Takehisa Sibata
12 min readMar 22, 2019

障害者、女性の活用ーこれらの問題に共通する問題とは?

1.村木厚子元事務次官の意見ー女性と障害者の問題は同根?

厚生労働省で2013年〜15年まで事務次官を務めていた村木厚子さん。村木さんは、障害者支援や女性政策、少子化対策の仕事に取り組んできた。1998年に障害者雇用対策課長に就任してからは、障害者雇用の問題をライフワークと語り、多くの福祉施設の現場を視察し、福祉関係者と意見交換を行った。障害者問題の部署を離れた後も取り組みを続けた。障害者自立支援法にも取り組んだ。

村木さんは、

「障害者と女性の問題は同根」

「障害者と女性の問題はよく似ている。女性問題の経験が障害者の問題に役立った。」

と「あきらめない 働く女性に贈る愛と勇気のメッセージ」という著作や講演で語っている。

共通している点は以下の点だ。

①女性も障害者もハンディキャップを背負っていると考えられること。

・例えば、女性なら育児・介護で仕事から離れざるを得ないこと、障害者なら場所などの制約がある。

②①に関連して、男性主導の働き方(長時間労働、部署・転勤が前提)では、活躍にしくいこと。

・育児・介護を抱えた女性は、長時間労働・転勤は厳しい。

・障害者も同じ。

③女性も障害者も仕事の面で「この仕事はできない」「この仕事は向かない」といった偏見があること。

・「女性は深夜残業はできない」「女性は営業ができない」「女性はうちの業界では厳しい」といった偏見があること。

・障害者は、「仕事ができない」「この仕事はさせられない」といった意見があること。

・例えば、ケーキ屋さんの接客に笑顔が素敵な聴覚障害者が、伝票を筆談でやりとりしながら活躍しているケース(その前に雇った店員が無愛想だったので、いっそ感じのいい聴覚障害者を雇った)、自閉症の方が研磨したレンズが高品質だと評価されるているケースなど、障害者が「できない」と思われていても活躍しているケースを挙げている。

④女性も障害者も前例に縛られること。

・村木さんは入省当時、「女性はお茶汲み、雑用」という慣例に縛られていた。キャリア官僚とはいえ、平等ではなかった。

・多くの企業では、現状、障害者雇用と一般枠が分けられ、なかなかもっと難しい仕事を振ると言う状況ではない。

女性も障害者も、男性の健常者が主体の職場では、前例や偏見に悩まされてしまうと言う点では共通しているとも考えることができる。

村木厚子さんは、少子高齢化が進む日本において障害者、女性が納税者としてしっかり働いてもらい社会を支えていくという考え方を強く主張している。日本型システムが根っこにあると考えている。

2 女性や障害者が活躍しにくい?ー欧米の働き方と日本の働き方の比較

では、女性や障害者が活躍にしにくい、日本型のシステムとは何か?この辺りえを海老原嗣生さんが「いっしょうけんめい『働かない社会』をつくる」にそのシステムの特徴が明確に著されている。その抜粋を書く。

よく、「欧米では障害者や女性が活躍している。」「欧米に比べ、女性の活躍が大きく遅れている」と言う指摘がマスコミには氾濫している。ではなぜ、そのような違いが発するのか?比較してみよう

① 欧米の働き方ーエリートとノンエリートを分けるー

欧米型雇用は、エリートとノンエリートをはっきり分ける。ここで言うエリートとは、先日、逮捕された日産の経営者であるカルロス・ゴーンさんのような人が代表例である。欧米型雇用では、経営者や執行役員を務めるエリートと営業、エンジニア、経理、総務などのノンエリートを最初から分ける。カルロス・ゴーンさんは、若くして、欧州最大手のタイヤメーカーであるミシュランに入社し、20代で工場長や研究開発部門の責任者を任され、30歳にして南米ミシュランの最高執行責任者を任されていた。そうしたエリート層は、20代にして1000万円〜2000万円前後の報酬を貰う。その代わり、昼夜を問わず働く。

「いや、フランスなどの欧米には、仕事時間の上限規制があるのではないか?」

「バカンスが欧米にはあるはずだ?」

と言う指摘があるかもしれない。確かに、労働時間の上限規制はあるが、フランスのエリート層であるカードる(エリート層のことをそう言う風に呼ぶ)の労組でアンケートをとったところ、家に帰ってからもメールをチェックし、仕事をしている実態が明らかになっている。その上、土日も自宅で拘束されながら働いている。その上、最上位のカードルにはそもそも労働時間の上限が存在しない。

