みらいのたね賞2021報告

「地球目線で考える受け継がれるものとは何か」

manabu synbori
HEAD Journal
16 min readFeb 17, 2022

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HEAD研究会 建材部品TFメンバー 磯永聖次(タキロンシーアイ株式会社)

◆みらいのたね賞 選考委員講演

・ 開催日:2021年11月17日(水) 12:30~13:30
・場所:東京国際展示場(東京ビッグサイト)西展示棟会場内 講演会B会場(西1ホール)

・講演者:小堀 哲夫 氏 (小堀哲夫建築設計事務所 建築家)

・テーマ:インスピレーションとイノベーション

◆授賞式、みらいのたね賞シンポジウム開催概要
・ 開催日:2021年11月17日(水) 14:00~15:30
・ 場所:東京国際展示場(東京ビッグサイト)西展示棟会場内 講演会B会場(西1ホール)
・ 登壇者:ゲスト選考委員 小堀哲夫氏(小堀哲夫建築設計事務所 建築家)
選考委員 松永安光氏(一般社団法人HEAD研究会理事長)
選考委員 山本想太郎氏(山本想太郎設計アトリエ 建築家)

みらいのたね賞

みらいのたね賞について

「みらいのたね賞」は、建築家が選ぶ、優れた建築を生み出すことに貢献しうる優れた製品、未来への布石となる製品に贈られる賞です。2011年より一般社団法人HEAD研究会が開催してきた「HEADベストセレクション賞」を継承して、一般社団法人日本能率協会が「Japan Home & Building Show」の公式アワードとして2017年にスタートしました。毎年ゲスト選考委員を迎え、出展製品の中からテーマに基づき、約10製品を選定、表彰しています。

今年は前身となる「HEADベストセレクション賞」から数えて11回目となり、これまでに今年の9製品を加え114製品が選定されています。今年は、更に、ゲスト選考委員賞として2製品が決定されました。

「インスピレーションとイノベーション」
— 今年度特別選考委員小堀哲夫氏によるレクチャー

「建築には人の五感を刺激し、インスピレーションや感性を拡張させる力がある。ソリューションである「機能性」は建築に必要不可欠であるが、同時に建築には広がりも重要であり、それはインスピレーションという精神的な働きが大きく関わってくる。その二つが融合した建築によってイノベーションを実現することができると考えている。」(小堀哲夫氏)

小堀哲夫氏プロフィール:
小堀 哲夫 こぼり てつお

1971年 岐阜生まれ
1997年 法政大学修士課程修了
株式会社久米設計を経て
2008年 小堀哲夫建築設計事務所設立

【主な作品と受賞】
SD Review, AIA Japan Design Award, Architectural Review Award
「IGA complex 」
建築学会賞作品賞 日本建築学会作品選奨 JIA日本建築大賞 BCS賞「ROGIC」
JIA日本建築大賞 Dedalo Minosse International Prize, 2019 Special Prize「NICCA innovation center」

小堀哲夫氏

下記の4つの実施物件を通じた設計プロセスの説明と、公募型プロポーザル当選案のコンセプトについて、その設計思想に基づいた詳しい説明を拝聴しました。

実施物件①:大和ハウスグループみらい価値共創センター

実施物件②:ROKI Global Innovation Center(ROGIC)

実施物件③:NICCAイノベーションセンター

実施物件④:梅光学院大学新校舎The Learning Station CROSSLIGHT

公募型プロポーザル当選案:東海国立大学機構(東山)プラットフォーム

特に、講演の冒頭の以下のお話しに共感しました。「所員が15人いるが、プロジェクト毎に担当者が分かれており、お互いに何をやっているのかが分からなかったが、所員全員が、すべてのプロジェクトに関わることで、違う物件からくるインスピレーションだったり、横断的な設計手法が構築できて、所員のモチベーション、スキルアップにつながった。」

シンポジウム登壇者 左より、山本想太郎、松永安光、小堀哲夫(敬称略)

