リノベーションまちづくりサミット2019!(II)

<駐車場に人は集まらない―新しい「空き」の見立て>

Saki Uchida
HEAD Journal
8 min readJan 14, 2020

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日時:2019年5月19日(日)13:00~

場所:Nagatacho GRID

URL: https://re-re-re-renovation.jp/schools/renovasummit2019

第二部「リノベーションまちづくりの今」の後半、③道路×駐車場と④公園×道路についてのレクチャーが行われ、最終部となる第三部にて「リノベーションまちづくりの未来」が議論された。

本記事では③道路×駐車場について紹介する。

第二部「リノベーションまちづくりの今」③道路×駐車場

登壇者:
西村 浩(株式会社ワークヴィジョンズ代表取締役)
山田 大輔( 神戸市都市局計画部都市計画課課長)
山田 高広(株式会社三河家守舎代表取締役)
モデレーター:
河野 慎平(株式会社リノベリングマネージャー)

「まち」という霜降り肉の霜をもっと美味しく

道路と駐車場。建築とは少し遠い存在のこれらを、西村氏は「霜降り肉の霜」と形容した。一見地味だが、ここが美味しければ美味しいほど全体の魅力が増す、と氏は強調する。

「これに取り組めば、まちは本当に変わると思います」

講演:西村 浩氏(写真左端から2番目)

コンパクトシティへの過程としてのスポンジ化時期

戦後以降の日本では増加する人口に対応するために、郊外の開拓を進めてきた。それは無秩序な市街地拡大によるスプロール現象を招くことになり、これを防ぐために都市計画法(1968)が制定された。用途地域を設けることで用地の混在を防ぎ、中心市街地に開発需要を呼び戻そうとするものである。空洞化した中心市街地を再び活気あるものとするために様々な規制緩和がなされ、民間主導の開発が進められた。
一方で、増加の一途を辿っていた人口は高度経済成長期には安定し、その後は出生率が減少し続け、現在では少子高齢化が人口を膾炙している。このような状況下で、国はコンパクトまちづくりと地域交通を軸とした「立地適正化計画」を推進している。

しかし、西村氏によるとコンパクトシティの実現は程遠いようだ。

「用途地域に基づいた都市計画法は、現在 — — つまり、広がった都市の中で不規則に人口が減少するスポンジ化状態になっているとき — — には少し考え直さなくてはならない。ここで国が取り組んできたのがコンパクトシティです。しかしコンパクトシティといっても、昔のように町なかにコンパクトにキュッと住むことはなかなか出来ないはずです。
僕はいつも言うのですが、コンパクトシティの実現までには300年くらいかかります。ということは、今後300年のためにスポンジ化をどう楽しむのか、『空き』をどう見立ててどう暮らすかを考えていくことが重要だと思っています」

駐車場だらけのまち 、3つの課題

西村氏は続けて駐車場だらけのまちの課題を指摘する。

拡大する市街化区域(佐賀市HP:https://www.city.saga.lg.jp/より引用)

「日本の大抵のまちなかは駐車場だらけです。しかもそれぞれの駐車場の所有者が違うので一つ一つが小さく効率が悪い。
駐車場だらけのまちの課題は3つあります。
①駐車場は目的地ではないこと。駐車場を増やしてもエリアの価値は上がらない。
②魅力のないエリアの駐車場は稼げないこと。空き家や空き地が増加し、日本では建築の床やオープンスペースが超供給過多状態にあるためユーザーは選び放題です。そのため、ただなんとなく駐車場や建物を建てても選ばれません。
③子供や子育て世代がいないこと。土地を相続するときに、全然稼げない土地だと貰い手が見つからず所有者不明土地が増えます。そのようなまちはだいたい駐車場だらけで、子どもには危険ですから子育て世代は寄り付きません」

では、この問題にどうやって取り組むべきか。

直感に基づく社会実験:「空き地」から「緑」へ

「僕がまちづくりをやってきた佐賀では、この駐車場だらけの中心市街地の真ん中を緑に変えました。直感的に『緑に変わったら絶対良くなる』と考えたものを10年間やってきました。その中で『わいわいコンテナ』という社会実験を、空き地が増えれば町が賑わうのではないかという仮説のもとに行ってきました。

