AROUND ARCHITECTURE COFFEE

【建築訪問記 vol.001】可変性のある場所

~コーヒースタンド「AROUND ARCHITECTURE COFFEE」~

Published in
Mar 3, 2024

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有楽町線地下鉄下赤塚駅から徒歩7分、東武東上線下赤塚駅からと徒歩8分の閑静な住宅街にコーヒースタンド「AROUND ARCHITECTURE COFFEE」はオープンしている。

南側を旧川越街道、西側を私道に囲まれた10坪ほどの超狭小住宅の1階にお店を構えている。この住宅の持ち主は、建築と人をつなぐ株式会社AROUND ARCHITECTURE 代表の佐竹雄太さん。狭い土地にどのようにして広さを感じ、楽しく暮らしているのか、このコーヒースタンドを訪ね、佐竹さんにインタビューしてみえてきたものがあった。この記事では、佐竹さんのこの住宅への思いやコンセプト、発想について紐解いていきたいと思う。

住所:東京都練馬区北町3–21–4
Instagram: https://www.instagram.com/around_architecture_coffee/?hl=en
株式会社AROUND ARCHITECTURE URL:https://arar.co.jp/

オーナー佐竹さんが考える家のありかたとは?

佐竹邸を西側から見た時の様子

「従来の家は、形を作り固定しまっている。」そう語るのは、この家の持ち主である佐竹さんだ。コロナの流行や多様な居住スタイルが増えてきた現代において、形を作って固定してしまう家に不自由を感じてしまう人も多いのではないだろうか。佐竹さんは、この自邸を建てるにあたり、「“自分たちが住まなくなった時にすぐに次の人に繋げる家”を発想の中に入れている」とおっしゃっていた。つまり、使い手を問わない、作り込みすぎない自由度のある家を目指した家づくりだ。そのような家にするために、工夫した点について伺った。佐竹さんは、「最も意識していることは、家のフレームを最大化することである。」と語る。家のフレームの最大化とは、構造や窓枠などの次の人が新たに使う際にリフォームしたとしても変える部分が少ないことをいう。一方で、次に使う人に左右されやすい内装部分は、既製品を使用することで、コストを抑えている。これにより、次の人につなげるための制約を少しでも減らし、可能性を広げている。内装部分は建築家で行えば行うほど、こだわりを持ってしまい、お金をかけてしまう。しかし、次に使う人がそれらを気に入らなかった場合、全替えになってしまう。“こだわり”が次につなげることの制約になってしまう場合もあるのだ。一方で、フレームをこだわることで、全体的に、決して安物と見えるわけでない。この“バランス”こそ重要であると佐竹さんは考えている。

佐竹さんの考える“バランス”とは?

掘り込むことで、周りをベンチのように使用している

家をつくる時に空間的なバランスは考えることは、とても重要なことである。しかし、「その家が将来的に価値を持つこと、つまりどこにお金を投じるのかというコスト面での“バランス”もとても大切なことである。」と佐竹さんは語る。例えば、不動産面で見た時、家の将来的価値基準は、少し変わってくる。空間的価値は、人の感じ方、つまり感覚に左右されやすいが、不動産面での価値は、客観的に判断できる数字で決まる。例えば、延べ床面積である。建物の延べ床面積が、70平米を超えるか超えないかでは、不動産市場での価値に大きく影響する。そのため、佐竹さんはこの家を作る際に、延床面積が70平米を超えるようにと、この家を設計した建築家の工藤浩平さんに依頼している。70平米を超えたことで、この家の将来的価値が不動産市場面からみた際に大幅に向上している。また、この家は超狭小住宅と呼ばれ、10坪(35平米)しかない小さな土地に建っている。その土地で、70平米を超すための工夫が随所に見られる。例えば、店舗兼展示場所として使用されている1階部分は、一部が掘り下げてあり、斜線制限で規制されている中で、70平米を超すために高さをなるべくとるための工夫である。少し、掘り下げることにより、6メートルの斜線制限に対して、3階分を納めることが出来ている。また、写真の掘り込みもコストをかけすぎず、人が窮屈に感じない“バランス”のある設計が行われている。掘り込んだことにより、躯体部分が露出し、そこをベンチのように使用することで、天井高が低く感じないようにしている。佐竹さんは、建築と不動産の考え方の両方を“バランス”よく組み合わせて空間づくりを行っている。

自由度の高い内装

今回訪問した際に行われていたイベントの様子

狭小な建物だが、内装の自由度が高まるよう最大化したフレームにも工夫が施されている。その一つが、天井や柱に使われている素材である。天井は鋼板で、柱は鉄骨で造られている。これにより、いたるところでマグネットの活用ができる。通常、絵を展示するなどの目的がある場合、穴をあけたり、ピクチャーレールを設置する必要がある。しかし、ピクチャーレールや壁等に穴をあけてしまうと、展示できるものや利用用途が限定されてしまい、使用空間が固定化されてしまう。一方で、マグネットを活用することで、どの位置でも展示が可能であること、あるいは別の用途として使用することができるようになる。それにより、空間に可変性が生まれる。この自由度の高さは次の人が居住目的でも商業目的でも空間の用途変更が容易に行える。使う人によってそこの場の雰囲気が一変するのも魅力の一つである。また、「自ら使い方を模索することにより、次の人が使う際の参考になるとともに、この家の魅力である可変性について再考する機会にもなる」と佐竹さんは語っていた。

この家について佐竹さんは、「個人の生活に合わせるという意味合いで、合わせ過ぎない、作り込みすぎない可変性のある自由度の高さを実践している家である。」と語る。

後記
本記事では、株式会社AROUND ARCHITECTURE代表の佐竹雄太氏への取材とAROUND ARCHITECTURE COFFEEの訪問時の様子について執筆しました。今回私は取材を通して、佐竹さんの考える今後の住居としての建築の在り方について深く知ることが出来ました。

今まで、住居とは「一生住み続けるもの」とされていましたが、暮らし方に柔軟性や多様性が生まれた今、その考え方も柔軟に変化していく必要があります。住宅に柔軟性や自由度が生まれることは、そこに住む人の幅を広げることにつながるのではないかと考えます。また空間に自由度や柔軟性があることにより、使う人によって空間の印象も多様になるのではないでしょうか。これにより、住宅そのものの印象も変化し、使う人や頻度によって新たな顔を見せる建築になるのではないかと思います。今まで私は、建築に対して“作り込みすぎない”という言葉はネガティブな意味を持つと感じていましたが、今回の取材でとてもポジティブで可能性のある意味を持つこともできるのだと感じました。

取材・執筆:山本紗葵(芝浦工業大学 B4)

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