実は、自宅での労働をいれると、日本の総合職の会社員以上の労働時間を誇っている。あまりに労働時間が長いため、ドイツでは、「自宅で仕事のメールをチェックすることを規制する」といったことが議論されている。

エリート層でも女性が活躍している。日本のように仕事か家庭か、と言う悩みは少ない。若くして1千万円から数千万円程度の報酬がもらえるので、お手伝いさんやベビーシッターを雇うなど育児・家事を全てアウトソーシングすることができる。

一方で、欧米はエリートとノンエリートが分けられている。例えば、営業で雇うとすると、転職でもしない限りは同じ係にいることになる。例えば、自動車の販売店があり、営業一係と二係があるとする。営業一係が高級自動車をA市で販売し、営業二係が普通車をB市で販売するとする。営業一係で採用された人は、転職でもしない限り、営業二係には異動することはない。人事異動という概念すらなく、係ごとの欠員補充で採用されている。契約で職務領域が決められているため、契約外の仕事はしない。職務領域(営業、総務、経理など)で労働組合がつくられ、スウェーデンでは職務領域ごとに賃金が決める仕組みを採用している。日本のように「●●社だから年収が高い」ではなく、職務領域で給与が決められる。また、人事異動する感覚で、同じ職務領域を身軽に転職する。職域ごとの労働組合が仕事を斡旋する国もある。
この仕組みだと、同じ仕事を数十年する。その上、日本のように、仕事ができる人は他人の仕事が振られることもない。無理な転勤を依頼されるという概念もない。また、ノンエリートの場合は、定年がない。そして、ノンエリートの場合は、職務に対する報酬という考え方から、昇給することはあっても極めて緩やかな幅である。感覚的には、400万円〜600万円ぐらいの年収をもらう。そして、ノンエリートの場合、特に欧州ではバカカンスも保障され、週35時間労働が当たり前、昼食をとるために自宅に戻ることが許される国もある。育児や家庭との両立がしやすいような働き方となる。ノンエリートの場合は、基本的に男女共働きとなる。障害者の方は、職務領域を基本的に経営者と交渉して報酬を貰う関係である。職務領域がこなせるならば、女性・障害者は問わないとされる。
職務領域に対する契約という概念が徹底化されているため、正社員、パート労働者、契約社員何でも同一賃金同一労働が徹底化されている。そのため、障害者や女性が男性に比べ報酬が少ない、ということが発生しにくい。
ただし、職務領域がこなせない若手はなかなか採用されにくい。職務領域の仕事ができると見なされるまではインターンを重ねる必要がある。フランスの若者の失業率が2割を超えていたり南欧では48%という失業率が出る一因には、仕事ができない新人は雇わない、という考え方があるためである。好景気の時でも失業率は高い。ギリシャ危機などで不況が深刻な欧州では、「日本を見習い、新卒一括採用ができないか?」という議論がドイツやフランスである。

②日本の働き方ーみんながエリート?総合職という仕組み

日本は、新卒一括採用が行われる。全員エリート扱いして、企業の総合職として採用する。仕事を覚えていない新人をコミュニケーション能力や企業との肌あいという考え方で、企業が採用する。例えば、銀行では、法人営業、住宅ローンの個人営業、融資などなどを若いうちから経験させて行く。そして、30代後半には、大企業の融資までできるようになる、という流れがある。ジョブローテーションを通じて、あらかたの仕事をできるように育てていく。当然、転勤や残業も行われる。
ただし、転勤や残業、色々な仕事を経験した報酬として、昔は男性の7割〜8割、会社によっては全員が課長として昇進させていた。「50代の働かないおじさんがなぜ高給を貰うのはおかしい」と批判があるが、そのカラクリは、日本型雇用では若いうちに職務に見合わないほどの仕事を20代〜30代で経験させるのである。その対価として、50代で高い年収を支払う。
日本型雇用の場合は、「解雇は事実上できない、代わりに会社は自由に職務命令をすることができる」という考え方である。欧米型の場合は、不況で部署そのものを潰し解雇することができるが、日本型雇用の場合は部署を潰しただけでは解雇することが困難である。ただし、解雇できないトレードオフとして、職務命令には従う、ことが要求される。転勤などの家庭の事情で厳しいケースでも職務命令に従う必要がある。欧米型の場合は、会社がそもそも契約以外の命令をすることはできないし、したとしても拒絶することが法的に可能である。職務命令に従わないことは、日本型雇用では、解雇自由に抵触するのである。
この働き方は、男性社員は仕事が最初できなくても、会社で仕事を通じて訓練することができる上に、かつては多くの社員が800〜900万円貰うことができた。男性社員は、幹部候補生扱いされるためモチベーションも高い。
ただし、無理な転勤、残業、会社の命令には拒むことができない点が、女性や障害者のようにそもそも制約が多いとされる労働者には不利に働く。スキルが高い女性の場合でも、残業ができない、転勤ができない、という場合には昇進が遅くなってしまう。マミートラックという問題が発生したり、同一部署で長く女性が働いたりするケースが存在する。障害者の場合は、「一級建築士なのに月収16万円」「エンジニアなのに基本給が健常者より大きくやすい」という事態が発生する理由は、異動を前提とした働き方や転勤・残業を前提とした働き方は厳しい、と見なされるためである。また、ゼロから色々な仕事を経験させて、育てるという働き方ができない、からでもある
日本型雇用では、男性がかつては600万〜800万円を35〜45歳前後でもらい、女性はパート労働というスタイルが普通であった。この働き方は、制約なく男性を際限なく働かせられるという前提があり、女性や障害者など多様な人材を活躍させるという点では厳しい。

