【私の建築談義】-003 建築家 竹内昌義さん(HEAD研究会エネルギーTF委員長)

ヨーロッパ体験から環境建築への意識へ

TANII Miyu
HEAD Journal
May 19, 2022

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シリーズ『私の建築談義』はその人のルーツやターニングポイントとなった建築を語っていただくことで、その方の独自の目線や考え方を読者の皆様に発信するという企画です。この企画を通して、HEAD研究会やそのメンバーの活動に対してさらに興味を持っていただきたいと考えています。(HEADジャーナル編集部)

竹内昌義さん

竹内昌義 :1962 年神奈川県生まれ。建築家。 東北芸術工科大学デザイン工学部建築・環境デザイン学科 教授 『みかんぐみ』共同代表 1985 年東京工業大学工学部建築学科卒業。 1988 年 同 大学院理工学専攻科建築学専攻修士課程修了。 2001年〜 東北芸術工科大学デザイン工学部建築・環境デザイン学科助教授。 専門は建築デザインとエネルギー。 2008年〜同教授。 著書:『未来の住宅/カーボンニュートラルハウスの教科書』『原発と建築家』『図解 エコハウス』 設計作品:<山形エコハウス HOUSE_M><最上の老人ホーム>

取材日時:2021年2月16日10:00~

場所:zoom

第三回目のゲストは竹内昌義(たけうちまさよし)さんです。ワークステーション一級建築事務所で2年半勤務されたのち、1995年にみかんぐみを設立されました。また、2001年から東北芸術工科大学で教授として勤務されています。HEAD研究会ではエネルギーTFの代表をされています。

「自分の感覚が明確になった」パリ留学

Q1:どのような経緯で留学に行かれたのですか

東京工業大学で坂本一成研究室に所属していました。奥山アトリエの奥山信一さんが一個上の先輩、アトリエ・ワンの塚本由晴さんが一個下の後輩にあたります。その時一年間フランスに留学しました。

1980年、ちょうどパリは革命200年を記念したグランプロジェクトという、今では当たり前になっていますが、ルーヴル美術館のガラスピラミッドやオペラ・バスティーユを建設している真っ最中でした。日本人が結構活躍していて、1970年ごろにポンピドゥーセンターをつくるということでレンゾ・ピアノのところにいったりしているんです。例えばガラスピラミッドを統括していたのは日本人なんです。それで現場を見せてもらったりしていました。他にも、関西国際空港でレンゾ・ピアノとの共同設計をしている岡部憲明さんもパリにいらっしゃいました。

Q2:留学経験で影響を受けたことはなんですか

建築家はすごく良い仕事でカバン一つで世界中どこでも仕事できるという話です。

その時そこでアルバイトさせてもらえればそのままパリにいられるかなと甘い考えがあったのですが、そんなことしないで世界を見なさいと、色々見て感じることが大切なんだよと岡部さんにいわれました。なんだアルバイトできないのかと思いながら、一生懸命いろんなところを見に行きました。

その当時考えていたことがあって、良いものってどういうものなのだろうということです。良いと言われているものを真似することはできるけど、自分が良いものを作れる立場になれないなと。良いってなんですかと聞かれた時は自分がわからないから説明する側にも回れないということです。ただいろいろなものを見に行く中で、自分の中で良いと悪いがはっきり定まってきました。良いと言われているものを見に行ったら意外と良くないなと思ったり。この良いと感じる感覚があれば、それを作っていけば建築できるなと思えました。最初は大手の設計事務所やゼネコンに入ろうと考えていたのですが、大きな会社ではなく自分達の良いをどう考えられるかをやりたいと思いました。

いろんなことに興味を持って旅行するというのはやっぱり大事ですよね。コロナ禍でそれができないのは、僕ら以上に若い人たちにとって残念だと感じます。いくら良い建築と雑誌に書いてあっても、伝わらない。やっぱり建築ってその場に身を置いて感じることができるかどうかがすごく大事だと思うんです。

あとは、さまざまな海外の方と交流する中で君は誰なんだと問われることが多くありました。日本だと所属している組織のことを言えば何となくわかってくれるけど、そういったことが全くないんです。まずは自分のことを伝えなければいけなかったので、そのおかげもあって自分の考え方が明確になりました。

環境的な建築への意識のきっかけ

Q3:パリの他に影響を受けた訪問先はありますか

しばらくそういったことはできなかったのですが、東北芸工大に入ってから7年目にヨーロッパへ環境的な建物を見に行きました。フランスの研究所で方位に応じてどう変化するか実験している住宅を見学したり、ドイツのパッシブハウスというエコハウスの代表的なもので外装は檜皮葺かつLVLとか木造パネルで作られていて結構格好良い上に、エネルギーのかからないという話を聞いたりしました。そのほかに断熱改修をしている民家を見せていただいたり、隣の改修済みの高断熱アパートを見せてもらいました。その他にもショールームや配送センターまでたくさん見学しました。

