スーダンの街角にシリア菓子屋が多い理由

Misato Okaneya
global-bee
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4 min readJan 21, 2019

スーダンの家庭には、あまいお菓子が欠かせない。朝は砂糖たっぷりのミルクティーとビスケットから始まり、客人が来たらお茶とお菓子を出す。

最も一般的なお菓子は袋入りのビスケットで、スーパーでも商店でもどこでも売っている。毎朝食べるのはこれだ。

しかし親戚皆が集まる金曜日や特別な日には、ベーカリーやお菓子屋さんでお菓子を買ってくる。

首都ハルツームの街角には、お菓子を売る店が点在する。スーパーの中にもショーケースのあるお菓子コーナーがある。売っているものは、あまーいナッツ菓子やクッキーなど多様だ。

スーパーのお菓子コーナー。この彼もシリア人。

「お菓子を売っているのはシリア人が多いんだよね。」と滞在先の家の子が教えてくれた。理由を聞くと、シリアは料理がおいしい国だからという。たしかにレバノン〜シリアあたりは中東の中でも食文化が豊かと言われている地域だが、それとスーダンでシリア人のお菓子屋さんが多いのとは直接関係ない。

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ところで、スーダンは「世界で唯一ビザ無しでシリア難民を受け入れている国」である。
スーダンという国は、南スーダンとの国境付近や西部のダルフールなど、自国内にも紛争を抱えている「難民排出国」でもある。自ら難民を排出しつつもシリアからの難民を積極的に受け入れているのは、非人道的という国際社会からの批判に対するアピールであるなどの説もあり、解釈は様々だ。いずれにしても、経済的に豊かで地理的にも近いヨーロッパの国々により、難民排出国である遠くのスーダンの方が、シリア難民の目指す先として選ばれているのは興味深い。スーダンが全然違ったイメージで見えてくる。

そうして入国したシリア人は、法律的には普通の職業につくことができるが、とはいえいろいろ困難があって、自ら事業を始める人が少なくない。
そんな彼ら彼女らが選ぶ仕事として「お菓子屋」は非常に合理的だ。お菓子を作るという生活の中のスキルさえあれば特別な能力や設備は不要で、すぐに始められるし、そしてシリア料理はおいしいという有利なイメージがある。

シリア料理は食材も豊かでおいしいというイメージが定着している(写真出典: wikipedia)

甘いもの好きなスーダン人は、シリア菓子が大好きだ。普通のお菓子よりは高いので、シリア菓子は特別な日のお楽しみでもある。

難民受入れというと社会問題の側面ばかりが取り上げられがちだが、もたらしたのはネガティブなものばかりではなく、日常の中のうきうきとたくさんの笑顔を生んでいる。そして手作りの菓子を口にすることを通して、信頼関係や敬意も生まれるように思う。実際、私が現地で話している限りでは、スーダンの人々のシリア人へのイメージは概してポジティブだったように思う。

おいしい食べ物が人をつなぐ力は計り知れない。

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Misato Okaneya
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