今年の選考テーマ:「地球目線で考える受け継がれるものとは何か」

ゲスト選考委員が発案するのが恒例となっている選考テーマは、小堀哲夫氏により「地球目線で考える受け継がれるものとは何か」に決定されました。地球目線という長いスパンでとらえ、後世に受け継がれていくもの。それらのものは、これから私たちが目指す循環型社会の確立に寄与するものになることが期待されます。今年度の応募総数は約230点で、第1次選考会で27点に絞り込まれ、10月13日に実施された最終選考会において9点が受賞製品として決定されました。また今年はそれに「ゲスト選考委員賞」として小堀さんの推薦による2製品が加えられ、計11製品が今回の「みらいのたね賞」の受賞製品として選出されました。

選考委員各氏は「あらためて応募作品の内容をみると実に興味深い。新たな発見がいくつもあった」(松永さん)、「コロナ禍でどうなるかと思ったが、建築を下支えしてくれる堅実な技術がたくさん寄せられた」(山本さん)、「目からうろこが落ちるような思い。審査に参加して勉強になった」(小堀さん)と話されました。

<2021年度受賞製品のご紹介>

木繊維断熱材シュタイコ

株式会社イケダコーポレーション

(ホームページ)https://mokudannetsu.com/

夏の断熱に強い ドイツ製木繊維断熱材『STEICO(シュタイコ)』(イケダコーポレーションのブースで製品の説明を聞く)

地球温暖化が進む今、断熱性能は冬の寒さだけではなく、夏の暑さを防ぐ性能も必要となる。STEICO断熱工法は、熱容量が高く熱伝導率が非常に低いため、真夏の外気温を室内に通し難い性能も併せ持つ。優れた断熱性能で、真夏でも快適でひんやりと涼しい室内環境をつくることが可能である。木繊維断熱材シュタイコは針葉樹の端材が原料で、防蟻処理も含めて有害な化学物質は不使用。水や空気など環境に配慮した製造工程で管理され、梱包材に至るまで再利用可能な素材で作られている。

改質水と抗火石の木材乾燥技術 woodbe(ウッドビー)
フルタニランバー株式会社(公益社団法人石川県木材産業振興協会ブース内展示)

(ホームページ)https://www.woodbe.jp/

改質水と抗火石を使った日本初の木材乾燥システム「woodbe(ウッドビー)」炉内
フルタニランバー株式会社のブースにて説明を聞く関係者

「woodbe」は、既設乾燥炉に改質水製造装置と抗火石を加えた世界初の高速木材乾燥技術であり、天然乾燥期間を必要とせず、人工乾燥時間も短縮でき、木材の商品化サイクルを極限まで早めることを可能とした木材乾燥技術である。

サニスピードプラス

SFA Japan株式会社

(ホームページ)http://www.sfa-japan.jp/

サニスピードプラス商品外観

大掛かりな工事を行うことなく、手洗器・キッチンなどの水まわり設備を設置することが可能。住宅だけでなく、駅・空港などの公共施設や商業施設などにも多数採用。感染症対策の観点から建物・施設の入口付近に手洗器を増設したいという要望も増加している。短工期・省施工での手洗器増設が可能になり、日本の水まわりの常識が変わるような商品である。

授賞式にて松永安光選考委員から賞状を受け取るSFAJAPAN

「エフユニックス」浴室改修FRP防水・リニューアル工法 株式会社エフワンエヌ

(ホームページ)https://fonen.co.jp/business/

浴室改修FRP防水の工法であるが、UR都市機構「保全工事共通仕様書」にも採用され、最短一日で施工が可能であり、さらに、粉塵回収、火災予防に留意した安全性を担保できる工法である。単なるものではなく、システムとして高く評価された。

