【私の建築談義】-004 建築家 宮崎晃吉さん(HEAD研究会リノベーションTF委員長)

大徳寺高桐院・ヒラルディ邸

TANII Miyu
HEAD Journal
May 19, 2022

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シリーズ『私の建築談義』はその人のルーツやターニングポイントとなった建築を語っていただくことで、その方の独自の目線や考え方を読者の皆様に発信するという企画です。この企画を通して、HEAD研究会やそのメンバーの活動に対してさらに興味を持っていただきたいと考えています。(HEADジャーナル編集部)

宮崎晃吉さん

宮崎晃吉(みやざき みつよし) 1982年群馬県前橋市生まれ。 2008年東京藝術大学大学院修士課程修了後、磯崎新アトリエ勤務。 2011年より独立し建築設計やプロデュースを行うかたわら、2013年より、自社事業として東京・谷中を中心エリアとした築古のアパートや住宅をリノベーションした飲食、宿泊事業を設計および運営している。 hanareで2018年グッドデザイン賞金賞受賞/ファイナリスト選出など。

取材日時:2022年3月2日10:00~

場所:zoom

第4回目のゲストは宮崎晃吉さんです。ご自身の会社であるHAGISTUDIOでは建築設計に留まらず、東京都谷中を拠点とし企画設計運営を一環として行う店舗を現在では7か所運営しておられます。HEAD研究会ではリノベーションTFの代表をされています。

「建築は物理的に何かを制約する以上に文化的な背景を背負っている」大徳寺高桐院

大徳寺高桐院アプローチ(イラスト作成:ジャーナル編集部)

Q1:大徳寺高桐院について

大徳寺は京都にある禅宗のお寺です。小さな書院がたくさん集まって構成されています。その中の一つが高桐院です。

私は東京藝術大学を目指して美術予備校に通い浪人をしていたのですが、その時お金はありませんでしたが夏に京都旅行に行きました。様々なものを見てとても刺激を受けたのですが、一番心に残っているのが大徳寺高桐院なんです。

アプローチが凄いんです。入り口は割とこじんまりとしているのですが、ここを入っていって一度左に曲がると門があります。この門に入ったとしてもまだ中はわからなくて、また右に曲がると、いきなりすごく長いアプローチに入ります。両脇が垂直性の高い竹林で、人一人通れてすれ違う時は肩がぶつかっちゃうために配慮しなければいけないくらい細い道がすっと伸びていて、それで入り口に入っていくんです。このアプローチですでに感動するのですが、さらに座敷に上がると庭が見えてその庭がめちゃくちゃ美しいんです。そこは逆に水平性が高い庭で、秋は紅葉、夏は苔むしていて、冬は雪が綺麗です。その庭を建物がフレーミングしているんです。建築だけでは何も語れない、ランドスケープと一体になった建築空間です。

あとはやはりシークエンスです。長い通路の経験からくるアプローチの期待感と最後に庭に面した時と、一連の時間が建築体験に影響していますよね。そこの完成度がすごく高いんです。

Q2:大徳寺高桐院で得たものはありますか。

寺社建築にいくと学ぶことはとても多いです。例えば茶室にいく時の飛石は、一歩づつ気をつけて歩かなければいけなかったり、目線を下に向け集中力を下に持っていかなければいけなかったり、人の行動をすごく制約しますよね。その上でたどり着いた先に何が見えるか。これ自体がそういう体験の集中力を操作していて、体験にメリハリをきかせるんです。加えて人一人しか通れない道であったら、譲り合わなければいけなくてコミュニケーションも生まれるじゃないですか。

他にも石に紐を十字にゆわえつけて石段に置いていたりする関守石だと、これは立ち入り禁止のサインなんですが知らない人にとってはこれはただの石ころですよね。でも知ってる人にとっては実際に壁があるよりも強い意味を持つことになるんです。つまり建築は物理的に何かを制約する以上に文化的な背景を背負っていると思います。共通の文化的な背景を共有していると、初めて意味を持ってくることがたくさんあると思うんです。そこに対して私はすごく面白いと思っています。だから建築やランドスケープを作る時、物っていう以上に意味を持たせ奥深さをもたらしたいです。

現代建築に行くよりもお寺さんに行く方が多いかもしれないですね。

「人の利便だけじゃない空間の豊かさというものは確実にあるんだ」ルイス・バラガン / ヒラルディ邸(1948年)

Q3:ヒラルディ邸について

大学時代父の出張について行ったことをきっかけにメキシコに1週間ほど滞在した時に見にいきました。僕は現代建築をあまり見れている方ではないと思うんですが、僕が見た現代建築で一番感動したのはこのヒラルディ邸でした。高桐院と共通しているのは、ここもアプローチがすごいんです。

