食材の宝庫コロンビア、内戦終結後の農業のこれから

Misato Okaneya
global-bee
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5 min readApr 7, 2019

南米コロンビアの食文化を支える風土は、非常に多様性に富んでいる。
コロンビアは赤道直下に位置しながらアンデス山脈の北端にかかるため高地も有し、一つの国の中に熱帯から寒帯まで幅広い気候帯を持つ。またアンデス山脈やアマゾン川水系などの地形のおかげで豊富な水資源が供給されることもあり、多様な生物が育つ「生態系のゆりかご」とも言われる。コロンビア国内の単位面積あたり種数は世界一と言われ、ブラジルに次ぐ世界二位の生物多様国家となっている (参考)。

画像出典:Maps Colombia

そんな風土に支えられ、コロンビアの農作物は多彩だ。食卓には、寒帯のジャガイモやトウモロコシと並んで熱帯のプランテーン(調理用バナナ)やマンゴーが上り、一年を通してあらゆる気候帯の食材が登場する。世界中をぎゅっと縮小したかのような豊かな食材相がある。

週一の市場に行くと、豆やイモなどの高地作物と共にマンゴーなど熱帯の産物も並ぶ。

そんなコロンビアの農業は今、変化の時にある。国土全体に及んだ50年間の内戦が終結し、農業を取り巻く状況が大きく変わってきているのだ。

実は今まで、農村部の治安悪化でコロンビアの土地利用は制限されていた。
ラテンアメリカ諸国では、キューバ革命をきっかけに1960年代独立機運が高まったが、そんな中コロンビアでも「コロンビア革命軍(FARC)」という強力な武装ゲリラ組織が誕生した。FARCは麻薬取引を資金源に勢力を拡大し、特に農村部では政府の統治が失われた。麻薬の中でも特に、コカインの原料であるコカは他地域での栽培が難しいこともあって有力な取引対象となり、農村部ではFARCによる支配とコカ栽培が拡大していった。
コカ栽培のために本来食料生産のために使える農地が転用されたことに加え、農村部の土地利用が限定され、内戦により放棄された農地は600万ヘクタールにもおよぶ。現在作物が収穫できる土地が710万ヘクタールであることを考えると、非常に広大な土地が放棄されていたことになる(2014年全国農業センサス(CNA2014))。コロンビアは世界の中でも未利用の農地割合が大きい国でもあり、内戦終結による農地拡大の期待は大きい (参考)。

コロンビアの未利用地割合は9割以上 (画像出典:JETRO area report)

内戦は50年にも及んだが、2016年に政府がFARCと和平合意を締結したことで終結を迎え、今後地方の土地利用が進むことが期待されている。荒廃していた土地にトウモロコシが育ち、コカ畑がカカオ畑になれば、食卓はより豊かになるにちがいない。

しかし一方で、先行き不安な要因も山積みだ。

まずひとつには、和平合意締結が必ずしも内戦の終結を意味しないということだ。和平合意によりFARCは武装解除されたが、それは麻薬取引を取り巻くシステム全体の一つのピースを除いたに過ぎないのだ。FARCの武装解除によって生じた権力の空白を巡って農村部では新興勢力が登場してきており、一時は減少したコカ栽培量は再び停戦合意前以上に増えていて、2017年には過去最高の栽培量を記録した(参考: UNODC)。農村部の治安が安定して農業活性化に向かっているとは言い難い。

コカ栽培量(推計値)は停戦合意後も増加 (出典:UNODC 2017レポート)

さらに、気候変動によって栽培不確実性の増大して農業リスクが増していること、植民地時代からの大土地所有制の名残で農地所有が著しく偏っていること、なども農業の難しさに追い討ちをかける。

ともあれ一番長きに及び一番根深い問題が、FARCをはじめとする武装ゲリラだ。日本にいると、農業の課題はといえば高齢化による後継者不足や土地所有問題や貿易自由化などが耳につく。コロンビアの農業の状況を知ってから振り返ってみると、日本の農業課題は「平和の上での悩み事」であることに気づかされる。実際に武装ゲリラのために土地を追われ農地を放棄したという人たちから聞いていると、平和な世の中があってこそ食文化は発展していくのだということを痛感する。食卓の笑顔は平和を作るが、平和あってこその食卓の笑顔というのもまた真実だ。

コカからカカオなど商品作物への転作が進むためには、補助金整備など政策面の支援だけでなく、麻薬の価値が下がり商売へと目線が移ることも必要だろう。停戦合意で一歩歩みだしたコロンビアに真の平和が訪れ、「危ないゲリラの地」から「豊かでユニークな食文化の創出源」へと世の中のイメージが変わっていくことを、願っている。

国内の経済格差も大きい。第二の都市Medellinと、最も貧しくコカ取引に従事する人口が多いChoco。

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Misato Okaneya
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このブログはアーカイブです。noteに引っ越しました。 xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx 岡根谷実里 / 世界の台所探検家。世界各地の家庭の台所を訪れ、世界中の人と一緒に料理をしています。料理から見える社会や文化や歴史や風土のことを、主に書いています。