【レビュー】未幡『私の百合はお仕事です!』(漫画)

百合漫画。既刊3巻読了。個人的2018年のベスト百合作品 (暫定)。

Koki Takahashi
HakataReviews
3 min readOct 24, 2018

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愛嬌あふれる愛され系美少女の主人公、白木陽芽がひょんな事で給仕として働くことになったのは、レーベ女学園の来校者用応接間、そこはまるで「マリア様がみてる」の私立リリアン女学園のような伝統あるカトリック系お嬢様学校⋯⋯という設定のコンセプトカフェでした、という一筋縄では行かない世界観。タイトルにわざわざ「百合」と入っていることもあって、百合を若干メタ的に捉えた独特の設定が何よりも素晴らしい。

微小のネタバレ

加えて、コンセプトカフェという設定を活かして、登場人物がほぼ全員「表の顔」と「裏の顔」を持っているという、さらに一筋縄では行かないキャラ設定が。ジャンルとしては一応日常系のはずなのに、まるでスパイもののような、演技を通すことのハラハラ感が見え隠れする作品です。

作画は全体的にレベルが高いです。特に、あくまで「お仕事」であるという前置き付きですが、コンセプトカフェの1場面として何度も描かれる、百合の花 (物理) が舞い乱れるシーン、これが本当に目が覚めるほど美しい。冗談抜きで額縁に入れて飾りたいレベル。前後のシーンとの落差の大きさも含めていろんな味わい方ができます。

で、肝心のストーリーも⋯⋯というか、ストーリーこそがこの作品の一番愛おしく美しい要素です。序盤、1巻から2巻にかけて「白鷺陽芽」と「綾小路美月」の物語が描かれるのですが⋯⋯ストーリーを追うごとに徐々に明かされる過去、可愛い顔に似合わない感情のぶつかり合い、コンセプトカフェという舞台で繰り広げられる仮面越しの攻防、そしてストレスフルな状況において際立つ白木陽芽の強かな言動。様々な要素がこの物語を引き立て、最高のものに仕立て上げています。

「ソトヅラをかぶる」というややこしいテーマを掲げていることもあって、主人公や美月がどの場面でどういう理由で何を思ったのか、おそらく一読しただけでは把握が難しい物語だと思います。未読の方にはそのあたりも含めて、ぜひ2度3度と味わって頂きたい作品です。

百合を愛するすべての民にオススメしたい博多市的最推し作品である一方、作中において「百合を演じる」ということに関して、百合の本質を伴っていない、軽んじている、あるいは空虚に感じる人もいるかもしれません。そのあたりは若干向き不向きがある作品だと思うので、1話だけでも読んで確認してほしいですね。

あと細かい話として、各巻末に作者のあとがき漫画がついているのですが、この物語が生まれるまでの具体的な苦悩や実際的な工夫が綴られており、創作に関わる人には非常に参考になると思われます。個人的には最高の体験を得た1, 2巻に対して3巻での失速を感じますが⋯⋯いずれにせよ今後に期待したい作品の一つです。

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