闇雲に脳ドックを受けてはいけない

Kotaro Nakada
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9 min readDec 30, 2018

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こんにちは。Wellness inc.代表の中田です。

最近「スマート脳ドック」というサービスが誕生し話題を呼んでいます。予防オタクの僕としては多くの人が予防・検査に関心を持つこと自体は非常に嬉しいことです。「簡単に予約できる」という仕組みは病院の体験を向上するので、非常に意義のあるチャレンジだと思っています。

しかし一方で懸念もあります。それは思った以上に多くの人が「人間ドックを受けることで健康になる」と勘違いしていることです。「健康のために気をつけていることはありますか?」という質問に対して「人間ドックを受けてます」「脳ドックを受けてます」と答える人の多いこと。。

少し冷静になれば分かりますが、検査を受けるだけでは微塵も健康になりません。CTには被曝リスクがありますし、MRIも磁性物持ち込み事故や妊娠初期での安全性の不確立などリスクがないわけではありません。また、頭の中に腫瘍や脳動脈瘤(時限爆弾の様なものです)があることを知ることによる不安を一生抱えるリスクなどがあります。

検査というのは、「それを受けることによって自分の状態を知り、次の行動に結びつける」ことに意味があるものです。つまり、知ることで「行動が変わらない、何もできない」のであれば受ける意味がないということになります。

では脳ドックを受けることによって分かるのはどんな病気でしょうか?それが分かることによって何ができるのでしょうか?一つずつ見ていこうと思います。

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1, 無症候性脳梗塞(症状ないけど気づいたらできてた脳梗塞・・・)

無症候性脳梗塞は脳卒中発症の危険因子になるため、これが見つかることで「俺、脳卒中になりやすいっぽい。予防しなきゃ!」と自覚してもらえるメリットがあります。ちなみに無症候性脳梗塞の最大の危険因子は高血圧です。脳梗塞(血管がつまる)を防ぐために抗血小板薬(血液をサラサラにする薬)を飲めば良さそうに感じますが、複数のメタアナリシス(最も信頼できる研究手法)でアスピリン(抗血小板薬)は脳卒中リスクを下げず、むしろ出血のリスクを増加することが分かっています。

では予防のために何をすれば良いか?それは「血圧をコントロールする(減塩・適度な運動・薬を飲む)」「肥満の解消」「節酒と禁煙」「コレステロールを下げる(生活習慣の改善・薬を飲む)」などです。全部、検査を受けなくても誰でも大事だと思うことではないですか?脳ドックを受けるより、ラーメンの頻度を減らす方が健康になると思いませんか?

2, 無症候性頸動脈狭窄(気づいたら首の血管が狭い・・・)

無症候性頸動脈狭窄も脳卒中の発症リスクを高めます。60%以上の高度狭窄が認められる場合、CEA(頸動脈内膜剥離術)やCAS(ステント留置術)といった通り道を確保する手術を検討することもありますが、最近の内科的治療の進歩によって無症候性内頸動脈狭窄による同側脳梗塞発症リスクは年間1%未満まで下がっているため、まずは積極的な内科治療を行うことが推奨されています。つまり、「禁煙・節酒」「血圧を下げる」「コレステロールを下げる」「糖尿病の人は血糖をコントロールする」といった治療が優先されます。また、そもそも内頸動脈狭窄のスクリーニングとしては脳ドックを受けなくても、「頸動脈エコー」というリスクのない検出することが可能です。つまりこの病気に関しては、勿論脳ドックでも見つかるけど、よほどハイリスクな高齢者などを除けば超音波でのスクリーニングで十分と考えられます。

3, 無症候性脳内動脈狭窄(気づいたら脳の中の血管が狭い・・・)

気づいたら脳の血管が狭くなっている。嫌ですねえ。けど、不健康な生活習慣を続けていると、確実に血管は硬く、狭くなっていきます(完全に詰まるまで症状がないってのが恐ろしいですよね)。これは超音波では分からないので、脳ドックで分かる病気ということになります。しかし、積極的内科治療と内科治療+手術(=ステント留置術)を行う群を比較したSAMMPRIS研究によれば、積極的内科治療の方が脳卒中発症リスク・死亡リスクともに低いというデータがあり、症状のない脳血管狭窄に対して手術を行うことについては疑問視されています。つまり、やはり内科的治療を行うことが重要になります。それは、「血圧を下げる」「コレステロールを下げる」「節酒と禁煙」「血糖をコントロールする」。やっぱりこれですね。これ、検査しなくてもやろうと思えばできますよね。。

4, 未破裂脳動脈瘤(気づいたら脳の中に時限爆弾が・・・)

これが脳ドックを受けるメリットとして最も訴えられている病気ですね。30歳以上成人では3%程度に見つかり、特に高血圧患者、喫煙者、脳卒中の家族歴がある方では注意が必要とされています。ではあなたが脳ドックを受けて未破裂脳動脈瘤が見つかったとします。どうしますか?

