発達障害と性暴力ー発達障害の世界にも静かに広がる「#Me Too運動」

全世界で展開される「#Me Too」運動

全世界で、今、「#Me Too」運動が盛んになっている。今まで声をあげてこなかった性犯罪やセクハラを受けた女性たちが、「#Me Too」(私も)とSNSなどを通じて声をあげるようになった。

アメリカで女優が数十人、性暴力を受けていたことを告発したことに端を発した。時間や費用のかかる訴訟の代わりにSNSで性犯罪を告発する運動が発生した。この呼びかけに応じて、世界規模で、著名人や一般女性たちが「#Me Too」と声を上げる一大ムーブメントに発展した。

発達障害者の当事者の中にも、性犯罪の実態をSNSで訴える人も出てきた。

性犯罪の当事者になりやすい発達障害者

https://neccocafe.com/event/20180727.html

https://ameblo.jp/nakanohiromi/entry-12388562394.html

性犯罪やセクハラを受けた、と訴える発達障害の女性は、実は、多い。女性向けの発達障害者の当事者会では、「障害特性により男性との距離感が分からず性犯罪の当事者になってしまった」、「障害特性のため性的なことに疎いため実は今思えば思春期の頃性犯罪を受けておりそのことにすら気づいてなかった」、といった体験が語られる。「#Me Too」運動が展開される昨今、発達障害者の当事者会でも性暴力の被害について語られるようになった

性暴力に取り組んでいるNPO法人しあわせなみだが、今年3月、東京都新宿区にある発達障害者向けのカフェであるNeccoカフェで発達障害者を対象に性暴力について調査した。この調査によると、32人中23人が何らかの性暴力を受けたことがあると回答し、11人の方が複数の方から性暴力を受けた、と回答した。知的障害を伴う発達障害者が性暴力の被害者になりやすいという指摘や研究は以前からあったが、知的障害を伴わない発達障害者が性暴力の被害を受ける可能性があることが指摘された。

http://shiawasenamida.org/?mid=public_01

DPI女性障害者ネットワークの調査では、女性の障害者のうち35%の方が性暴力を受けたことがあると回答している。その一方で、精神障害者が性暴力の加害者になりやすいことも指摘されている。

当事者会などに寄せられた声

筆者が当事者会に参加すると、以下のような声を聞く。

・男性との距離感が分からず、同性の友人のように接してしまう。そのため、男性の方 が勘違いしてしまい、望まないスキンシップになってしまった。

・性的なことに対して障害特性上、年齢の割に疎いことがあり、思春期の当時、男性の方から受けた行為が今思えば性暴力だった。

・「良いバイトがある」と聞いて、騙されてついて行ったところ、買春の被害にあった。

その反面こうした声もあった。

・衝動性が強いため、交際をすると性交渉にすぐつながる。

・衝動性の強さから、しばしば、セクシャルハラスメントをしてしまったことがある。

・男女の距離感が分からず、スキンシップだと思ったらセクハラだった。許されると思った。

声として多かったのは、定型発達者とは違い、①距離感が分からずスキンシップや性交渉に至るまでの過程がはやい、②男女の距離感が分からずスキンシップにすぐつながる、といった特徴がある。その結果として、性暴力の被害者にも、望まない形で性暴力の加害者にもなってしまうことがある。

発達障害者特有の人との距離感や性的な部分の心理的な発達に応じた性教育、恋愛のノウハウについての支援が必要な現状が浮き彫りになった。

性暴力を防ぐために ー女性の発達障害児を守る取り組み

http://www.splendore12.com/

http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201802/CK2018022802000178.html

愛知県の発達障害児向けの放課後等デイサービス「Luce」では、女性児童向けに性暴力から守るために性教育を行なっている。

発達障害を抱える女児は、人との距離感が分からずに人につきまとったり、男性に好意があると誤解を与える行動を取ったりすることがある。男性の方が好意があると誤解した結果、性暴力に巻き込まれるケースがある。自己肯定感の低さから、不愉快に感じている場面で笑顔で接したり声をかけられるとついて行ったりして、性暴力の被害者になることもある。また、断ることが苦手な障害特性のために、性暴力の被害を受けるケースもある。

そうしたケースが多いことを受けて、Luceでは、発達障害を抱えた女児を守るために性教育を行なっている。例えば、腹や胸部などのプライベートゾーンを見せてはいけない、手を繋いだりほっぺたにキスをしたりして良いのは家族だけ、というようなことを教えている。また、身だしなみや立ち振る舞いでも性暴力や性犯罪を受けるリスクを高めることがあるため、下着を見えなように閉じて座る、露出度が高すぎる服装は避ける、といったことを教育している。

「♯Me Too」運動を発展させてー心地よい関係を目指してー

「#Me Too」運動では、多くの有名な女優やスポーツ選手が、監督やプロデューサーなど断ることが難しい立場の上位の人間から性暴力を受けている現実が何度も報じられた。また、その報道に勇気付けられた女性たちが、身近に受けた性暴力について語るようになった。勇気付けられた発達障害の当事者も、障害特性と性暴力について語るケースが出てきた。多くの場合、職場での力関係や障害特性などで、断ることができない立場にある女性が性暴力を受け、仕事を失うことを恐れ、受けた性暴力の被害について沈黙している実態が明るみになった。

「#Me Too」運動は、今後、ただ被害をSNSで語るだけではなく、いかに性暴力を防いでいくかにシフトしていくであろう。男女との距離感がうまくつかめなない人や悪気もなく異性につきまとってしまう人など、そうした性暴力の被害を受けやすい特性を持っている方が社会には多くいることを知って欲しいと願っている。

発達障害の性暴力について取り組んでいる方に、

「では、どうやって防いでくのか?性という問題をどうやって教育していくのか?」

と率直に尋ねてみた。性暴力の問題は、男女の恋愛感情も入り混じるため扱いが難しい面があることを前提に聞いた。すると、

「『好意と敬意を持って、人と接すること』と『相手が嫌がることは絶対にしない』という原則を徹底させることです。そうすることで、風通しの良い人間関係ができるでしょう。」

と語ってくれた。「相手が嫌がることはお互いに絶対にしない」をお互いに徹底することで、望まない性暴力を防ぐことができる、とのこと。そして、性教育には賛否両論があるが、やはり、恋愛や性について勉強する機会があることが望ましいと語ってくれた。性やスキンシップを過度にタブー視することなく、「相手が嫌がることはお互いに絶対にしない」ことを徹底させることが、風通し良い関係をつくりながら、性暴力を防いでいく道ではないか、とのことであった。

性について過度にタブー視することも、スキンシップを否定することなく、相手に敬意を持ち「嫌がることは絶対にしてはいけない」という関係を構築することで、「心地よい関係」を構築できるであろう。そして、性暴力の被害を受けやすい特性を抱えた人がいることが、社会で認知されることを切に望んでならない。