HashHub入居者インタビュー Vol.5 スタートバーン CEO 施井さん ~後編~

前編はこちら

前編ではスタートバーンさんの簡単な事業紹介と、『アートブロックチェーンネットワーク』の構想などをお聞きしました。後編ではそれができた時、業界がどう変わるかやアートのこれからをお聞きします。

執筆者 HashHubインターン 望月

スタートバーンホームページ:https://startbahn.jp

Startbahn.org:https://startbahn.jp/service/startbahn-org/

富士山展:https://exhibition.startbahn.org/fujisanten/

施井泰平:プロフィール

プラットフォーマーと運営の距離感

望月「一つ疑問なのですが、スタートバーンさんが考えるようなプラットフォームができた時、運営がどれだけ介入するかというのは難しい問題だと思います。違法な作品が出品された時や、そもそも証明書が正しいか疑われた時ですね。これらはどのように考えていますか?」

施井「これは僕らの仮説としてお話します。例えばスタートバーンのアカウントというのは誰でも作れるんですね。なのでピカソを自分の作品として登録することも可能です。これは誰も止めようがないんです。実際に世界のブロックチェーンサービスとかもほとんどでそれが出来てしまうし、これは防ぎようがないんです。もちろん、違法なものは警察が取り締まりますが、未然に防ぐのは難しいです。

実際に先日5社との提携を発表したんですが、そこはもうトッププレイヤーだとか、関連業界の上場会社とかだったりします。そういうところが発行した証明書は信頼できるとか、startbahnで最初に買って大手のオークションハウスに売られた時、真贋鑑定されたら価値が上がるみたいなことがブロックチェーンネットワーク全体のなかで実現できるようになればいいのかなと思っています。」

望月「つまり登録したあと、市場のような形が自然に出来上がっていくということですか?」

施井「そうですね。なので最初ちゃんと鑑定サービスを挟んでおけば、コストはかかるけどでもそれは信頼につながったりもします。アートブロックチェーンネットワークはあくまでインフラなので、一社だけ、自分達だけでクオリティーコントロールするっていうのは無理だと思います。つまり全作品をラグジュアリーに、全部真贋鑑定してやりますみたいなのは難しいので、startbahnみたいなサービスは参入障壁が低いので多くの人が手軽にブロックチェーンネットワークに繋がることが出来る代わりに全部が全部鑑定をしているわけではないので信頼できるものとそうでないものが混ざってて、一方で老舗やノウハウがあるところは手間暇かけてるからお金も時間もかかるけど、その代わり全部の作品が鑑定されているから信頼できますみたいな。作品の価格帯や成長のフェーズに合わせてサービスを使い分けするようになれば良いと思っています。」

望月「つまり出展元で価値が上がったり下がったりするということですか?」

施井「でしょうね。もちろん価値を上げるのは作者本人の問題もあると思いますが。あと20年30年するとブランドイメージも入れ替わってきたりすると思います。それこそ昔は中国製品とか韓国製品とかは安い製品みたいに取り扱われてたけど、今は高級ブランドになっていたりとかしますね。同じようなことがアートサービスにも言えるようになっていく可能性もあるわけです。なので2020年代の、あるサービスからはいいアーティストがいっぱい出ているというのが30年50年経ったら変わっている可能性があると思っています。なので現状だけにとらわれず長い目で見て有用な記録を残せるようなプロトコルになればいいかなと思います。」

望月「そうなると最初のアカウント登録のあとは市場が勝手に決めるかなと考えているということですか?」

施井「もちろん僕らも企業努力で最善を尽くしますが、作品の価値は本当に様々な要素によって決まってくるので、正直次の時代に残るものがどういうものなのか100%わかるものではないのです。人間の全創作物を残すわけにはいかないので、何を残すかはそれこそ市場やその時代の人間が決めるものなので、僕らはその環境を最大限整備することしか出来ません。

あと、アートのオークションハウスはずっとトップ2が決まっています。クリスティーズサザビーズというのがあります。世界には2000以上のオークションハウスがあるのですが、1700年代からその二強が影響力を保っているというような世界なんです。なのでそこを乗っ取ってやるみたいなのは、そもそも筋がいいとは思えないんですね。みんなと共存した中で、彼らみたいな王者でもブランドを活かせたり参加したいと思えるようなものにならないと結果的にいいインフラにならないかなと思っています。」

