コロンビアのスープは気候帯の協奏
コロンビア共和国は、赤道直下に位置する南米の国だ。熱帯のジャングルを想像するが、アンデス山脈が南北に走る土地のため、首都ボゴタは富士山7合目ほどの標高で一年中涼しい。
そんなコロンビアの定番家庭料理と言われるのが「アヒアコ (Ajiaco)」というスープ。首都ボゴタ郊外の家庭で作った。
アヒアコに使われる食材は決まっている。鶏肉、トウモロコシ、それに3種類のイモ。イモは、この家ではジャガイモ2種類にアンデス地方の「アラカチャ」を使う。それぞれのイモに役割があり、具として楽しんだり溶けさせてとろみにしたり、ジャガイモ原産地域だけあってイモ使いは巧みだ。
大きな鍋で煮込み、イモ類が煮崩れてポタージュのようになったら完成だ。
添え物もごはんとアボカドと決まっていて、トッピングはミルククリームとケイパーの実だ。これらが揃わないと「アヒアコじゃない」とすら言われる。
アヒアコはコロンビアを代表する料理だが、もともとは首都ボゴタ地域が発祥と言われる。寒い高地の気候に似合う、体の芯から温まる料理だ。
しかし使われている食材を見てみると、意外に高地以外のものが多く使われていることに気づく。
イモ類とトウモロコシは高地だが、アボカドは熱帯植物で、米も低地の作物だ。トッピングに目を向けると、クリームの原料となる生乳は涼しい高地で生産されるが、ケイパーは温暖な地中海気候の作物だ。食材から添え物からトッピングまで、寒冷なこの地域でとれるものと暖かい地域のものとが絶妙に織り交ぜられ一品をなしている。とろっと重たくて体温まる一皿に熱帯の食材が欠かせないのが、なんだかとても不思議な感じがする。
このアヒアコを説明する鍵が気候区分にある。
コロンビアの気候図を見てみると、非常に多様で非常にユニークだ。ボゴタを含む大都市は南北に走るアンデス山脈の高地に位置し、寒帯気候に属する。そしてそれら山脈の間の温帯気候、海岸沿いの熱帯気候、そして北東部には砂漠気候もあり、狭い地域にあらゆる気候帯が隣接している世界でも稀有な土地だ。それらの間に国境もなく全部が一つの国の中に集まっているので、経済的な障壁なく熱帯植物も寒帯植物もやすやすと行き来する。
食は風土に培われるものだけれど、交易が成す業も少なからずある。植民地時代にスペイン人がもっと細かく国境を引いていたら、高地にアボカドが運ばれてスープに添えられる習慣など生まれなかったかもしれない。
アヒアコは国中の多様な気候帯の多様な食材が首都に集積してできる「気候帯の協奏」だ。熱帯から寒帯まで国内諸地域の食材が重なり合い絶妙なハーモニーを生み出すところが、アヒアコが「ボゴタ料理」にとどまらず「コロンビアの代表的な料理」と言われる由縁なのかもしれない。