わいわいコンテナ公式HP( http://www.waiwai-saga.jp/より引用)

この中で僕らは10年間いろんな点を打ってきて、それによってまちの風景が変わってきました。その中の一部で、駐車場と公共空間の一体運営で地域課題を解決するコモンズ協定に取り組んでいます。虫食い状態になって連坦している民間の駐車場をひとつの駐車場としてシェアするとコンパクトに車を収納できます。出入口を一カ所に集約し、残りの3面については広場や店舗として活用することで、駐車場の効率を上げつつ車が通らなくても安心して歩ける道に変われるのではないか、という前提のもとに行っています」

コモンズ協定:住民の当事者意識を高めるための装置

コモンズ協定とは、立地誘導促進施設協定(都市再生法)の通称で、「地域コミュニティやまちづくり団体が共同で整備・管理する空間・施設(コモンズ)についての、地権者合意による協定制度」( 国土交通省HP:http://www.mlit.go.jp/より引用)である。
コモンズ協定の策定に携わった山田大輔氏(以下山田(大)氏)は、現在の駐車場政策は転換期にあるという。

山田大輔氏

「元々街路は都市の骨格や人々のためのまちなか空間として捉えられていました。しかし車産業の台頭によって道路交通の円滑化が進められ、本来の街路としての性格は失われてしまいました。
駐車場が人と自動車との結節点として都市における重要な装置であることに変わりはありません。だからこそ、駐車場配置の適正化や、まちなかや街路空間の魅力づくりが重要になります」

行政がサポートしながら公共意識を育む

コモンズ協定活用例( 国土交通省HP http://www.mlit.go.jp/より引用)

「私は『利用権の集約・交換・再編(低未利用土地権利設定等促進計画)』と『コモンズ協定』という2つの実行制度の策定に関わったのですが、コモンズ協定には
・地域コミュニティによる当事者意識の誘導
・協定範囲や最低人数の要件を設けない実行へのハードルの低さ
・地域・民間主導としつつ行政が後ろからサポートする仕組み
という3つの思いを込めました。

ただ、制度をつくっただけでは問題は解決しません。
実際の現場で制度がどう使われるか、どのような障壁があるかを見ていく必要があります」

「自分ごと」として取り組むまちづくり

西村氏の「直感によるまちづくり」、山田(大)氏のコモンズ協定に込めた「住民の公共意識を高めるまちづくり」への思い。
これらと軌を一にするまちづくりは、愛知県でも行われている。
その中核を担うのが、株式会社三河家守舎の代表取締役を務める山田高広氏だ。

山田高広氏

蒲郡市での「森、道、市場」や岡崎市での「乙川プロジェクト」など、さまざまなまちづくりに取り組んでいる山田(高)氏は、良いまちの特徴は「クリエイティブなコンテンツ体験の集積」にあるという。

「そこに住んでいる人たちが、自分のまちに対して自覚的であるまちは良いまちだと思います。納得感や安心感がある。
『森、道、市場』では僕たち家守が場をコントロールし、出店者の方々がコンテンツ体験を提供する。お客さんはこの価値に納得して対価を払って来てくれます。
そこに住んでいる人々が、自身の税金が何に使われているのかわからない状況では、納得感や安心感が得られずただなんとなく住んでいる状態になってしまいます。そういうまちでは人は離れやすい。」

「岡崎市では、連尺通りと呼ばれる道路の1画で社会実験をしました。
『歩道が広いほうがまちにとって良い』という仮説を立て、それを実証するために『道路を縮小する』作戦を立て、1ヶ月という期間を設けて実行する、という生活社会実験です。
具体的には、歩道において道路側0.5mと建物側1.0mの範囲をはみ出さなければ好きに使ってよい、という明確なルールを設けました。
社会実験をする際には、まず具体的な結果を出すようにすること、そしてその結果を当事者が実感出来るようにすることが大切だと思います」

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