株式会社エフワンエヌのブース内で浴室リフォームの手順の説明を受ける

「火バリ」<木造準耐火構造(45分)―外壁用木板―>

岐阜県JAS製材品等供給・利用推進組合

(ホームページ)http://www.juntaika.jp/

準耐火建築物の外壁と採用された実施事例

岐阜県木連が、独自に開発した木造準耐火構造(45分)の外壁用木板で、木がゆっくり燃える長所を生かして、厚さ30ミリの木板と下地を組み合わせた「燃えしろ設計」で国交大臣の認定をとっている。不燃液など薬剤の含浸のない無垢の岐阜県産のヒノキやスギの板である。

「火バリ」<木造準耐火構造(45分)外壁用木板>ブースにて詳しい説明を聞く

スパイス・ザ・ラインボーン W1R-16

東洋テックス株式会社

(ホームページ)http://www.toyotex.co.jp/spice-the-linebone/

メーカーサイトより採用事例

業界初のデザインを採用したフローリングであり、森林の採光の風景をイメージした斬新な柄は、黄金比を採用しており、斜めと縦の交錯が美しい。従来のヘリンボーンと比較し、コスト面、施工性に優れた1×6サイズの仕様で、業界初、シートフローリングで柄に合わせた横溝を入れる技術も搭載。抗ウイルス・抗菌仕様(SIAAマーク取得)で、住まいの床を衛生的に保つことが可能。

ブース内にて、実施工されたスパイス・ザ・ラインボーンを見る

角型超スリムフード付換気口

バクマ工業株式会社

(ホームページ)https://www.bakuma.co.jp/

メーカーサイトより

壁からの出っ張りが23mmと超薄型のスリムフードで建物の美観を損なわないスマートなデザインで、水切り用のフィンが付いているため外壁への汚れがつきにくく、建物にやさしいデザインである。開口部が両サイドのため、下からの吹き上げに強く水止め付きで更に雨の浸入を低減する。コーキングポケット付のため止水性にも優れる。

ブース内で説明を聞く

Design Wood(デザインウッド)

中西木材株式会社(ふくい県産材販路拡大協議会ブース内)

(ホームページ)https://www.onuki-wood.com/

メーカーサイトより

日本人にとって、もっとも身近な木として親しまれている「杉」。ライフスタイルの変化にともない杉の利用は減り、日本の山は手入れが行き届かず荒廃が進んでいる。「日本の森を再考しなければ」という気持ちから、国産杉の新しい利用方法を考え、国産材活用の新しい一歩として、白いものから赤、黒まで、表情豊かな色を持つ杉を、その自然のやさしい色合いに着目し、杉の集成材を組み合わせた新感覚のインテリア木材「デザインウッド」が開発された。

福井県産材販路拡大協議会ブース内にて説明を受ける

可動式アメニティブースwithCUBE

株式会社LIXIL

(ホームページ)https://www.lixil.co.jp/lineup/toilet/s/withcube/

メーカーカタログより

トイレ空間をまるごとレンタル・リースでき、どこでも簡単に必要な数だけ設置できる、新発想のトイレユニットである。増設の難しかった場所にも最短で一日で設置可能。物流センター、工場施設などの労働人数の変化にも柔軟に対応が可能で、建築計画とトイレの関係性んも概念も変えていく可能性を秘めている。

展示ブースにて商品コンセプトを聞く

[ゲスト選考委員賞 受賞製品]

スマートルーバー スマートルーバー社

株式会社ニュースト

(ホームページ)https://www.newxt.co.jp/

メーカーサイトより

スマートルーバーはイギリスのスマートルーバー社の製品で巾約3㎜、厚さ1mm以下の銅でできたごく小さなルーバーを網戸のように編み上げた製品であり、太陽光は遮るが、室内からの視界は遮ることはなく、さらに、網戸のように風を通すことができる。視界を保ちながら遮熱・遮光し通風できる唯一の製品である。

みらいのたねブース内の展示スペースにてプレゼンテーション

[ゲスト選考委員賞 受賞製品]

