フィリピン国立芸術高校との協働

HANDs! PROJECT
HANDs! MAGAZINE 日本語版
7 min readMay 24, 2018

スタディツアーinフィリピン・マニラ 2017/2018

フィリピンの首都マニラから車で2時間程の場所にある、フィリピン国立芸術高校(PHSA)。ここが HANDs! Project 2017–2018のフィリピン・スタディーツアーの舞台です。

芸術専門の高校が舞台

26人のフェローは2017年10月8日~12日までPHSAに滞在し、HANDs! のフィロソフィーである「風、土、水の理論」や「デザイン思考」などを通して、問題解決ひいては新しい防災・環境教育開発の基礎を学びました。では、なぜPHSAが学びの舞台に選ばれたのでしょうか。PHSAとはどういう高校なのでしょうか。

PHSAは1978年に設立された芸術を学ぶ意欲のある高校生(学校制度の関係で日本の中学から高校の世代)に開かれた国立高校です。生徒は、基本的に全生徒が寄宿して、文芸、ダンス、音楽、舞台芸術、視覚芸術のコースに分かれて学んでいます。キャンパスが山の上に立てられているため、広大な土地が一つの学び舎として使用されています。PHSAの卒業生には、フィリピンを代表する芸術家や音楽家などが多く、過去のHANDs!フェローにもPHSAの卒業生がいます。

HANDs! は2014年に開始してから一貫して、「防災教育+クリエイティビティ」をプログラム実施の基本方針に据えています。従来の 防災教育にない、クリエイティブな手法を使った防災教育を開発し、アジア地域に定着させることを目標にしています。クリエイティビティのある防災教育とは、子どもが外で遊ぶ遊戯やカードゲーム、音楽、演劇といったような新しい手法を用いて防災メッセージを伝えるものを指します。

そういった観点からは、PHSAはHANDs! Projectとの親和性が高かったのです。またスタディツアーを通して現地の人々からのインプットだけでなく、フェローやアドバイザーの知識経験を還元することも目標にしているため、これからのフィリピンを支えていく世代と共に学びあうの事は大きな意味があると考え、PHSAでのスタディツアーが計画されました。

現地高校生との学びあい

PHSAでのスタディツアーでは、フェローと共にPHSAの生徒も一緒に学びます。学びの過程について、フェローの福井裕晋さんが自身の経験をウェブサイト上で以下の通り発表してくれてます。

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フィリピン研修では、主に「デザイン思考」「システム思考」「風・土・水の人」の作り方を学習し、フェローたちだけでなく、PHSA(フィリピン芸術学校)というデザイン・ダンス・文学などを専門に学ぶ中学2年生たちも一緒に参加し学んでいった。

風の人:新たなアイデアやイベントを運んでくる「種」を生むNPOなど

水の人:風が運んできた「種」を地域に根付かせる学校の先生など

土の人:その種を大きくするために必要な地域住民の人たち

世界や社会など全体を俯瞰していきながら課題解決する「システム思考」

個を中心に考えていき課題解決する「デザイン思考」

それぞれのアドバイザーからのレクチャーを受けながら、フェローたちと生徒たちをミックスさせたグループを作り、「防災教育・環境問題・食の問題」の3つの中から自分たちで課題を選択し、プロトタイプを作っていく。プロトタイプ作成にあたり、地域の現状や課題を出していく「ブレインストーミング」、「フィールドワーク」を行うなど1つずつステップを踏んで行っていった。私の班は、防災教育で生徒たちがより楽しく、そして記憶に残るような防災教育プログラムをゲーム要素を取り入れて作成した。

「みんな、防災には興味は持っているけど、いつも同じことばかりやっていて、つまらなくて記憶に残ってないとおもう」(一緒なグループにいた生徒の声)

この発言は印象的だった。日本の学校現場でも、地震や火災に揃えて避難訓練が行われているが、毎回同じ内容の繰り返しでリアリティもない。日本では、災害が多く発生しているなかで生徒たちが避難訓練のなかで何か得ることがないと意味がないとおもう。

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高校の問題を解決するアイデアとは

福井さんが述べているように、フェローとPHSAの高校生らは学びの最終段階で、PHSAの課題をあぶり出し、その課題解決が出来き、防災・環境プログラムを作成しました。調査の結果問題とされた事柄並びに、作成したプログラム・アイデアは以下の通りです。

(1) Typhoon Hero

問題意識:台風災害時の対応策を知らない。

解決策:スマートフォンで遊びながら知識が得られるアプリの開発。

(2) Makiling Art-awareness

問題意識:学内における防災意識の欠如。

解決策:紙芝居と人形劇を組み合わせたような劇を通じて防災意識を高めてもらう。

(3) Makiling Escape

問題意識:災害時対応の地図が存在しない。

解決策:災害時の避難場所など記した地図の作成。地図をポップアップ式にするなど飽きない工夫も。

(4) Eco Lab

問題意識:学内における防災意識の欠如。

解決策:PHSAの学生が得意とするダンス、劇、絵画、歌謡などをに防災の知識を混ぜ込んだイベントの実施。

(5) Moving Alarm Warning System (MAWAS):

問題意識:学内に警報を知らせる装置がない。また学内が広すぎる。

解決策:学内を移動しながら警報出すことが出来る機器の開発

(6) The Book of Life:

問題意識:防災教育が学内で行われていない。

解決策:防災情報が記載された本を作成し学内で配布する。

(7) Solar-P:

問題意識:停電が多い。特に災害時には非常に電力供給に不安がある。

解決策:学内にソーラー発電機を設置し学内消費電力を自家発電で賄う。

(8) Food Transporter:

問題意識:学内敷地で高低差が激しいため食料の運搬が大変。

解決策:ローラーを使用した食料配給を簡易化する装置の設置。

最終的に、フェローと生徒は協働で書くプログラムの発表を行い、他のグループ、アドバイザー、学校の教師などから論評を得ました。残念ながら時間の制約の関係で、作成されたプログラムの実証実験までは出来ませんでした。

ただ今回のHANDs!とPHSAの協働は、今後PHSAにおける防災への認識の変化や、学生達によるクリエイティブな手法が社会課題の解決に使えるといういいヒントになったとことでしょう。

文責:藤本迅(国際交流基金ジャカルタ日本文化センター)

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