日本初のLightning Networkハカソン「オフチェーンアカデミーハックデー」参加レポート
オフチェーンアカデミーの今井さん主催、HashHub共催・支援という形で、日本では初となる本格的なLightning Networkのハッカソンが9/29~9/30の二日間で開催されました。
日本でもLightning Network(LN)に関する研究、開発をする企業やグループは少しづつ増えてきていますが、LNの技術を理解する開発者の数自体が日本ではそこまでまだ多くないこともあり、今回は「LNに興味があり、ウェブサービスやAPIを利用した開発経験がある」人を対象に、LN開発の入り口としてのイベントを目指しました。
審査員にはNayuta, IndieSquare, chaintopeなど、日本のビットコイン、LN開発の最前線で活躍している企業が集まり、参加者への技術アドバイス、APIの提供、発表の審査などの形でイベントの盛り上げに協力してくれました。
最終的に約30人ほどの開発者が集まり、二日間にわたりLNの基本を学びつつ、実際にそれぞれのチームが考案したLappsの実装を行うところまで完了し、熱気に満ちた非常に質の高いイベントになったと思います。
イベントの概要
1日目の前半は主にLightning Networkの仕組みや開発者用のツールに関する基礎的な説明がされました。
BTCPayserverの説明
BTCPayserver(BTCPS)のリード開発者かつHashHubのアドバイザーも務めるNicolas Dorierが、BTCPSの概要とLNノードのデプロイについて解説。
BTCPSを利用することで簡単にLightningのフルノード(c-lightningとlnd)をセットアップすることが可能で、今回のハッカソンでもほぼ全てのチームがBCTPSを利用し、開発を行いました。
Lightning Networkの基本
福岡に拠点を置き、Lightningの独自実装Ptarmiganの開発を行うNayuta代表の栗元さんにはLNの基本的な構造に関して発表をしていただきました。Lightningの構造とビットコインオンチェーントランザクションとの仕組み、栗元さんが考えるLNの複雑性などについて説明。また、Nayutaで開発中のPtarmiganのセットアップ方法などについても解説がありました。
Lightning Network対応Unity SDK
IndieSquareではUnityを利用したゲームに簡単にLightningの支払いを組み込めるSDKを開発しており、CTOのChristian MossからSDKを組み込んだゲームの実例なども紹介されました。
LNを利用した双方向のマイクロペイメントの応用としてすでに多くのLappゲームが出てきており、今後Unityを利用したLightningゲームも増えていくと思います。
Lapps紹介
主催者の今井さんからは、現在のLNを利用したアプリケーション(Lapps)の具体的な応用例を説明していただきました。ハードウェアへの応用、秒単位のマイクロストリーミング課金、APIごとの課金、ゲームへの応用例などを中心に現状の代表的なLappsがまとめて紹介されました。
アイディアソン&実装
LNに関する基本的な説明が終わった後に、各自数人ごとのチームに分かれLappsのアイディア出しなどが始まりました。この時点ではまだLightningのInvoice型の仕組みや、ペイメントチャネルの設計についてピンと来てない人も多かったですが、主催者や審査員などからのアドバイスもあり、少しづつアイディアが具体化していきました。
1日目後半~2日目前半 実装
この時間はひたすらに実装です。今回のハッカソンの審査では、発想のオリジナリティーもそうですが、実際に動く状態までアウトプットできるかも重視されているので、各チームぎりぎりまで集中して作業していました。
発表会
2日にわたるワークショップと企画&実装の後、全7チームが成果を発表してくれました。
チームしながわ
- LNを利用したオークションシステム
- 具体的な仕組みとしては、LN上の送金でオークションに入札する。自分が入札した金額を上回る入札があった場合、前の入札分は返金される。LN上の送金は手数料が安いので、トランザクション数が増えても問題はない。
- 事前にLN上で入札分の金額をコミットしなくてはいけないので、支払い能力以上の入札は不可能で、落札後の支払い拒否などもなくなる。
- 課題としては、スマートコントラクトなどを組み合わせないとオークション運営側からの返金部分に信頼が発生してしまい、トラストレスになっていないこと
発表資料はこちら(日本語の後に英語での資料もあり)
チームVote
- Lightningを利用した投票システム
- Lightningの即時性を利用することで、リアルタイムで投票結果がわかる仕組み
