Kumiko Nakayama
Jan 22, 2018 · 6 min read

イタリア・トスカーナより、イタリアの裏話やモノづくりの現場などについてレポートしていきます。今回のテーマは、フィレンツェの東南にあるサン・ニッコロ地区の教会。工房やギャラリーの集まる独特な雰囲気を持つ界隈ですが、この教会の旧祈祷所に偶然入って見つけたのが、創業175年の老舗布メーカーのショールームでした。この会社と教会との、ちょっと変わったコラボレーションについてレポートします。

フィレンツェのヴェッキオ橋からアルノ川を越えた東側、サン・ニッコロ地区。1400年代の町並みを残すこの地区は、かつての名家の住まいや工房が並ぶ一方、近代アーティストのギャラリーや新しいレストランがオープンしたりと、昔と今が交錯した独特の雰囲気が漂います。地区の南側には市外壁、そしてサン・ニッコロ門が残り、そこから坂を上ると、フィレンツェの絶景ポイントとして有名なミケランジェロ広場に到着します。

サン・ニッコロ通りとサン・ニッコロ門

一方、ミケランジェロ広場から下り、サン・ニッコロ門に入ってきて見えるのが、このサン・ニッコロ教会。12世紀に建設されたこの教会は1966年のアルノ川の氾濫で甚大な被害を受けたことでも有名で、教会の扉の左横にある氾濫時の水位を記すパネルが、当時の様子を今に伝えています。

アルノ川氾濫の時の水位は、2mは軽く越えています。

偶然ここを通りかかったある日、教会左側にある小さな扉が開いているのを見つけました。覗いてみると、そこにはBUSATTIのロゴと、たくさんの布ナフキンがディスプレイされています。

ディスプレイもクリスマス仕様

あとで調べると、これはアレッツォ県北東部のアンギアーリに本社を構える老舗の布メーカー。この時に初めて見た名前でしたが、カラフルな色と可愛らしい刺繍に引き寄せられるように、その中に入ってみることにしました。簡素な建物の外観とは裏腹に、その中は、インテリア雑誌に出てきそうな美しいテーブルセッティングやリネンで埋め尽くされています。

糸杉の刺繍のトスカーナらしいテーブルライナーで、グリーンで統一されたコーディネイト。

しかし、一番気になったのはこの空間そのもの。筒型のヴォールト天井、奥は大きな鏡があり、その上はローマのパンテオンを彷彿させるような半円の天井が見え隠れしています。そこで、そこに居合わせたこの場所の管理人・ラーラさんに尋ねたところ、ここはサン・ニッコロ教会のかつての祈祷所で、教区の住人が集う映画館としても使用されていたそうです。

しかし、1990年代中頃から利用されずに空き状態となっていた所、今年の春からブサッティ社が世界各国のバイヤーを受け入れるショールームとして使用するようになりました。使用が決定してからは、ブサッティ社のスタッフが内部の清掃などを行いましたが、必要最低限のことだけでも2週間かかったそうです。置いてあった十字架やピアノ、古い書籍は今も奥のスペースに所狭しと積み重ねられていますが、スペースの問題で暫定的に隅に追いやられたこれらのものが上質な布と絶妙にマッチし、スタイリングの一部のように見えるのが面白いですね。

ここに商談で訪れるバイヤーさんたちも私と同じように、まず、教会の一部というその場所に驚き、そしてショールームに入ったとたん、この空間をしばし傍観し、質問をしてくるそうです。

事の始まりは、なんともイタリアらしいのもの。この地区に住むブサッティのフランチャイジング店を営んでいたラーラ夫妻と、サン・ニッコロ教会や高齢のジャンピエーロ牧師をサポートしている美術史家・グラーツィア・バディーノ氏の、日々の「ご近所の雑談」からだと言います。空いているこの場所がもったいないので何か使い道はないか?から始まり、ショールームとして使用する代わりに、アルノ川の氾濫で損害を受けた教会の美術作品を修復しては?とトントン拍子に話がすすみ、彼らからの提案をブサッティ本社も快諾。しかし、修復する作品は決めたものの、修復してみないと具体的な数字はでず、費用も期間も未定なので契約書など書面の取り交わしは一切なし、というのに驚きました。しかし、「歴史ある会社として、芸術作品保護の役に立てるのは大変喜ばしいこと。熱心にいろんな活動を行っていた祖母の影響もありますね」、と2年前に会社を継いだ8代目の若社長・リヴィオさんは言います。

本社に飾られたブサッティ家の写真、真ん中がリヴィオさんの祖母・フランチェスカさん。

ちょうど私がブサッティ本社を訪れた日、サント・スピリト地区の修復工房から最初の作品の修復が完成したとの連絡がありました。作品は14世紀の木製の装飾額縁、6つのうち2つが完成し、他、残り4つの装飾額縁と17世紀頃の木製キリスト十字架像など3点が残っています。スペース賃貸と修復だけにとどまらず、ショールームを訪れるバイヤーさんに興味があれば、グラツィアさんが普段閉まっている教会内部をガイドしてくれる、というコラボレーションも行っているそう。
布製品の商談をしに行って、芸術や文化、そしてイタリアの企業活動も垣間見える。まだまだ奥が深い、そして伝統や人と人とのつながりがしっかり感じられるのがイタリア社会なんだなぁと、改めて再認識しました。



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Kumiko Nakayama

Written by

イタリア・トスカーナ州の田舎在住。イタリア語通訳・翻訳、コーディネイター、リサーチャー、ライターとして、イタリアに関わるいろんな事で活動中。 愛するトスカーナの小さな村やお祭り、体験型プログラムなどを紹介するサイトを運営:http://toscanajiyujizai.deca.jp

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