エステックウッド

江間忠木材株式会社

(ホームページ)https://www.st-wood.jp

メーカーサイトより

宮城県が開発した窒素加圧加熱処理木材であり、窒素加圧加熱処理により一切薬剤を使用せずに防腐・防蟻性能を高め、木材保存材の性能基準であるJIS K 1571相当の性能を有する。どこを切断しても防腐性能が変わらないため施工性も高く、森林認証材や地域産材にも対応している。

表彰式にて

◆みらいのたね賞ツアー開催概要

開催日:2021年11月17日(水)15:45~ (30分~1時間)

11月18日(木)13:30~ (30分~1時間)

11月19日(金)11:00~ (30分~1時間)

みらいのたね賞ツアー(集合場所にてツアーの説明をする山本想太郎氏)

会場では、二日間にわたり各受賞製品ほかを見る「みらいのたね賞ツアー」が企画されました。

シンポジウム概要「胸を突かれるようなシステムが多くあった」

冒頭の松村秀一実行委員長の挨拶

◆2021年11月17日(水)のシンポジウムは、冒頭、JAPAN HOME & BUILDING SHOW実行委員長の東京大学大学院(特任教授)松村秀一氏より「みらいのたね賞の受賞製品も100件を超えて、非常にレベルの高い製品の応募をいただいている。」とご挨拶をいただいた。その後、みらいのたね賞選考委員長の松永安光氏より「みらいのたね賞」のこれまでの経緯を含め、今年度の受賞作品の紹介が行われたが、「これまでは製品としての評価が主だったが、今回はシステム(工法)として観点も含めて総合的に評価をした。胸を突かれるようなシステムが多くあった。」と好評された。

みらいのたね賞選考委員長挨拶(松永安光氏)

受賞者の表彰式が執り行われたあとには、経済産業省 製造産業局 生活製品課住宅産業室 課長補佐 高橋淳子氏より以下の応援コメントをいただいた。「高いデザイン性、機能性を有した製品が多く、木材利用促進法も改正され、公共建築だけから一般建築にも対象を広げたこともあり、木材を活用した製品が多くあったようである。新型コロナウイルス対策製品、そして、SDGSの観点から地球目線で長く受け継がれていく製品の開発を期待したい。日本の建築・住宅分野の益々の発展を祈念してご挨拶とする。」

ご来賓応援コメント(経済産業省高橋淳子課長補佐)

その後、選考委員3名によるトークセッションが行われ、今回受賞製品の選評を中心にトークが繰り広げられた。

おわりに

今年の開催は昨年度に続いてコロナ禍での開催となったが、開催時期が幸いに感染者数が減少していた時期でもあり、「みらいのたね賞ブースツアー」をはじめ、シンポジウムにも非常に多くの方のご参加をいただき、建材製品への関心の高さを改めて肌で感じることができました。建材製品の開発は、理論だけではなく、トライアルエラーを何度も繰り返し、非常に長い道のりの末に製品として世の中に出ていきます。しかし、製品としてのポテンシャルが高くても、世の中のニーズ・シーズに合わないと商品は普及せず、やがて廃盤となる運命を背負っています。現在の製品開発は、製造・使用・廃棄処分まで製品のライフサイクルを考えた長期的な視点が重要であり、SDGsに貢献する新商品の開発が大いに期待されます。

今年の受賞作品については、これらの視点から単なる最終製品としての価値だけでなく、製造工程も含めたシステム(工法)としての価値が評価されたことに、私自身も大いに刺激を受けました。私自身も自社の商品開発に関わっていますが、気候変動対策・海洋プラスチックごみ対策・防災減災・ユニバーサルデザインなどに配慮した、質の高い製品を世の中に提案したいと思います。

最後に、新型コロナウィルス感染症が一日も早く収束して、来年も、今年以上に活気のある展覧会となり、多くの方に「みらいのたね賞」にご応募していただくことを楽しみにしています。

執筆:HEAD研究会 建材部品TF 磯永聖次(タキロンシーアイ株式会社)

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一般社団法人HEAD研究会理事・新堀アトリエ一級建築士事務所主宰・一般社団法人住宅遺産トラスト理事