軍隊とラッパ

田上 嘉一
偉大な牛
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3 min readApr 11, 2020

予備自衛官として訓練に参加するにあたり、日々の生活の中で耳にするのはラッパである。

起床、消灯、君が代といった一日の節目に駐屯地内にラッパが鳴り響くのだが、このラッパの音を聞くと、「ああ、自衛隊にいるんだなぁ」と感じることができ、非常に心地よい(正直に言うと起床ラッパはちょっと憂鬱だが)。

起床 ラッパ

こちらはガールズ&パンツァーで秋山優花里殿が吹いてる起床ラッパ

君が代 ラッパ

このラッパのことを「ビューグル」と呼ぶそうだが、日本にビューグルが紹介され持ち込まれたのは幕末のことらしい。その後、1885年に(明治18年)にフランス式をベースとした陸海軍喇叭譜及び喇叭が制定されている。こうして指揮命令手段としてのラッパが導入されて以降、「起きるも寝るも皆喇叭」といわれるほど、陸海軍共に軍隊生活は起床から消灯まで喇叭の音と共にあり、なお旧陸軍では「楽な任務」として「一にヨーチン、二にラッパ」と言われていたらしい。

楽器については不案内だが、 ビューグルは、トランペットやホルンのように、バルブで音階を出すものではなく、唇の振動だけで音の高低を調節するものであり、基本的には「ド」「ミ」「ソ」「ド」の音しか基本的には出せないそうだ(シ♭もでるそうだが低いらしい)。それゆえにラッパ譜は、シンプルなメロディーが多く、また士気を鼓舞するためか軽快なものが多いように思う。

以下に旧軍のラッパ譜の主だったものを上げてみた。ラッパ譜のメロディには歌詞などついていないのだが、営内生活において毎日聞くうちに体に染み込んだメロディには、いつしか歌詞が付けられ、兵隊から兵隊へと受け継がれていった。

旧軍の起床ラッパ 「起きろよ起きろよ皆起きろ 起きなきゃ隊長さん(班長さん)に叱られる」

旧軍の食事ラッパ 「一中隊と二中隊はまだ飯食わぬ 三中隊はもう食って食器上げた」

これはラッパのマークの正露丸(大幸薬品)に使われているので、ほとんどの人が知っているメロディであろう。

旧軍の消灯ラッパ 「兵隊さんは辛いんだね また寝て泣くのかね」

ドリフのコントが懐かしい

旧軍の突撃ラッパ 「出てくる兵隊 皆々倒せ(殺せ)」

なお、戦前の帝国海軍の伝統を受け継ぐ海上自衛隊では、ラッパ譜の多くを継承しているが、軍国日本の温床とされた帝国陸軍は戦後徹底的に解体されており、旧内務省系警察官僚を中心に発足した警察予備隊では、旧軍のラッパ譜を使用することはGHQにより禁止された。したがって、陸上自衛隊のラッパ譜はすべて新たに作曲されたものである。

いずれにせよ、歌詞をつけて口ずさまれるほどに親しまれたラッパ譜は、ある種の郷愁のようなものを感じさせ、私のような予備自衛官でもラッパを聞くと何やら感慨深い趣がある。

(追記)

陸上自衛隊のラッパは、「三つ巻き信号ラッパ」というそうで、海上自衛隊はものは二つ巻きのラッパとのこと。予備自衛官訓練で一緒になった自衛官OBの方(ラッパ手経験あり)にご教授いただいた。

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田上 嘉一
偉大な牛

法律家であり、以費塾門下の儒学者でもある。倫敦大学で Law in Computer and Communications の修士号取得。陸上自衛隊三等陸佐(予備)。TOKYO MX『モーニングCROSS』に出演中。