映画『空母いぶき』を公開初日に観に行った。俺は、中学生の時に『沈黙の艦隊』を大興奮しながら読んで以来、ずっとかわぐちかいじ作品のファンだったので、当然だが原作漫画は全巻読んでいる。だからこの作品が実写映画化されたということで、観に行くのは当たり前だと思っていた。
事前の情報で、原作にいないキャラなどの話を聞いており、少しだけ嫌な予感がしていたが、実際に観てみると、ストーリーの中核に不要と思えるキャラ(報道関係の二人、ネットニュース会社関連、コンビニ関連)の存在感が無駄に立っていてかなり残念であることは否めなかった。いや、本当に無駄なオリジナルキャラでした。本当に。最後スポンサーにミキプルーンってないか探したもん。
その他勝手に秋津と新波を勝手に防大同期にしてしまった謎設定、日章旗を掲げない護衛艦や制服、ガンガン敵魚雷を破壊できるアスロックや対艦ミサイルを落とし放題のCIWS、F-36なる謎の新鋭ステルス戦闘機、本当にこれ空母が主役なのか?というほどのいぶきの影の薄さ、建国から3年の国がこんなに近代兵器を充実させて領土拡大なんかできるわけねぇだろというツッコミ、椅子からずっこけそうになったラストなど(原作は『沈黙の艦隊』だっけと思いました)、とてもとても残念なところは多かったが、まぁそれでも最新の仮想兵器がどんぱちやるのを観るのはやはり胸が踊った。
閣僚間のやり取りなど、「ああ、かなり『シン・ゴジラ』を意識しているんだろうなぁ」と思わせるフシはあったが、とりあえず俺が気になった点は首相の記者会見シーン。
佐藤浩市扮する垂水慶一郎総理大臣が「現在行っているのはあくまで自衛権の発動だ」という。それに対して、新聞記者が、「といっても相手戦闘機を撃墜しているし、これはもはや武力行使に当たるのでは?」と質問し、それに対して総理が「いや、あくまで自衛権です」と苦しそうに答えるというやり取りがあった。
これは実におかしい。確かに国際法は、「武力による威嚇又は武力の行使」を原則として違法としている。もっともそれは、国際紛争を解決する手段として用いることを禁止しているのであって、武力攻撃が発生した場合において、国連安保理が必要な措置をとるまでの間、「個別的又は集団的自衛の固有の権利」を行使することを認めている(国連憲章51条)。
ここでいう自衛権というのは、外形的にはあくまで武力の行使として発露される。つまり人を殴ることは原則的に違法であるものの、生命・身体を守るための自衛行為が正当防衛として違法性阻却されるのと同じ理屈である。
だから、記者の「これはもはや武力行使では?」という質問に対しては、「そのとおりです。だから自衛権の発動として自衛隊は武力を適法に武力を行使しています」と回答するのが正しい。
垂水慶一郎総理があまり自衛権を理解していないということを表現したかったのか、法律の監修が不十分なのかは判然としないが、その後の複線回収がなかったのだから、前者と推察される(まぁだいたい得体の知れないネットニュースに情報が流出してからの記者会見というのも大概だなぁとは思ったが)。
そこへいくと、いぶき艦長で主人公の秋津竜太一等海佐はわかっているといえよう。
このアジアの海で、軍事戦略が、いかに傲慢で無謀で、愚かなことか、力でしか分からぬのなら力で知らしめる。
「防衛出動」とはその“力”のことだ。
さらに、『シン・ゴジラ』で金井光二(内閣府特命担当大臣・防災担当)を演じた中村育二が本作品にも出ている。「誰?」という人には、あの甘利大臣そっくりの人といえばわかるだろう。
その中村さんが演じるのが、城山宗介副総理兼外務大臣という役柄。この外相、冒頭からびっくりするほどのタカ派で、かつ総理よりも年次が上なのか、命令口調で「防衛出動を出すべきではないのか?」を連呼しまくる。そして、中盤で2回ほど、
「この戦(いくさ)、負けるぞ!」
と、発破をかけるのだが、これに対して煮えきらなかった垂水総理が、
「日本は戦争をしないと決めて戦後ずっとやってきた。それなのに軽々しく『戦(いくさ)』などと言わないでほしい」
と切り返すシーンがある。これは目下戦争発言で渦中の丸山穂高議員に正座させて百遍でも聞かせたいシーンである。何が「戦争で領土を取り返す」だ、バカタレが。
この点については、まったくもって佐藤浩市総理の言うとおりなのだが、「戦争をしない」と決めたのは、何も日本だけではない。およそ世界におけるすべての国が戦争をしないと決めているのだ。ただ許されているのは国際法上許された武力行使だけであり、それは自衛権の行使と集団安全保障のみである。
「日本だけが平和憲法を持っている」というのは、完全に間違っているし、日本以外は戦争を行う国というのはまったくもって事実誤認である。日本も含めすべての国は戦争を行うことが法で禁じられているのだ。このことは学校でもメディアでも、もっともっと伝えるべきことである。
いずれにしろ、原作ファンからすると、とても残念な映画であったことをとにかく記しておきたい。
あと最後に一言。