見に行ったことで自分で考えたのはどう応用できるかということです。そのアウトプットが山形エコハウスです。

ドイツのパッシブハウス外観(撮影:竹内昌義さん)
ドイツのパッシブハウス内観(撮影:竹内昌義さん)

「自分の可能性の中だけでなく、違うことをやってみると意外と道は開けるんだ」竹内昌義 山形エコハウス(2010年)

Q4:山形エコハウスについて

2008年頃に東北芸工大の学科長になった頃に、学科のブランディングをすることになりました。その時に東京の大学と同じことをしていてはダメだという意識はすごくあったんです。そこで、エコハウスやヨーロッパの建築のことを山形なら応用できると思いました。それがきっかけで山形エコハウスをつくることになりました。

この建築は断熱性能に優れていて、屋根に40センチ、壁に30センチグラスウールが入っています。図面をかいている時は、断熱が厚すぎるのではないか、本当にこんなものができるのかと思うくらいでしたが、建ってみたらとても快適な家ができました。小さなストーブ1台だけで建物全体を温めることができます。東日本大震災の時、山形でも停電が起こりました。3月の山形はマイナス5度くらいが平均気温なのですが、家の中は18度をキープすることができました。3月の日差しは意外とあたたかく、また断熱性能があるから外に熱が出て行かない。電気が止まってしまった時にそれが実証されて、すごい建物なんだということを実感しました。

外観(提供:東北芸術工科大学)

つくってみて自分ですごいなと思えるものってなかなかないので、つくった当時はこれが自分のライフワークとなるような建築だとは思ってもいなかったんです。

例えばこの庇を出すと良い効果が出るということは自分の頭ではわかっていました。学部2年生くらいでも学びますよね。でもデザインをするということを考えると今までのやり方でやろうとする自分の体はそうは動きませんでした。そこで何度も自分の考えを行き来しながら今までの自分のやり方ではないことをやってみたんです。

新しいことってやるのが怖いなと思います。挑戦してみたら失敗することもあります。でも、挑戦してみたら面白い。その挑戦も意外なきっかけで生まれてきます。自分の可能性の中だけでなく、違うことをやってみると意外と道は開けるんだということを山形エコハウスを通して感じました。

断面図(提供:竹内昌義さん)

Q5:山形エコハウスをご自身で評価してみて感じたことはありますか?

温度がこんなに安定することや、それが自給できていることに可能性を感じます。エネルギー問題について東日本大震災の後に日本全体として課題になったと思います。極端な話ではありますが、この家があれば原発なんかいらないんじゃないかと思わせてくれるような可能性があると感じました。今後のエネルギー問題にも住宅が絡んでいけると思えるきっかけにもなりました。色々考えた時に可能性はとても大きいなと思いました。

もう一つ山形エコタウンというプロジェクトがあります。これはPPAという事業の仕組みで20軒の住戸にそれぞれ太陽光パネルがつけられています。このプロジェクトも偶然行ったものでした。このプロジェクトの後、私はこれからの建物には太陽光パネルが必要だといろんな場面で話すようになりました。

私はいろんなことに取り組む時に、いろんな方向にアンテナを貼っていると何かに引っかかっていくと思うんです。直線的に考えているようで、実はそうでもないんです。自分でやってみてそれをみてもう一度自分でどう考えるのかが大事だと思います。

建築を見るうえで大切にしてほしいことー

Q6:学生の私たちに建築を見る上で大切なことを教えてください。

特にないです。いいなと思う感覚は体が感じてくれると思います。自分の感覚でそこに身をおいて考えてみてください。でもそこまでは一般人でもできます。なのでプロフェショナルとしては、どうやって作っているのかを考えながら見れるとより良いと思います。

お話を伺って- HEADジャーナル編集部

竹内さんのお話を伺って、自分のフィールドにとどまらず様々な方面にアンテナをはることが、後に自分の想像を超えた成果となって、それが活動の軸となっていたことが印象的でした。それは竹内さんが新たなものに触れた時に自分はどう感じたか、自分だったらどう応用するかを常に意識していたことが関係しているのではないかと思います。私たちも今後、世間の評価でこれは良いものなんだとフィルターをかけず、自分がどう感じたのかを意識できるようになりたいし、それを自分の課題や研究に生かせるようになれれば嬉しいです。

取材・文責:上野山波粋、谷井美優

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