アルコールのジレンマ

Kotaro Nakada
getwellness
Published in
4 min readOct 13, 2018

先日Lancetという信頼性の高い医学誌に面白い論文が掲載され、各種メディアで話題を呼んでいる。

Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990–2016: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016

重要な結論は、「安全なレベルの飲酒量は存在しない(1杯も飲まないのが最も死亡率を抑制する)」ということである。

今まで世の中ではフレンチパラドックス(相対的に喫煙率が高く、飽和脂肪酸が豊富に含まれる食事を摂取しているにもかかわらず、心筋梗塞などの心血管疾患に罹患することが比較的少ないという逆説的な疫学的な観察のこと)の理由として、「フランス人はワインを飲むから健康なのでないか?」という仮説があった。今回の論文はこの仮説に、「そんなことはなさそうですよ」という結論を与えるものである。

では、アルコールは飲まない方がいいのか?

まずは上の論文の結論となるグラフを見てみよう。

横軸は1日に飲むお酒の量、縦軸はDALY(病的状態、障害、早死により失われた年数を意味した疾病負荷を総合的に示す指標)がどれだけ増えるかを示している。

これをみると1日1杯までのお酒はほとんどリスクが変わらないものの、2杯を超えると有意にリスクが上昇してくるということが分かる。また、「健康になる飲酒量(0杯より健康な飲酒量)は存在しない」という重要な事実が示されている。

今回の論文の結果を得て、お酒を愛する人たちは「飲まないことによるストレスの方が大きいのではないか?」「酒を飲んで健康を失ったら納得するけど、酒を飲まないでまで健康にならなくていい」など、様々な意見が寄せられている(NewsPicksより)。

結論から言えば、「何が正しいかなんて分からない」。これに尽きる。なぜなら我々は、別に病気にならない為に生きている訳ではないからだ。

お酒を好きな人が今回の論文をきっかけに一杯も酒を飲んではいけないということではない。ただ、「少しの酒は身体にいいんだぜ」といってお酒が好きでない人に飲酒を強要するのは受動喫煙と同じくらい有害であるということは皆さんに認識してほしい。

極端だけど、バンジージャンプやジェットコースターと一緒だ。当然リスクはある訳だけど、得られる高揚感や刺激を求めて楽しむ人はいるし、それは間違いではない。一方で、やりたくない・乗りたくないという意見も尊重されるべきだ。強要して万一死んでしまったら、責任取れないでしょう?

また自分の意思決定で飲む人も、(2016年の統計では)飲酒は死亡の原因第7位であり、女性の死亡の2.2%, 男性の死亡の6.8%を説明する(15–49歳の若年層では女性の3.8%, 男性の12.2%を占める!)ということは認識しておこう。リスクがない訳ではないということを踏まえた上で、適量で食事の時間を楽しもう。

「俺の身体なんだから俺の勝手だろ」と言いたい人もいるかもしれないけど、健康増進法で健康管理をすることは国民の「責務」と位置付けられている。アルコール性肝硬変など、アルコール関連障害は「飲まなければ防げる」ものであり、国民が納めた税金で医療費が賄われているということも頭の隅に入れておく必要がある。

今回の結論を踏まえて重要なことは、

お酒はリスクを十分に理解した上で楽しむということ。

飲みたくないと言っている他人に勧めていいものではないということ。

多量飲酒は自分の体とはいえやめておくべきということ。

酒は飲むな!とか極論で語るのではなく、リスクを十分に理解した上で各自が適切に意思決定することが大事だと思う。

--

--

Kotaro Nakada
getwellness

Born in 1991. Medical doctor majoring in preventive medicine. CEO at Wellness inc. Our mission is to create 'the future of medicine'.