3D都市モデルPLATEAUをスケールする方法

Taichi Furuhashi
Furuhashi(mapconcierge)Lab.
10 min readDec 29, 2022
図1.PLATEAUの三次元建物データLOD1が実験的にOpenStreetMapにインポートされた東京都東村山市

世の中はギブアンドテイクがうまくいく。

デジタルツインというキーワードと共に国土交通省都市局が進めている3D都市モデルProject PLATEAU利活用検討の場「3D都市モデルの整備・活用促進に関する検討分科会」の座長としてこの2年間、どうやってPLATEAUを社会に定着させていくか、関係する多様な方々と議論と検討を重ねてきました。

ここでは、その途中経過としてPLATEAUがより社会に広がっていくための個人的な道筋案を記してみます。

# オープンデータの醍醐味は再配布によるスケールである

図2. PLATEAU の Site Policy に記載されているマルチライセンス・オープンデータの詳細

PLATEAUデータはオープンデータです(図2)。商用利用も含めて自由に二次利用できるだけでなく、再配布することもできます。G空間情報センターから直接ダウンロードするだけでは利便性が高くないですので、徐々に多様なPLATEAUデータの提供ルートを拡充していくことが重要なアプローチです。2022年12月にはPLATEAU SDKとして UnityUnreal それぞれに最適化されたSDKが発表されましたが、これは主にゲームクラスターやCGクラスターへのPLATEAUデータの普及にとって大きな一歩となるでしょう。(Unity版のほうがGitHubリポジトリのStar数が多いのが意外。ほぼ同数になるかと思ってました)

2023年はPLATEAUとコラボした様々なゲームがローンチラッシュかもしれません。それもこれも、PLATEAUが商用利用可能なオープンデータだからとも言えます。非営利のみに限定されていたらモチベーションそこまで上がらないですよね。

そして、さらにオープンデータの良さを活用してPLATEAUデータを普及させるには、もっと多様なクラスタに刺さるアプローチも重要です。

そのひとつとして提案したいのが OpenStreetMap を媒体としたPLATEAUデータの流通です。

# OpenStreetMap と PLATEAU は相性が良い

図3は、東京中心部のOpenStreetMap建物密度と人口集中地区(DID)を重ねた2022年12月現在の状況です。

図3. OSM建物密度(オレンジ:高)と人口集中地区(赤枠:2015年)の重ね合わせ [2022Dec27筆者作成]

様々な意見があるかと思いますが、誰でも自由に使えるデジタル地図データ OpenStreetMap は2004年から延べ1,000万ユーザに及ぶ地図入力ボランティアの力によって様々な地物の情報をクラウドソーシング手法で構築してきました。非常に充実したエリアもあれば、まだまだ整備が必要な地域も沢山あります。とくにその整備状況の指標として建物データの充実度はOSMデータの品質を比較する上で有効です。

そのような視点で図3のOSM建物密度の高い(=濃いオレンジ色)を見ると、赤い枠で囲まれた人口集中地区(DID)エリアと整合性が高いエリアもあるものの、東京23区や川崎・横浜市の中心部以外のいわゆる首都圏郊外は、OSM建物データがまだまだ未整備である地域が目に付きます。

一方で、PLATEAUは2021年3月のデータ公開から最初の1年で全国56都市、2022年度中には全国100都市を超える地域の三次元建物を含めたデータセットが順次公開される形で、OSM建物未整備エリアのいくつかはPLATEAUデータが先行している地域もあります。

図4. PLATEAUデータの整備都市(2022年12月現在)

つまり、お互いがまだまだ網羅性を獲得できていないOSMとPLATEAUは相互補完することで、三次元建物データを面的に展開することができる、非常に相性が良いデータセットであると言えます。

