われ、ボツになった案もあるそうですが、「担当者も建築家だし、文化財は使用しなければ余計にすさんでいくこと、また税金や維持費もバカにならないことも理解していたので、企画案の大半は認めてもらえました」

イタリアの2代目首相となった「ベッティーノ」の間から見えるアルノ川とカッライア橋

500年以上前の地図と、ほとんど変わらない町・フィレンツェ。そこに何世紀もの歴史を守りながら、新しい形で一家の伝統を守り続けるレオーネ・ブルー。これからも世界中からの旅行者に、その伝統を語り継いでゆくことでしょう。



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デザイン系翻訳会社フレーズクレーズがお届けする、 日本のデザインを世界とつなぐマルチリンガルメディア

Kumiko Nakayama

Written by

イタリア・トスカーナ州の田舎在住。イタリア語通訳・翻訳、コーディネイター、リサーチャー、ライターとして、イタリアに関わるいろんな事で活動中。 愛するトスカーナの小さな村やお祭り、体験型プログラムなどを紹介するサイトを運営:http://toscanajiyujizai.deca.jp

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