近未来都市上海にて、食や料理の周りで起こっていること

Misato Okaneya
global-bee
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8 min readJun 7, 2018

成長目覚ましい上海では、食や料理の周りでも様々な変化が目まぐるしく起きている。私が見たり経験したことも、一年後には全く過去のことになっているかもしれない。だからこそ、今の変化の様子を記録しておきたい。まとまりはないけれども印象的だったことを書き綴っていこうと思う。

低く古い街並みの向こうには、高層ビル群がそびえ立つ。新しきと古きが入り混じる。

デリバリーサービスの台頭。朝も昼も晩も、オフィスワーカーの強い味方。

デリバリーのことを中国語では「外卖(ワイマイ)」というが、外卖は上海生活者にとってなくてはならないものになっている。夜だけでなく、ランチタイムになるとオフィス街には外卖バイクがあふれるし、朝食のオプションもある。あらゆる食のシーンに浸透している。

ミールデリバリーは世界的な潮流になっているが、上海の外卖の特筆すべきは品揃えの豊富さと早さ、そして安さだ。小さな家族経営のお店でさえ出店していたりするらしく、主要な飲食店はほぼすべて出店していると言って過言でない。また、日本では配送料がネックになり少量では頼みにくいが、上海は配送料が無料または小額のため、一人分でも頼む。
食べたいものが安く早く便利に手に入るとなれば、使わない理由がない。

外卖アプリ「我饿了」の豊富な朝食オプション。温かい食事が30分で届いた。

街を歩くと、外卖バイクをたくさん見かける。安くて早い外卖は、大量の労働者と安い人件費に支えられていることを感じる…が、最近は労働力も取り合いになっていてどんどん給料が上昇しているらしい。

バイク便お兄さんの出勤風景。街の中心部の古い狭小住宅に住まう。

食材の購入はネットスーパーで。働く上海人は忙しい。

Amazon Goの先を行くと言われている中国のネットスーパー「盒馬鮮生(ハーマーシェンシャン)」。仕組み等については良記事がたくさん(たとえばこちら)があるので割愛するが、単なるネットスーパーではなく、商品の発送拠点がリアル店舗としても機能している「オンラインとオフラインの融合」が興味深い。上海市内の店舗に行ってみた。

林立する高層マンションの合間にある。

店内には、ネットで注文された商品をピックアップしに奔走するスタッフと、買物かごを持って今夜の夕飯の買物をする顧客と、フードコートさながらのイートインスペースで食事をする人とが、共存している。買うものを決めることだけして作業は人に任せるのか、来店して自ら買うのか、加工や調理まで任せるのか、買物の形の多様さとそれらが共存できる可能性を垣間見た。

大勢分の注文のピックアップに走るスタッフ。詰め終わった買物袋は頭上のレールで出荷口へ。
普通の買物客や、調理済の食事を店内でイートインする客も共存する。

盒馬は2016年1月にサービス開始したそうだが、2018年5月時点で上海だけで18店舗展開している。他の都市を含めると52店舗もあり、昇竜の勢いだ。発送拠点が街なかに点在していることで、ネット注文での「30分以内配送」が売りにできている(実際にはもう少し時間がかかることもあるようだが)。

詰め終わったバッグは出荷口からバイクに積まれ、各家庭に届けられる。

働く上海人は忙しい。仕事を終えて帰り道にポチポチ注文すると家に着く頃には食材が届くというのは、非常に便利で心強い。

はじめは、野菜の鮮度を重視して葉物などは毎日買物に行く中国人が、なぜネットスーパーというものを受け入れられたのかはじめは疑問だった。しかしリアル店舗を見てみて、ネットスーパーというより買物代行に近い感覚なのかもしれないと感じた。注文した食材が最寄りの盒馬店舗からスタッフの手でピックアップされ、バイクで届けられる。注文の裏側がブラックボックスではない(気持ちになる)。リアル店舗は、新鮮さや安心感を感じさせる仕組みとしても機能しているのかもしれない。

安心安全な食品に対する関心は強い。オーガニック野菜も一般的に。

上海では、買ってきた食材は野菜でも肉でもしっかり水洗いしてから使うのが常識だ。農薬・食品衛生・調理環境、様々な不安要素があり、食の安全のレベルはまだまだ高くない。

野菜も鶏肉も、水を溜めてしっかり洗う。

特に残留農薬への不安から、オーガニック野菜を求める層は広がっており、店舗でもネットスーパーでもオーガニック野菜が独立したカテゴリを成し売場ができているが普通だ。

充実したオーガニック野菜コーナー。

大量の都市生活者の胃袋を満たすためには、効率的に生産し大規模に流通させることは欠かせない。多量の農薬等が使われるのは今に始まった事ではないしやむを得ない面もあるが、食の安全に対する人々の意識の高まりからは、少なからぬ代償が払われていることが感じられる。

上海の中央卸売市場にて、じゃがいもの山。

八百屋も魚屋もすべて電子決済。むしろ現金が使えない。

もちろん、ネットスーパーだけでなく市場や小売店での買物も健在だ。しかしどんなに古びた店舗でも、壁には「支付宝(アリペイ)」と「微信支付(WeChatPay)」の決済用QRコードが貼られている。

上海は、電子決済が当然だ。むしろ現金で払おうとすると驚かれる。現金を使うのは外国人と地方出身者だけだ。現地の友人は、正月におばあちゃんにもらったお年玉がまだ手付かずであると言っていた。現金なんて久しぶりに手にしたし、使う場所もないよと笑っていた。

アメリカでも日本でもキャッシュレスの取組みはあるが、それらと比べ物にならないほど隅々まで普及している背景には、アリババとWeChatという二強が市場を寡占しているために客側の選択・導入コストが低いことと、QRコードの読み取りだけで済むため店側に機器導入コストが掛からないことがありそうだ。

機器も現金も置かないので盗難リスクも低い。青がアリババのアリペイ、緑がWeChatPay。

スマホですべてが完結するキャッシュレス社会が現実のものになっている。

街なかの屋台は一掃された

アジアの都市と言うと、露天屋台が立ち並ぶ通りがイメージされる。しかし上海では2年ほど前から規制が強化され、中心部からは多くの屋台が姿を消した。

かつては屋台が立ち並んでいた。右側の壁は、違法増築して営業していた店々が撤去された跡。ペンキを塗っている。

歩道等で営業している無許可屋台は即営業停止、建物を建て増して店舗としている場合には撤去命令。歩道は広くなり景観もよくなったが、街の個性が失われていくのを憂う声もある。規制強化の裏には、住環境や衛生環境向上と同時に、上海への人口流入を抑制したいという政府の思惑がある。

残った店は、フードコートの中などのコントロールされた場に収まり営業している。露天屋台の一掃とミールデリバリーの台頭で、上海の街では食事の風景が変わってきている。

駅ナカ店舗は盛況だ。

思うこと

いろいろな仕事がAIや機械に置き換えられて暇になったら、人はその余った時間の使い道の一つとして、料理という創作的な活動を行うのではないかという話がある。しかし上海の様子を見ていると、産業がものすごい勢いで発展し、雇用はどんどん増え、人々は暇になるどころか働けば働くほど豊かになる社会の中で、食事を作るという行為から遠ざかっている。料理をしなくて良い社会の中で、これからの「食べる」はどうなっていくだろうか。

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Misato Okaneya
global-bee

このブログはアーカイブです。noteに引っ越しました。 xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx 岡根谷実里 / 世界の台所探検家。世界各地の家庭の台所を訪れ、世界中の人と一緒に料理をしています。料理から見える社会や文化や歴史や風土のことを、主に書いています。