エネファームをブレイクさせるには(2/2)?

(2018/10/21以前書いた記事ですが、「エネルギービジネス2030」に入れます。)
エネファームをブレイクされるためには(1/2)で議論したポイントを整理します。
· エネファームの設置により光熱費を削減することが可能だが、現在の価格と耐用年数ではユーザーが初期費用を確実に回収できるとは言えない。単純回収年数はPEFC型で13.5年、SOFC型は10.9年である。
· 系統電源の信頼性が高い日本では停電時のバックアップ電源としての機能の価値は限定的である可能性がある
· 有力な仮説として、環境意識が高く、資金に余裕のある層がエネファームの主な顧客である(お湯の需要が高いなどの条件が満たされる前提で)
・経済産業省の2019年の価格目標(2019年までにPEFC型80万円、SOFC型100万円)は現状の習熟曲線と年間導入台数から見ると近いところまでいくかもしれない。
· 経済産業省の2020年の導入台数目標140万台は達成が困難

今回は、普及拡大と価格低減をどのように達成できるかを議論します。
市場拡大と価格低減
経験曲線(両対数軸)が右下がりに推移すると仮定すると、累積生産台数を増やさない限り価格低減は達成されません。言い換えると、価格低減を達成するためには生産を増やす必要があります。
上図の経験曲線(2012–18)に沿って今後も価格低減が進むと仮定すると、例えばユニット価格がPEFC100万円、SOFC80万円(2019年度の価格目標)に達するためには30万台超の累積生産台数が必要です。2018年7月の累積導入台数が25万台であり、最近の導入台数は年間4-5万台程度のため、これは2019年中に達成するかもしれません。これは前回の記事で書きました。
次の目標は2020年の導入台数140万台ですが、これは非常に困難であると見ています。2009年から2018年7月の間の累積導入台数が25万台であり、この5.6倍の台数を導入しなければ達成できない計算になります。2018,19,20年で指数関数的に台数を増やさなければなりません。イメージとしては、下図のような感じでしょうか。

これだけの台数を吸収できる市場はどこにあるでしょうか。エネファーム関連各社はマンション用のユニット開発や新築住宅をターゲットとした販売などで市場のセグメントを増やしてきました。2016年度まではエネファームの普及は年々進んではいるものの、上図実績値から指数曲線的に普及が起こるところまではいっていないと言えます。
投資回収が確実でないという前提では、設置しやすいところから設置が進み、だんだん設置が難しい顧客が残っていくと考えるのが自然かと思います。同じ条件では次の20万件は最初に導入した20万件より難しいでしょう。従って、上記のような著しい導入の増加をもたらすためには今までとは違う売り方が必要になると考えます。
海外市場で市場拡大
デジタルカメラのような地域性を問わない製品であれば広く海外に進出することで市場拡大を達成し、経験曲線に沿って価格を下げることが可能でした。エネファームの場合はどうでしょうか。
数年前にエネファームのメーカー各社がドイツや韓国などの海外での市場開発を行うという発表があり、その後も海外市場の開拓は行われているようですが、今までに海外で販売が大きく進んでいるというニュースは聞いておりません。
海外の法規適合、ガスの成分の違い等の技術的な問題やマーケットのニーズの違いなどいろいろな壁はあるでしょうが、ぜひエネファームが適合する海外マーケットを見つけて導入台数を稼ぐことができれば価格低減の加速につながると考えています。
製品の標準化による価格低減の余地
生産台数が増えると価格が下がる理由に一つとして、製品や部品が標準化されることが挙げられます。各社ノウハウの技術は残しつつ、共通部分は標準化の恩恵を受け、部材やプロセスのコストが下がるということです。多くの電子製品は標準化(国際的なものも含め)の進展が価格低減に寄与したと理解しています。
エネファームの標準化によるコストダウンの余地を推測するのは簡単ではありませんが、大きくないことが考えられます。理由は、エネファームの製造メーカーの数が少ないためです。PEFC型には1社、SOFC型は1社の合計2社であり、給湯器を作っているメーカもこれに準じます。( 2017年6月に東芝燃料電池システム株式会社が2017年7月限りでエネファームの製造販売を終了する旨発表しました。)
仮にエネファームを製造するメーカーが10社いればその標準化効果によるコスト低減効果は大きいものになるでしょう。しかし、2社ではその効果に限界があるでしょうし、そもそもPEFC型とSOFC型の違うタイプのエネファームの標準化が可能な部分は小さいかもしれません。
ビジネスモデルの変更:エネファームをタダで配布したら?
現在、エネファームは売り切りのビジネスモデルです。エネファームの初期費用が普及のハードルになっているという前提で、このハードルを撤去してはどうでしょうか。ガス会社がエネファームを販売するのではなく、自社の資産としてエネファームを顧客宅に設置するというモデルを考えてみます。
このときガス会社のビジネスモデルとしては次の2つが考えられます。一つは、エネファーム用の燃料ガスを割高で販売し、ガス会社が投資回収します。もう一つは、エネファームで発電した電気と発生したお湯を販売する方法です。
いずれの場合でも、顧客の光熱費がエネファーム設置前より高くならないようにガス料金・電気/お湯の料金を設定します。つまり顧客の光熱費は設置前と設置後で同等とします。高いエネルギー効率による光熱費の削減分はガス会社が回収し、これをエネファームの機器費用と設置費用の回収に充てます。
初期投資額はエネファームの価格ではなく原価となるので顧客よりも投資回収は有利になることが予想されますが、金利や税金なども勘案し、モデルを構築する必要があります。(本記事では割愛します)
顧客は光熱費の削減による経済的メリットを享受できませんが、その代わりに今まで大きな負担となっていた初期費用もありません。費用的にはニュートラルであれば導入したい顧客は一定数いるという仮説は有効ではないでしょうか。
エネファームの機器費用がさらに下がったら、顧客に光熱費削減の一部恩恵を与えるような料金設定とします。これで顧客のインセンティブは大きくなり、導入を加速できる可能性があります。
以上は基本形ですが、他にも工夫の余地はあると考えます。
エネファームをブレイクされるためには
電力自由化開始後1年での切り替え件数が343万件だったことを考えると、エネファームの販売台数が発売開始9年で25万件というのはやはりまだ拡大の余地があると考えます。
太陽光発電など多くの環境技術の価格が本記事で導入した習熟曲線に従って推移することから、経験曲線を基にした議論はエネファームの価格低減の現実的な目標や施策やを考えるのに有効だと考えています。
エネファームのさらなる価格低減を達成するには導入台数を大幅に増やすことが求められており、「素材の見直し」「部品点数の削減」など水素燃料電池戦略ロードマップで挙げられた従来の施策だけでなく、ビジネスモデル変革の視点が必要と考えます。
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