創造性の種を生みだすHANDs!プロジェクト

HANDs! PROJECT
HANDs! MAGAZINE 日本語版
11 min readJan 23, 2017

スタディーツアー2016/2017 By YEO LI SHIAN

2016/17年のフェロー24人はバリで環境問題のプロから刺激を受けた

ある朝、ほぼ空きスペースがない散らかった机を片付けていると、何かが膝の上に落ちた。全192ページの手のひらサイズの冊子、コリンズ・ジェム著『災害を生き延びる(Disaster Survival)』だ。

表紙には赤字で「不測の事態に備えよう」と書かれている。ページをぱらぱらめくっていた私は、凍りついた。「ああ、神様!(もし自然災害に襲われたら)私はおしまいです」そう思った。

確かに、防災教育は魅力的なテーマではない。それどころか、私が知るほとんどのマレーシア人はこの魔法の言葉を滅多に、いや決して口にしない。

マレーシア――私のkampung(故郷)――にはほぼ災害がないことを考えると、それも意外ではない。いや、正確に言えば、毎年起こる洪水と、隣国インドネシアを原因とする煙害を除けば災害はないというのが正しいだろう。だがここ数年、マレーシア各地で集落を押し流した悲惨な洪水は、私たちのもろさを容赦なく思い起こさせる。

私はすぐに、防災教育は単なる意識啓発と救命スキルにとどまらないと悟った。それ以上の集団的取組なのだ。全員に果たすべき役割がある。望ましい集団的行動を促すには、適切な知識が欠かせない。

その後時計の針は進み、私は8カ国出身の23人の聡明な若手専門家23人とともに、インドネシアのバリにいた――バレーダンサー、神経理学療法士、政治漫画家など多彩な面々だ。私たちはともに、災害リスク軽減と環境知識という宝の山を少しずつ発見していった。

国際交流基金アジアセンターが2014年に開始したHANDSプロジェクトのおかげで、13日間の冒険を通じて私たちは、フィリピンを含む2つの国を旅した。

大きな見返り

バリでは、それぞれの分野で卓越した組織と個人の情熱や、中核的な理念、取組に心を動かされた。

そのひとつが、スバック・システムである。

バリ島に広がるスバックを利用した水田

地元の村人Harry Nyomanは、水がちょろちょろ流れる水路にしゃがんで、バリの有名な水田灌漑制度の背後にある理論を説明してくれた。

数世紀前から続くこの灌漑制度は、「Tri Hita Karana」というバリの精神に基づき運営され、自立と回復のための優れた戦略を体現している。構成員間での水の公平な分配を目的とするこのシステムは、食糧供給の増大と所得上昇をもたらし、生活水準を向上させ地元社会に大きな見返りを生んだ。

「バリに来るのは初めてだけど、はやくも感心しているよ」とタイから参加した27歳のドキュメンタリー映画製作者Phongthep Bunklaは、一眼レフで撮った数々の写真を指で優しく繰りながら熱い口調で語った。

Phongthepが気づいたように、このバリ式の灌漑システムには、地域社会で水路を運営し、農業効率を高め資源保全を推進するための手法が取り入れられている。自然と向き合うバリの人々の暮らしと、その豊かな文化に目を見張った、と彼は語る。

Phongthepはスバックを「バリで一番気に入った活動」と呼び、彼が今後手がける天然資源管理プロジェクトにこの考え方を取り入れたいと考えている。

アイデアをもらう

「一番優れた取組事例はまだ練習中です」と彼らは語る。今回の旅行で私が一番気に入った訪問先のひとつ、NPO法人コペルニクで聞いた、その言葉には真実味があった。

コペルニクは長年の取組を通じ、革新的技術を用いた自立的サイクルの実現により、辺境コミュニティを少しずつ貧困から救い上げてきた。コペルニクにとってこれは単なるビジネスモデルでなく、変化を促す使命である。現在、彼らの製品は21カ国20万人以上の人に届いている。

とはいえ、コペルニクの現在のシステムに全く問題がないわけではない。1時間のアイデア醸成セッションで、私たちは現在のシステムの改善を手助けするため出来る限りの独創性を発揮した。彼らの揺るぎないビジョンを維持しつつ、現実に即して自分たちのアイデアを検証するのは、私たちにとって素晴らしい挑戦になった。

加えてコペルニクでは、プロジェクト管理やプロジェクト資金調達法に関して、いくつかヒントももらうことができた。

分別と持続可能性

バリ訪問でとりわけ印象的だったのは、グリーンスクールだ。毎日、面積23エーカー(約9万3,000㎡)の美しい自然の中に立つ竹作りの見事なキャンパスに通えるとしたらどうか、想像してみてほしい。そして、敷地内でとれた新鮮な野菜を使った食事を味わえるのだ。