# CityGML → OSM 変換ツールは既存のOSMデータとの整合性までチェックしてくれる

すでに早い段階からPLATEAUのCityGMLデータ建物LOD1をOSM-XMLデータに変換するコンバーター citygml-osm を OSM Foundation Japan のyuuhayashi氏が作成してくれています。このコンバーターのすごいところは、単なるCityGML→OSM-XMLへの変換のみならず、既存のOSM建物データと比較して、OSMに未入力の建物だけを自動抽出してくれるところです。もちろんある程度人間が取捨選択をしていく作業が発生するわけですが、実際に動作テストしてみると、想像以上に丁寧に今までOSMに入力してきてくれた多くの貢献者の方々の想いを裏切らないように、JOSMの妥当性検証機能をフル活用してOSMとPLATEAUの豊かなセマンティックデータを融合できるように工夫されています。

コンバート作業の工程は、青学・古橋研究室の学生たちがグラレコにまとめてくれました。作業手順書はOSM Foundation Japanの nyampire氏が作成したドラフトをベースに学生たちが動作確認を反映させて日本語英語の手順書へと完成版を流し込み作業中です。(正月休み中には完成するか???)

図5. PLATEAU CityGML建物データのOSMインポート概要グラレコ

その他、PLATEAUデータのOSMインポートに関わる様々な情報はこのOSM Wikiページに集約されています。2023年にはインポート作業を行う有志が集まって、実験段階からいよいよ本格インポートの段階に移行すると予測されます。

# OSMにインポートすることのメリットは?

PLATEAUデータのOSMへのインポートは手段であって目的ではありません。もちろんOSMで十分にマッピングできていなかったエリアのデータ粒度を拡充することは一つの目的ですが、本当の目的はOSMを二次利用している様々なウェブ地図プラットフォームにPLATEAUデータを流し込むことによって、データの流通をスケールさせることです。

例えばMetaが展開しているDaylight Map DestributionはOSMデータを元にMeta独自の品質チェックが行われた上でより使いやすいオープンデータとして再配布されています。もちろんMetaはFacebookやInstagramなどのSNSで地図サービスを展開しているため、このDaylight Map Destributionデータが自社のサービスでも使われています

同様にNianticであればLightshipプラットフォームからOSMデータが再配布され、PokémonGOやINGRESS、Pikmin bloomなどの位置情報ゲームで活用されるように、OSMデータを商用利用している各ウェブ地図プラットフォームにPLATEAUデータが流れ込むことで、PLATEAUデータの流通量が指数関数的にスケールしていくことが期待されます。

このように、OSMは社会に定着させたいオープンな地図データの流通を加速しスケールする起爆剤として利活用する未来が見えてくるのです。合わせて、OSMにすでに実装されているData editing APIOverpass APIなどの各種APIsは、すでに多くのOSM/FOSS4Gエンジニアが使い慣れていることから、新たな技術習得の必要なく展開することも可能です。

図6. 世界中のデジタルツインデータがCityGMLを採用すると、OSMを経由して多様な地図プラットフォームにスケールしていく概念図

# まずは全国500都市を整備、話はそれからだ

PLATEAU のロードマップでは 2027年までに全国500都市でのデータ整備を目標としています。まずは一歩一歩データの利活用を広げつつ、オープンデータとしてのスケールの可能性を信じて、地道にその種を大地に蒔くのが2022年から2023年にかけて我々がやるべき仕事ではないでしょうか。

図7. PLATEAU ロードマップ 2023–2027

さあ、OSMとPLATEAUで、世の中を変えてみませんか?

この試みは新しい世界を創る。
Map the New World !!

このブログは2022年のProject PLATEAUアドベントカレンダー古橋研究室アドベントカレンダー青山学院大学地球社会共生学部アドベントカレンダーOpenStreetMapアドベントカレンダーとして執筆しました。予定より大幅に遅れての投稿です…orz

--

--

Taichi Furuhashi
Furuhashi(mapconcierge)Lab.

@mapconcierge, Professor of Aoyama Gakuin Univ., President of CrisisMappersJapan / DRONEBIRD / JapanFlyingLabs / MAPconcierge Inc.