維新の会に所属していた丸山穂高議員が、北方領土をビザなし交流で訪れていた際の「(ロシアと)戦争しないと、どうしようもなくないですか」といった発言が大変な物議を醸している。
改めてこの発言がどのように問題なのか、まとめてみたい。
言うまでもなく日本は憲法9条1項で、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と定めている。丸山議員の発言はこの憲法9条1項に正面から抵触する暴言と言えるだろう。
さて、憲法9条は世界に誇るべき平和憲法というように我々は教えられるが、実は憲法9条1項のような文言は、各国の憲法に見られるのである。
ドイツ連邦共和国基本法第26条(侵略戦争の禁止)
1. 諸国民の平和的強制を妨げ、特に侵略戦争の遂行を準備するのに役立ち、かつ、そのような意図をもってなされる行為は、違憲である。このような行為は処罰するものとする。
イタリア憲法11条
イタリアは、他国民の自由を侵害する手段として、および国際紛争を解決する手段として、戦争を否認する。イタリアは、他国と平等の条件で、諸国家間に平和と正義を確保する秩序のために必要な主権の制限に同意し、この目的を有する国際組織を推進し、助成する。
韓国憲法第5条
1. 大韓民国は、国際平和の維持に努め、侵略的戦争を否認する。
それもそのはず、これらの文言は、国連憲章2条4項、そしてさらに淵源はパリ不戦条約までさかのぼっており、1928年以降の国際社会において戦争は違法となっているからである。
国連憲章2条4項
すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
パリ不戦条約
第一條 締約國ハ國際紛爭解決ノ爲戰爭ニ訴フルコトヲ非トシ且其ノ相互關係ニ於テ國家ノ政策ノ手段トシテノ戰爭ヲ抛棄スルコトヲ其ノ各自ノ人民ノ名ニ於テ嚴肅ニ宣言ス
締約國ハ相互間ニ起ルコトアルヘキ一切ノ紛爭又ハ紛議ハ其ノ性質又ハ起因ノ如何ヲ問ハス平和的手段ニ依ルノ外之カ處理又ハ解決ヲ求メサルコトヲ約ス
したがって、仮に日本国憲法に9条1項があろうがなかろうが、現在の領土問題を武力をもって解決しようとすることは、国際法に反する違法行為なのだ。
「それでは戦前の日本のように国連から脱退すれば国連憲章に縛られないのでは?」という議論も存在するが、すでにこの「戦争=違法」というのは、慣習となっており、仮に国際連合から脱退してもこのルールの射程外に逃れることはできない。
さらに「クリミアに武力信仰したロシアに言われたくない」「そもそも北方領土はロシア(旧ソ連)が終戦のどさくさに紛れて不法に占領したのだから戦争でもしないと取り返せないのでは」ということを言うような人もいるが、はっきりいって大間違いだ。
冷戦における朝鮮戦争もベトナム戦争もアフガニスタン侵攻も、冷戦終結後のアフガニスタン紛争やイラク戦争も、あくまで自衛権の行使であると主張し、武力をもって国際紛争を解決することは違法であるというこの建前を守っているのだ。そもそもロシアはクリミア侵攻を認めていない。
もちろんこの主張はかなり疑わしいものが多いし、実際には武力を持って国際紛争を解決しているのだが、しかしだからといって国際法を破っているということを正面から認めるようなバカはいない。国際政治におけるアイデアリズムとリアリズムはこのように微妙なバランスのものに成り立っているのであり、リアリズムを推し進めるためにこそ正義の御旗は限りなく重要なのである。
それをあろうことか、すでに100年近く前に違法化されている「戦争」という言葉を用いて、「そうしないと領土は取り戻せない」というような妄言を、他ならぬ国会議員が酔っ払った勢いで簡単に口にするようなことは、決して許されてはならない。
そうでなくても、日本はすでに前科があり、国連憲章に未だに敵国として規定されている国である。このような発言をすることが、諸外国に利用され、「やはり日本は国際法も守ろうとしない悪の国である」といったように格好の餌食される事態も発生しかねない。リアリズムでもなんでもなく、事情も知らない子供が知ったような口を聞いていきがっているのと何ら変わらないといっていいだろう。
その意味で、丸山議員の発言は、国益を著しく損なうものであり、道徳的や儀礼的な意味はもちろん、リアリズムの観点から到底看過することのできない大愚行である。即刻辞職することを希望したい。