【レビュー】大樹連司『ボンクラーズ、ドントクライ』(小説, 2012)

苦しい。苦しい苦しい苦しい。読むほどに息が詰まり、溺れるように泥の海に沈んでいく、そんな満身創痍の恋&青春物語。

Koki Takahashi
HakataReviews
3 min readOct 30, 2018

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ライトノベル。Amazonでは1巻とナンバリングされているがおそらく1巻完結ものである。

舞台は田舎の高校。日々ヒーローごっこを繰り広げるだけの怠惰な映画研究部の部員たちが、ひょんなことから本格的な特撮映画を作り上げるという青春もの。1999年という舞台設定で繰り広げられる特撮トークは絶妙なノスタルジィを感じさせ、作者の特撮愛を感じさせるとともに、物語にリアリティを与えている。表紙中央に写っている本作のヒロインは、後輩キャラだが先輩に対しても気丈に振る舞う男勝りな性格を持っており、気の強い女の子が好きな筆者は作中の人物とともに例に漏れず恋に落ちてしまった。そして物語の進展とともにそのままズブズブと沈んでいった。苦しい。苦しい苦しい。

著者の大樹連司はニトロプラス所属のライターであり、本巻においてもそのベテラン的筆力が遺憾なく振るわれている。のちほどTumblrにもいくつか引用する予定だが、彼の文章は詩的で儚く美しく、ともすればテンションが高くなりがちな青春物語に独特の重苦しい陰を添えている。

この物語は悲劇ではないし、泣けるわけでもないし、まして愉快痛快なヒーロー小説では断じてない。しかしなんというか、どうしようもなく苦しみたい人にはオススメしたい。きっと読んだあとになにかしら消えない痕跡が残っていることだろう。

ネタバレ感想

世界は物語に満ちているが、その大半は脇役である――。そんな当然のようで当然でないリアルを突きつけられる物語だった。僕はリアルを突きつけられる物語が好きなので、当然この物語も好きになった。苦しい気持ちになれる物語は偉大。

作品全体の空気感と魅力的なヒロイン、そして三角関係の苦しみ。主人公が自らの醜悪な思いとテレビの中の正義のヒーロー像との板挟みになる構図が見事に綴られてる一方、ラストシーンの盛り上がりには欠けるように感じた。第八章の例のシーンを挿入した以上、単なる失恋の物語で終わらせたくなかったという気持ちは感じるものの、それならばもっと疾走感のある文章で纏め上げても良かったのではないかと思う。

と、いった感じでラストが締まらない印象はあったものの、全体としては読んで良かったと思える佳作であった。大樹連司氏の他の小説も機を伺って読んでみようと思う。

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