ハードルを最低レベルまで下げる

望月「そうなるとトップマーケットに出展しないと芸術家一本でご飯を食べることが難しいということですか?」

施井「今まではそういう側面があったのを、僕らはそこのハードルを下げたいと思っています。今まではギャラリーに認められないとちゃんとした証明書も発行出来ないような世界でしたが、自分のショップサイトからある程度信頼出来る証明書を発行できるようにするとかです。また、ウェブサービス経由で作品を買った人が、その後少ない手続きで信頼あるオークションハウスとかで二次販売することを可能にしたり、最初の参入ハードルを限りなく低くしたいです。

望月「それは作家もコレクターもということですか?」

施井「そうです。あとギャラリーなどのマネージメント層もですね。コレクターに関して言えば先ほど言ったような分割所有とかもです。今までは超有名作品は億単位の貯金がある人しか買えなかったけど100万円とか10万円で一部が買えるとかになってくると間口が広がってくるのかなと思います。そうした小さい体験からファンやプレイヤーが増えて良い循環になるような構造を作っていきたいです。」

分割所有とは?

望月「今更なんですが、分割所有とはどういうものなんですか?」

施井「色んな分割所有とかがあると思うんですが、例えば海外のサービスですと51%以上持っている人が所有権を持てるというルールを設定しています。それで作品の所有権はサービス運営者が持っているんだけど、残りの49%を分割で販売するという感じです。これは会社の株式と同じような設計なんです。51%以上持っている人はこういうことが出来ます、10%持っている人はこういうことが出来ます、というルールを最初に設計していく。当たり前ですが、サービス設計者はサービスレベルでもスマートコントラクト内でもルールを自在に設定できます。例えば僕が望月さんの作品を買ったとしても、通常は望月さんに著作権が残っています。なので僕はそれをTシャツとかにして販売できないんです。だけどOO%持っている人はTシャツにする権利があるとかルールのサービスを作れば、今まで出来にくかったことが出来るようになります。もちろんなんでも出来ると言っても金商法に触れたり、ユーザーが付いてこなければ駄目なのであくまで例としての話ですが、、、。

なのでこういうのはブロックチェーンじゃないと出来にくいことなんです。分割所有ってそもそも観念的じゃないですか。こういう観念的なアートの管理とか来歴の管理、分割所有、デジタルアートや限定作品の販売とかにブロックチェーンは向いていると言われています。なのでこれから盛り上がってくるんじゃないかと思っています。」

画像出典:スタートバーンホームページより

完全な脱中心は難しい

望月「使用チェーンはEthereumだと思いますが実際に入ってくるというのはどこの部分なのでしょうか?」

施井「証明書とそれを制御するスマートコントラクトをEtheruem上に発行します。しかし今はEtherumの特性を最大限活かしたり、完全に脱中心化出来ない理由がいっぱいあります。証明書を発行する時に、例えば参加したい会社さんにEthereumや鍵の管理がわかるエンジニアさんが居れば、僕らがABIを提供して直接繋げられるように出来ます。でもそういう会社って特にアート関連だとほとんどないんです。だから初期フェーズでは僕らが一緒に共同開発したりとか、APIをASP的に提供したりワードプレスのプラグインみたいな感じで参加しやすいように展開する感じになります。

なので、今のフェーズだけでいうと100%ブロックチェーンじゃないと無理という設計にはならない部分もあります。ただ将来的には、取引所の問題が解決したり、法的な問題や技術的な参入障壁が解決して、色んなユーザーが入ってきたり出来るようになると脱中心的な世界になってくると思います。」

望月「脱中心的になってくるのは、取引売買の流れ、証明書の譲渡の部分が脱中心的になってくるということですか?」

施井「そうですね。あとは証明書の発行もです。僕らのシステムを経由しなくても勝手に自分たちでこのプロトコルに接続できるということを目指しています。今の設計でもそれは可能なのですが技術的なハードルが高いのと自治の問題があるので、最初はある程度は弊社が中心になって管理する必要があるんです。

やはりトップクラスのオークションハウスもですが、アート業界って、顧客情報がビジネスの中核にあったりするんです。だから僕らと何かを共同開発するというのを感覚的に嫌がる会社も多いんです。なのでネットワークに直に接続出来るようにしたいというのがあります。言うならばアップルストアにアップルストアを経由しなくてもiOSのアプリを出せるみたいな感じです。独自販売できるような感じにして、うちは全然手数料取ったりとかしないし、審査もしないしという状態にしたいんです。

