「マルシェがつなぐ街と人-川と街と人をつなぐ場をつくる」
- 【TF定例会レポート】HEAD研究会不動産マネジメントタスクフォース定例会
2023年8月3日、HEAD研究会不動産マネジメントタスクフォースの定例会「マルシェがつなぐ街と人」を開催。今年度第4回目となる今回は、隅田川を中心とした場づくりの実践を行う隅田川マルシェ実行委員長のイワタマサヨシ氏をゲストパネラーにお呼びし、トークセッションが行われた。この記事では、その定例会の様子をレポートとして振り返る。
【日時】2023年8月3日(木) 18:00–20:00
【会場】HEADスタジオ(東京都千代田区外神田6–15–16-4階)+オンライン
【ゲスト】イワタマサヨシ氏(隅田川マルシェ実行委員長)
【進行】倉内敬一氏(不動産マネジメントTF委員長)
(※TF=タスクフォース:テーマごとに継続して活動を進めるチーム。)
不動産マネジメントTF定例会とは?
不動産マネジメントタスクフォースでは、昨年度から新たなサブテーマ『地域の活性と福祉』を掲げ、年間7回の定例会を開催。定例会を通じて、地方の空き家をどう活用していくのか、地域の活性化にどう繋がるのか等、浮き彫りとなる福祉問題に着目し、知能共有を展開している。今年度からは、不動産業界以外の方も招くことで、さらに業種の壁を取り払った横議の場を設けている。
本定例会ゲストパネラー紹介/イワタマサヨシ氏
東京都江東区出身。隅田川マルシェ実行委員長 。「本と川と街」実行委員長 。NPO江東区の水辺に親しむ会理事。「つながる、つどう、つむぐ」をテーマに様々なソーシャルアートプロジェクトを実施。
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隅田川マルシェとは?
都内隅田川流域を中心に継続的に開催されているマルシェイベント。
開催場所は都内の江東区、台東区、墨田区など計12箇所と多岐に渡り、30〜50店舗が出店。普段人の少ない隅田川テラスでも、イベントの当日には多くの屋台とその場を訪れる人々によって賑わいをもたらしている。
今回は、この隅田川マルシェがどのようにして〈川と街と人がつながる〉産業の場づくりへと発展してきたのか、プロジェクトの経緯や取り組みについて”つながる場づくり”の実践を伺った。
テラスとしての水辺公共空間
隅田川テラスでは、ランニングや釣りを楽しんでいるものの、日中の利用者は少ないという。
電線が一本もなく、広大な景色を見せる水辺公共空間。
イワタ氏は〈東京の東側が川でつながっている〉ことを最大限に活用し、その魅力を更に引き出すべく”地域住民がつながる場”を創出するプロジェクトに取り掛かった。
マルシェによる点と線と面プロジェクト
掲げているコンセプトは、”人とつながり、場とつながり、輪をつくる”。
隅田川マルシェを通じて様々な場のきっかけがもたらされているという。今回は事例とともに以下の”場の創出”が紹介された。
1- 商品を通してのコミュニケーション
2- 地域とつながるはじめの一歩
1年ごとにスタッフを入れ替え、新しく参加した人も輝ける体制とすることで、自分の都合や状況に合わせて臨機応変に参加することが可能。
普段地域と関わりがない地域住民も関われるきっかけとなるシステムとしている。
3- 居心地の良さの拡張
水辺の快適さや景観の拡張を試み、”つながりを生むデザイン”の工夫で居心地の良い場を創出。(※後述に記載。)
繋がりを生むデザイン
[手法その1]オリジナルのテント
狭い遊歩道に調和させたオリジナルテントを作成。
”少人数でコミュニケーションのとりやすい”単位のテントデザインとすることで、初対面でも、安心して会話が生まれ、”商品を通してのコミュニケーション”が生まれやすい場を創出している。
テントデザインの詳細な寸法については、こちらのリンクよりご参照ください。
テントの背後はターポリンとすることで、ポスターを貼るスペースとなることに加え、雨の凌ぎにもなるデザインだ。限られた小さなテントスペースの中で、有効活用を図り、スタンドを出展者皆で組み立て、出展者同士の新たなコラボレーションの生まれる場となっている。