まず、間違いなく超不安になります。脳ドックガイドラインでも、十分な説明を行うべきことを強調しています。で、手術は受けますか?脳動脈瘤が破裂してくも膜下出血をきたした場合、50%以上のリスクで死亡します。破裂する確率はサイズによって違いますが、10年以上で1.3%程度と言われています。一方手術(頭を開いて動脈瘤にクリップをかける=開頭クリッピング術、血管から管を進めて瘤をコイルで詰めてしまう=コイル塞栓術)による後遺症は1.9–12%で合併症を起こし、場合によっては後遺症が残ります。さらに、頭を開いて手術を受けた人を長期で追跡すると、10年間で1.4%, 20年で12.4%の確率で結局くも膜下出血を起こしてしまうという研究があります( Tsutsumi K, et al: Risk of subarachnoid hemorrhage after surgical treatment of unruptured cerebral aneurysms. Stroke 30: 1181–1184, 199982) Hokari M, et al: Long-term prognosis in patients with)。つまり、くも膜下出血をきたすリスクは手術を受けても経過観察しても変わらない可能性があるわけです。僕だったら・・・正直手術を受ける自信がありません(勿論、めちゃくちゃ大きいとか、家族がみんな脳卒中で死んでるとかだったら受けると思いますが)。もともと生活習慣が良い人で脳動脈瘤が見つかって、手術を受けないとしたら、脳ドックを受けて得られるものは「不安だけ」ということになってしまいます。

こういうのを読むと、「脳動脈瘤こええ!!」ってなりますよね。じゃあならないためにはどうすればいいか。結局医学で分かっているのは、「喫煙を避ける」「血圧を下げる」「適度な運動を行う」、これだけです。しかも!未破裂脳動脈瘤がある人はもともとさまざまな心血管リスクがあ理、死因もくも膜下出血よりも他疾患によるものが多いということが分かっているんです。。脳ドックを受けるより先に、やるべきことがあると思いませんか?

5, その他

無症候性脳動静脈奇形、海綿状血管腫、モヤモヤ病、脳腫瘍・・・。世の中には他にも色んな病気があります。脳ドックでは、症状がないうちにこれらの病気が見つけられるということになります。で、重要なのは、「それが見つかったらどうするのか?」ということです。例えば無症候性脳動静脈奇形については手術や放射線の効果は明らかでないとされていますし、無症候性海綿状血管腫については保存療法(手術はしない)が進められています。良性腫瘍であれば慎重に経過観察となりますし、悪性腫瘍については物凄く早く進行するため、脳ドックで症状が出る前にたまたま見つかるということはマレです。結局、「大抵の場合、分かったところでどうしようもない。けど不安だから毎年脳ドック受けなきゃ・・・」となるのがオチです。

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さて、ここまで脳ドックで見つかりうる色々な病気について見てきました。僕が言いたいことはただ一つ。

「検査は、それによって何かアクションを起こすためにあるべきだ」

ということです。もし受けても受けなくてもアクションが変わらないのであれば、ほとんど意味がないということです。「あー何もなくてよかった。今日は焼肉食べ放題で、夜ラーメンも食べちゃお!」。そんな無駄な安心を提供したとしたら、むしろ逆効果という可能性もあります。

個人的には、まだ比較的若く健診でも大きな問題がない人については、積極的に脳ドックを受ける必要はないと思っています。もっと簡単な検査を定期的に行い、食生活や運動習慣を見直していくこと。これがとにかく重要です。

あなたが脳ドッククリニックを作ったとします。そのために高いCTやMRIのような機器を購入します。ビジネス的な視点で言えば、より沢山の人に、複数回検査を受けてもらった方が利益が出ます。つまり、薄利多売のビジネスモデルに陥る可能性が考えられます。これって、本当にいいことなんでしょうか?

「すでに何年もタバコを吸っていて、大量の酒を飲んで、ずっとコレステロールは高いし血圧も高い。ベルトがお腹で見えない。もう50だよ・・・」

そんな人には勿論、僕も脳ドックをお勧めします。リスクの高い人が、ベネフィットとリスク両方を理解して受けるのには非常に価値のある検査です。

けど、脳ドックを受けるのにも検査の副作用や「不安」などのリスクがあるということ、そして何より、脳ドックを受ける前にやるべきこと(お酒をなるべく控える、塩分を控える、コレステロールを下げる・・・)が沢山あるということを知ってほしいのです。比較的若い人が「とりあえず」で受けるというのは、違うと思っています。(検査を受けた方が安心だという気持ちは、勿論十分に理解できます。)まずは自分が受けるべきかどうか、信頼できる医者に相談してみるのがいいと思います。

「検査を受ければ受けるほど儲かる」ようなビジネスモデルは医療においては不適切です。実際に臨床現場でも、利益を出すための過剰医療が問題になっていたりします。

各個人としっかり向き合って、本当に必要で意味のある検査だけを提案することにちゃんと価値が生じるような、そんなモデルが作れると理想だと思っています。そのために引き続き勉強し続け、価値のあるサービスを作っていきます。

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Kotaro Nakada
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Born in 1991. Medical doctor majoring in preventive medicine. CEO at Wellness inc. Our mission is to create 'the future of medicine'.