なのでいろんな環境が整備されるまではひたすら繋がっている人たちを増やして、徐々に脱中心・民主化していければと思っています。」

望月「なるほど、少しづつ理解できるようになってきました。ただどこまでいってもオラクルの問題になってくるなと思いました。」

施井「そうですね。ただオラクルの問題というのは単なる一個の繋がりの問題だけではなくて、途中で擦り変わるとか、そもそも間違ったまま登録するとか、悪意のある登録とか、通信を傍受されたらとか結構キリがないです。オンチェーンで完結する作品でなければデジタルアートだって100%安全とは言えません。

あと例えばメトロポリタン美術館の所蔵品の4割は贋作もしくは信頼できないものだと元館長が発言して物議を醸したことがあります。つまりその時点で美術業界ってオラクル以前の問題なんですね。逆にいうと世界のトップ美術館に4割も贋作が紛れている中でよく今まで8兆円市場が動いていたなという話なんですよね。あと作品証明書と作品が本当に一致するのか?とかもですが、良い意味でも悪い意味でもオラクルのような問題に何百年と対峙してきたアートとブロックチェーンは相性がいいなと思っています。」

画像出典:スタートバーンホームページより

ブロックチェーンなら解決できる

望月「ブロックチェーンに興味を持ったきっかけは何ですか?」

施井「元々10年前に特許を出したんですが、それがすごくブロックチェーンが関わってくる分野でした。作品を二次流通、三次流通を追っていって、二次販売、三次販売の時に元のアーティストに還元金がいくという特許を取りました。

ただここで買ったものをヤフオク!なり他のサービスで売られたらどうするというのがありました。こういうクリティカルな問題をどうしようかと考えていた時に社内にブロックチェーンに興味を持っているスタッフがいて色々教えてもらったのが始まりです。2016年の頭ぐらいだったと思います。その時にこれだったら僕らの課題解決するじゃん、みたいな感じですね。なのでブロックチェーンありきのプロジェクトというよりは、自分たちの課題ありきでこれがあると今まで超えられなかった壁を超えられるみたいな感じで始まりました。」

望月「確かに途中でヤフオク!とかにいったら何も出来ないですよね。」

施井「そうなんですよ。ただ僕はそういうのを10年以上考えていたので今世界にアート×ブロックチェーンのプロジェクトって30ぐらいあるんですが、彼らがこれからぶち当たるであろう壁というのがわかるんです(笑)。

二次流通とかの管理で色んな人の手を漁っていくともう行き先をコントロールすることができなくなってしまいます。なので二次流通のコントロール問題とか、プラットフォーム乱立問題とかは絶対にこれから起こると思います。プラットフォームを横断して取引できたりもろもろの二次流通管理に関するアイデアとかもそういう経緯から設計しています。」

まずは業界で手を繋いでいきたい

望月「アート×ブロックチェーンだとascribe、Verisartなどが有名かと思います。どのようなにみられていますか?ライバルとしてなのか、業界内の仲間なのか。」

施井「フェーズ的には仲間なんですが、僕は彼らも参入できるように設計しています。なので本当にバッティングするとことは少ないし、実際は1社が成功するというよりはクレジットカードみたいに、VisaとMaster CardとJCB受け付けてますみたいに3社〜5社のサービスを皆が同時に使うようになるんじゃないかと思います。業界の方向性としてはおそらく10年後とかは多くのアート関係者がどこかしらのサービスを経由してることになっていて、いかにシームレスに使えるかとかが重要になってくるのではないかなと思います。」

望月「ということは今はとりあえず仲間ということですね。」

施井「今は仲間ですかね。PayPalとかもピーターティールとイーロンマスクの別の会社が合体してできたじゃないですか。だからそんな感じでうまい具合に吸収したり、でっかくなったりしたらいいなと思っています。

一方で、やはりインターネットと違うところは脱中心という思想があるので、絶対的なプラットフォーマーになろうとは思っていません。もちろんその中で影響力がないとビジネスにもならないですが。あくまで業界全体で手を繋ぎましょうと。その中で僕らはいつも最善で良い提案をし続けて支援者が多い会社になれればと思います。」