[手法その2]手摺にデザインを加える
隅田川の景観を堪能できるような手摺にテーブルを引っ掛けられるデザインを加えることで、水辺に人々の”場”を創出。
[手法その3]子どもたちの思い出の品が商品に
地域の子どもたちが発案した、思い出の品を売る“オモイデコウカンジョ”。商品の品は袋によって中身がわからないデザイン仕様としたことで、中身についてお客さんと子どもたちの間で会話が生まれている。
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マルシェ以外にもイベントを定期的に開催しているイワタ氏。そこでも繋がりを生むデザインを考案し、マルシェイベントの参考に至る経験となっている。
[手法その4]芝と長さ30mのローテーブル
絨毯のような芝を設けることで靴を脱いで芝生にあがり、座って飲食をする。自作のローテーブルを配することで、更に人が溜まれる場となり、折りたたみ式としたこのデザインは組み立てに時間を要さない。
[手法その5]“静か”や”暗い”も楽しむ
都内の水辺空間は住宅街の中央に位置しているものが多数であり、水辺を利用したプロジェクトは、地域住民に気をつかう側面もあるという。
マルシェ開催時には、なるべく音楽の音量や大きな声を控える工夫も行なうべく、音がない豊かさに皆が気がつける場づくりを図っている。
また、明るいことが当たり前となっている現在、発電機を使わないモバイルバッテリーによる灯かりのみ設置し、やわらかい光であえて暗い場所をつくることで、都内でも暗さを堪能できる空間としている。
輪をつくること
マルシェ開催にあたって、空間の特性を生かした人がつながる場のデザイン、組み立て設置や掃除の準備段階における人とのつながるデザインなど、その場に即した小さな輪をつくる取り組みは、やがて大きな輪となっている。来客者や出展者の交流から始まり、数人の連続が多くの人を自然と巻き込み、繋げているのだ。
”小さな輪”をたくさんつくるべく、イワタ氏は書き初め大会や水あそび、街歩きスタンプラリーなど、子どもたちと大人が一緒に楽しめる小さなイベントを定期的に開催。主催側も想定していないような参加者同士の交流が次々と生まれ、つながりの輪は拡大しているという。
コロナ禍では、人々は繋がりを求め、一緒にやろうという地域の想いが集まったきっかけでもあったという。
皆で一丸となって共創することが輪をつくるスタートアップとなり、継続して開催することが、現状の地域の輪、今後の輪づくりの基部となっているのだ。
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後記
本記事では、不動産マネジメントTFの定例会をレポートとして執筆いたしました。
隅田川流域で場づくりの実践を行うイワタマサヨシ氏のお話を伺えた機会は、地域住民を巻き込んだリアルな現場に刺激を受けつつ、またHEAD研究会として目指す”場の産業”に適した大変貴重な会でした。
思い返すと私自身も、地方から江東区に移住してからは隅田川流域を走りに行ったり、川沿いのテラスに長時間座ってみたり、無意識に川辺にやすらぎを求めていることが多かったように思います。イワタさんのお話を伺って、住宅やビルで密になっている街に時折窮屈さを感じてしまうことがあったとしても、人々に静穏さを提供してくれる自然が存在していることに気がつきました。
川辺を活用するこのプロジェクトは、様々な工夫により人々に気づきを与え、交流の輪を広げるきっかけを与えてくれます。子どもたちが発案して出店したという、”オモイデコウカンジョ”は、中にどんなものが入っているのか、自分が選ばなかったかもしれないものに出会える心が弾む仕掛けで、とても魅力的でした。
本定例会を通じ、HEAD研究会として”ひらかれた場づくり”を構想するにあたり、継続的な開催や小さな輪をつくるための思考の積み重ねの重要性が再確認できたのではないでしょうか。
(執筆:小山更菜/芝浦工業大学M2)