- 今回の実装では10satoshiの支払い=1票として、LN支払いのInvoice発行(投票リクエスト)、投票結果をリアルタイムで表示できるところまで作った
チーム Green Freedom
- LNを利用したデジタル漫画のマイクロ課金サービス
- 漫画の画面のスクロールごとにLNでマイクロ課金していく。読んだ分だけ課金されるような仕組み。
- また、漫画のページにいいね!ボタンを押すことで漫画家に寄付をしたり、支払いが投票として機能したり、マイクロペイメントにソーシャル的な機能を付与している
- 実際に実装も完了しており、midori.funからLightning課金で利用できるようにするとのこと
チーム Murasaki
- Lightning課金をすることで利用できるカメラを考案&実装
- イベント会場やテーマパークなどに事前にLN対応のカメラを設置しておくことで、ユーザーはユニークな写真1枚ごとの課金が出来るようになる
- LNの即時性を利用し、着金があった瞬間に写真を撮る
- このような仕組みを用いることで、月額課金などのサブスクリプションモデルの貸し出しハードウェアなどを考案できるのでは
チームカヤック
- Lightningを利用した1対多数の、オンライン通話のマイクロ課金サービス
- Appear.inと組み合わせることで、誰かと話した分だけ秒単位で課金がされる。セッションを切った時点で課金は止まる。
- 1対1のセッションではなく、1対複数のセッションでも利用することが出来、例えばYoutuberやゲーム配信者のライブストリーミングに対し、複数視聴者からストリーミング課金が簡単に実現できるようになる
- 実装面ではWebSocketを利用することで、配信者とユーザー間のInvoiceのやり取りを自動化など工夫
Team Cherrychain
- ハードウェアとLNの組み合わせ。使いたい時に使いたい分だけ課金できるハードウェア。
- LN課金で10秒単位で動くヘアドライヤーを実装し、デモまで成功
- RaspberryPiを使用し、コンセント部分をハック。LNの支払いに応じて電源のオン/オフが切り替わるように改良
Team BlueBird
- LNを利用したインフルエンサー広告
- 現状のインフルエンサー広告モデルは広告掲載から入金までのサイクルが長く、広告主(Advertisers)の方もクリックごとなどの細かいプランなどを組みにくい、という問題がある
- LNを利用することで、クリックごとの細かく高速な広告収入の受取りや支払いができるようになるのでは、と考えた。
- Litの実装を利用して、プッシュ型のInvoice発行を活用
審査結果
HashHub賞
元々は大賞を一つだけ用意する予定だったのですが、レベルの高い発表が多く急遽大賞とは別にHashHub賞を2つ用意しました。
(対象チームは、HashHubスペースを一か月間自由に利用できるように)
Team Cherrychain
LN課金対応のコンセントとドライヤーでのデモ
Team カヤック
LNを利用した1対多数のオンラインストリーミング課金
大賞
そして栄えある第一回Lightningハッカソンの大賞は、
Team Green Freedom
でした!
デジタル漫画にLightningを利用したマイクロ課金を組み込むだけでなく、ソーシャル機能やエラー処理の部分など細かい部分までよく考えこまれていました。また、すでに実際に本番公開可能なレベルの機能が実装出来ている部分も審査員に高く評価されました。
総評
今回は日本での第一回目のLightningハカソンの開催ということもあり、どれくらいのレベルのプロダクトが出てくるか未知数の部分も多かったですが、結果的には主催者や審査員の想像を超えるレベルのプロダクトやアイディアが多く、非常に有意義なイベントになりました。ベルリンのLightningハッカソンにも参加したメンバーからも、今回の日本での結果は海外とも遜色ないレベルだったという声もありました。
また、主催メンバーや審査員も含め、LNプロトコル開発者など最前線で活躍する人たちもおり、日本でも強力な開発コミュニティーが形成されつつある手ごたえを感じた会だったとも思います。
ただし、今回の2日間だけでは作れるものも限られ、今後継続してまたハカソンや勉強会を行っていくことで、さらにレベルの高い関連技術やプロダクト、アイディアを日本国内から海外にも向けて発信して行こうと思います。
HashHubでは今後もLightning Network関連のイベントを積極的に開催、支援していくだけでなく、10月にはLightning Networkの利用や開発を促進する自社プロダクトのリリースも予定しています。また、海外のイベントやハッカソンとも積極的に連携していきたいと考えているので、興味のあるイベント主催者、スペース運営者がいれば是非連絡してください。(Email to info@hashhub.tokyo )