画像出典:startbahnサービスページより

裾野が広がる。レベルも上がる。

望月「施井さんは『アートの民主化』をテーマに活動されていますね。これは、今まで一部のお金持たちだけが関わっていたこの業界の裾野を広げるということですよね。」

施井「そうです。アーティスト、コレクターに関わらずハードルを下げるということです。なのでジャスティンビーバーみたいなのが出てきたらいいなと思っています。彼は最初YouTubeから上がっていって、トップミュージシャンになっています。そういう人が何人か出てくるといいな思います。」

望月「そうなると裾野が広がっても、活躍できる人のスキルというのは今とあまり変わらないのでしょうか。」

施井「そうですね。むしろ今よりハードルが高くなっているかもしれません。あと選ばれる基準は変わるでしょうね。競技人口が増えれば増えるほどレベルが高くなったり関わる人も多くなると思うので。今みたいに、業界の人しか知らないドアがあってそこを何十回とか叩いたら入れるみたいだったのが、みんなが入れるようになる。だけどトップまで行くのは超大変みたいな感じになるかなと。

例えばYouTuberとかになってある程度ご飯が食べれるようになるのと、従来の芸能人になるのを比べた時にどっちの方が大変かというと、もしかしたらYouTuberの方が厳しいかもしれませんよね。」

VRの進化も同時に来る

望月「そもそも「アート」に興味がなく、アートにお金を払うという習慣・考えがない人がいると思います。この、そもそもアートに目が向いていない層を取り込む施策などはありますか?」

施井「僕はVRとか他の技術の進化も同時に来ると思っているので、10年ぐらい経てば結構世の中に浸透する可能性があると思います。そうなってくると色んなマネタイズポイントも民主化してくると思っています。例えばVRルームとかに自分の所有する作品のデータを置いておいて、誰かが閲覧する度にナノペイメントで1円未満の閲覧費を徴収するとか。デジタルデータのレンタルビジネスが出来るとか、著作権グッズを作れるとかそういう風にアートと触れるインターフェイスがどんどんアプデートされて情報が広がっていく。という感じになればいいなと思っています。アートの定義も自ずと変容していくと思いますし」

”ブランド”は下がらない

望月「一方その敷居の高さによって確立させられていた”ブランド”のようなものがあるのではないかなと思います。そういうのも下がってしまったりするのではないでしょうか。」

施井「みんながみんな一番下になるわけではないと思います。例えば野球だと3歳からできるレベルの低いチームもあるけど、プロ野球選手になるためのハードルは変わらないじゃないですか。それと同じで、トップアーティストやギャラリー、オークションハウスのブランド自体が下がることはないと思います。ただ一方でひどい作品も世の中にいっぱい出てくると思います(笑)。1990年代にアートスクールが多く設立されたり、その後のインターネットの普及でeコマースが出た時に同じような議論は何度もされてきましたが、現在でもトップ層のオークションプライスは上がり続けています。もちろんオークションプライスは一つの指標に過ぎませんが、、、」

富士山展開催、メインネット公開、ホワイトペーパー作成

望月「現在の開発状況と今後の展開を教えてください。」

施井「一番直近のアナウンスは1月5日に富士山展やりますということです。それに向けて社内で色々調整しています。

後は来年の2〜3月ぐらいにホワイトペーパーとかを作り始めて世界に発信しようと思っています。そして4月から5月の間にメインネットにシステムを公開して、サービス横断での取引がが動き出すと思います。」

望月「最後に一言お願いします。」

施井「やはりブロックチェーン技術は3〜5年後ぐらいには世界人類にとって重要なテクノロジーになっている思うので、今は仮想通貨業界などお通夜ムードですが全力で走り進める価値はあると思うので、大変だとは思いますがみんなで頑張って仕込みましょう。」

まとめ

アートの世界に長くいるからこそ、業界の問題点がブロックチェーンにより大きく改善できると期待しているようでした。これは自身がアーティストとして活動することが大変だったというだけでなく、業界の発展のために、より多くの人がアートの世界に飛び込んでくれるようにどうすればいいかを考えているからなようです。

スタートバーンさんが主導する『アートブロックチェーンネットワーク』が今のアートをより強力に、面白くするかもしれません。また来年にはホワイトペーパーの作成にも取り掛かるようで、久しぶりに日本初のホワイトペーパーが見れそうです。

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