3.発達障害者には欧米型が優しい?

「外資は発達障害者に優しい」とする議論がある。なぜだろうか?欧米型と日本型雇用の比較をすればだいぶ解き明かせるだろう。

①日本型雇用の場合、ゼロから新人を育てる必要があるため、企業との肌合い、やコミュニケーションスキルといったことが入り口で要求されるため発達障害者には厳しい。
(発達障害者は、概して、プログラミング英語といったハードスキルが高く、企業の肌あいに合わせるといったことやコミュニケーションスキルが弱い。)

②職務領域に対する契約、同一労働同一賃金が徹底化されている。つまり、ハードスキルの高い障害者は、その職務の分だけ報酬を貰うということが徹底化されているため、苦手な職務領域はやらなくてもいい、契約の段階で除外することができるのである。

③外資は、入り口では契約社員、インターンシップという形態を取るため、職務領域を満たすためのトレーニングが容易。欧米企業は、入り口の段階では、使い捨て前提のインターンシップを採用する。給与は非常に安く使い捨てられるリスクがあるが、入ることが容易であるその時の経験を踏まえて、就職することができる。日本の場合は、契約社員という形態をとる。
→発達障害者の場合は、入社の場合はバーを下げて入った上で、健常者の職務領域をこなしていくということが可能である。

日本の総合職の場合、入り口で弾かれやすいという問題があるからであろう。ただし、欧米型雇用を批判している人は、発達障害者の場合、障害特性上困難な職務領域でスタートした人間は、日本型雇用以上に悲惨なことになりやすい、という指摘がある。営業で入社した場合、適性が無い場合、ゼロから学校や公的トレーニングを受けた上でインターンシップを数年経たうえで転職する必要がある。日本型雇用は、職務領域と相性が合わない場合の軌道修正がしやすい、というメリットがある。

おわりに ー結局どっちがいいの?

私は、外資で働く人との意見交換などから、

「日本も欧米型にシフトした方が、男性も女性も障害者もハッピーではないか?」
と主張したことがある。年功序列賃金ではなく、450〜600万円程度の年収を夫婦でもらい、週35時間労働、残業が禁止、バカンスがある方が幸せでは無いか?という意見である。ただし、議論したところ以下の点で反論を受けた。

・欧州は、そもそも貴族社会。貴族と平民という身分差が長い歴史の中であるからこそ、エリートとノンエリートを分けることができる。エリートは激務な代わり極めて高い報酬を貰う、ノンエリートは安い報酬でもライフを充実させるということができる。(政治学者の方)

・日本は、エリートではなく一般の人が能力が高い社会。普通の人が他国に比べ高い能力を持つ(ホームレスも新聞や週刊誌を読む、中小企業でも高度な「おもてなし」のオペレーションをこなす)社会。欧米型のエリートとノンエリートを分ける発想は馴染まない。(経営コンサルタントの方)

・将来的に、導入する分には”本音”実は賛成だが、急に欧米型の働き方を導入すると今働いている男性の待遇を一気に下げることになる。その点で、急な導入は賛成できない。(労働問題の専門家)

ただ、全員が残業をこなし、転勤をこなし、全員が一律昇進すると言う働き方は難しくなってきている。日本型の働き方にはそれなりの良さもある。今一度、働き方を見直していくタイミングではないだろうか?