ヒラルディ邸アプローチ(イラスト作成:ジャーナル編集部)

ここも長くて細い通路を通って行った先のダイニングがとても衝撃的でした。空間の半分がプールなんです。僕はこのプールを床の間というふうに解釈しました。要するにこのプールも人間のための空間ではないと思うんです。人のためではない空間が全体の半分を占めていることが当時は衝撃的でした。僕はこれが空間の贅沢さだと感じたし、豊かだと思いました。また、プールの反対側をみると中庭があります。この中庭にはメキシコを象徴する木であるジャカランタが植えられています。この中庭もメキシコらしくて僕はとても気に入っています。

単に人の利便だけじゃない空間の豊かさというものは確実にあるんだということを学びました。またこの建築にもシークエンスはあると思います。表の閉鎖性から、玄関の中への期待を深める黄色い長い通路からのプールがあるダイニングと庭。時間軸の中での体験が、初めて来た人にもまた、住んでいる人にもあると思います。

ヒラルディ邸ダイニング(イラスト作成:ジャーナル編集部)

ご自身の作品について

Q4:ご自身の作品でもシークエンスを意識されていますか?

一つは建築だけでなくて、都市的なスケールでも奥行きみたいなところは今回紹介した作品とも通ずるところがあるんじゃないかと思いました。僕は体験の奥行きがあるまちってすごく豊かだと思っています。全部が一目瞭然に広がっているまちもあるけれど、ちょっとした路地から入っていけたり、その路地からさらに奥まって入っていけたりとか、ちゃんと建築がそれを受け継いでいたりするまちが好きだし大事だと思っています。

例をあげると「TAYORI」というお惣菜屋さんがあります。ここは元々、道に面して玄関があり建物の脇に細い個人の庭がある建物でした。僕たちはあえてこの庭からアプローチするように改修しました。不特定多数の人を対象としている飲食店にとっては入りにくさというものは普通は致命的だと思います。だけど僕たちはあえて入りにくさというものを積極的にとりいれています。入りにくさというものは、常連のお客さんにとっては逆に居心地の良さに変わるし、あえて親密さみたいなものを呼んでいると思います。

TAYORI/庭からのアプローチ写真 (byhyo)

最近でいうと、「asatte」という場所ができました。

ここも全面道路が細くて、普通お店を作る場所ではないと思うんです。でも、あえてここに来てくれる人や近所の人が来てくれることを狙うことで人々の親密さをつくっています。またこういう場所がまちに対して奥行きをつくるのだと思っています。

asatte/アクソメ図(村越勇人(HAGI STUDIO))

飛び石を超えていくと奥には開けた縁側があります。ここではPOP UPなどを行える小屋もあります。

asatte/飛び石のアプローチ写真 (提供:宮崎晃吉さん)
asatte/縁側の写真 (提供:宮崎晃吉さん)

都市の奥行きをどうやって建築がバトンをつないでいけるかということが大事だと思っています。

また、路地空間は都市構造の末端ではあるんだけれども、あえて末端が良い場所になることで路地空間という都市構造が逆に肯定されていくという循環もあると思います。都市自体の評価にも繋がっていくと思うんです。

だから都市の性質をうまく引き継ぐ場所を作ることが大事だと思うんです。

建築を見るうえで大切にしてほしいことー

Q5:学生の私たちに建築を見る上で大切なことを教えてください。

僕は建築空間を見た時、背景や仕組みが気になります。どういう座組みで運営されているのか、どういう仕組みでお金が回っているのか、どうやって実現しているのだろうと。建築空間の雰囲気を作っているのはデザインの問題だけではなくて、そこも関わってると思います。

そのためにはまず、お客さんとしてその空間を純粋に楽しむことです。需要する側の楽しみを体験してください。一方で、提供する側の目線も意識してください。空間でのサービスとか、もちろん建築も。一つの空間をいろんな立場の目線で見ることで価値が変わってくると思います。専門性の垣根を超えてあらゆるものを総合的に見ることが大切だと思います。

お話を伺って- HEADジャーナル編集部

今回のインタビューで、建築が物理的に何かを制約することだけでなく、文化的な背景を背負うことで生み出される空間の豊かさがあるというお話に感銘を受けました。また、今回のお話を通して宮崎さんの働き方についても、建築の設計から運営までを一貫して行うことでまちに対して宮崎さん自身が新しい文化を谷中につくっているのではないかと感じました。

取材・文責:上野山波粋、谷井美優

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