世界的に有名なバリのエコスクールでは、生徒も職員も毎日そんな贅沢を体験している。子どもたちが心地よく身を落ちつけ、おいしい食事を楽しんだり、お気に入りの曲を鼻歌で歌う様子を 目にするだけで、こちらも元気になってくる。

参加者のひとりRizqia Sadida(23)は明らかに、この学校の特徴的な外観と驚くほど環境にやさしいコンセプトに魅了されていた。その理由は簡単で、独創的であると同時に都市環境でも実用的だからだ。

賞に輝いたこの学校は、彼女に言わせれば、都市生活者に自然との関係を深める方法を見直すよう迫るものだった。

「トイレを含めて100%完全にエコだなんて、すごいわ!」ジャカルタを拠点に絵本のイラストレーターとして活躍するRizqiaは、グリーンスクールが採用する様々なアプローチを念頭に置いて夢中でまくしたてた。「環境にやさしい取組への彼らの真剣な努力を見て、私ももっとエコな暮らしを送ろうと思いました」

興奮が収まった後も、その日はさらに様々な活動が続いた。過去のHANDs!プロジェクト参加メンバーであるBonni RambatanとVina Puspitaが、アクションプランの作成に向け貴重なアドバイスをくれた。その後数時間、国別グループのブレインストーミング・セッションを通じて私たちの独創性とプロジェクト企画力が試された。

Vina Puspita
Bonni Rambatan

その日の最後に、バリ出身のバンドNaviculaのボーカリストで、地元のロックミュージシャンの憧れであるRobiが、待望のミニコンサートを開催した。私たちは彼の歌に息をのんで耳を傾けた。なかでも楽曲「Rainbow Warrior」は、様々な社会問題・環境問題を擁護する上でこの20年間に音楽が果たしてきた役割の重要性を証明するものだった。

草の根レベルの指導者

シンプルで実用的なデザインの力を、見くびってはならない。バリ島西部プルカンから約22km離れたジュンブラナでは、賞を受けた小さな幼稚園がこの信念の正しさを証明している。

この幼稚園Paud Cemara Kasih(PCK)の園長Ibu Agnes Rini Astutiは、日用品(使用済のミネラルウォーターボトル)だけを使って考案した計算力を養う3Dゲームの説明をしてくれた。彼女は、単純なゲームでも、子どもの注意をひきつける面白く効果的なものにできることを教えてくれた。

それは情熱と忍耐の明白な証だった。Ibu Agnesらの手によって、質素な施設として始まった幼稚園に今や100人以上の園児が集まりにぎわっている。子どもの発達と創造性を刺激する最高の選択肢を探るという意味で、この訪問も私たちの学習プロセスに見事に合致したものだった。

実生活への応用

フィリピンからの参加者でCNNフィリピンのグラフィックデザイナーを務めるVictoria Almazan(24)も、心から同意してくれた。幼稚園で楽しさが重視されている様子を目にして、彼女も今後手がけるビジュアルコミュニケーション・プロジェクトに同じ視点を取り入れようと考えている。

「本当に楽しかった」とVictoriaは語る。「教師の情熱や、子どもたちと親の幸福といったシンプルなことも、実感できます!」

HANDs! プロジェクトはPCKを、私たちにとって理想的な実験の場だと考えた。そこでの2日間を通じて、私たちは子どものためのクリエイティブな防災教育を企画し、プロトタイプを作成し実行するという過酷な体験を乗り切った。

「子どもたちがここで学んだこと全てを、実生活に応用できます。おかげで子どもたちは自信をつけ、自立できました」とネパール出身の神経理学療法士Pranab Man Karmacharya(29)は語る。VictoriaもPranabも、地域社会のひたむきな努力と温かなサポートに深く心を動かされた。

Paud Cemara Kasihと同様、HANDs!プロジェクトでは有意義な行動、成長、夢の実現を促すとともに、クリエイティビティという楽しい要素を付け加える。このプロジェクトは私たちに、地域社会に波及効果を生みだすには(大小問わず)全ての行動が大切なのだという、かけがえないメッセージを伝えてくれた。

今なら私も、私たち自身も良い方向に変わったと断言することができる。

Yeo Li Shian

*この記事は、 HANDs!2016/2017フェローであるYeo Li Shianさんによる寄稿文です。

*記事中の見解は個人的見解であり、HANDs!プロジェクトとしての立場を表明するものではありません。

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